2016年12月25日日曜日

トゥルースの視線【113回】


トゥルースの視線 第113
人工知能とロボットの時代に生きる(2)
- 人工知能時代を生き抜くスキル ―
 

前回(視線第112回)で、英オックスフォード大学マイケル A. オズボーン准教授の研究により、1020年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、人工知能やロボット等に代替することが可能との推計結果が得られたことをお伝えしました。人工知能時代に生き抜くために必要な教育とは何かを考える上で、どのような能力やスキルがもとめられるかを考える必要があると思います。

脳科学者の茂木健一郎氏は、その著書「人工知能に負けない脳―人間らしく働き続ける5つのスキル」(日本実業出版社20158月刊)において、鳥と飛行機が飛ぶ仕組みが異なるように、脳科学的には人工知能の仕組みと脳は全く無関係であるとし、人工知能が発展することは人間の脳のアウトソーシングが行われることになり、それによって自由で人間らしい、創造的な働き方、生き方に変わるチャンスが来る、と述べています。そのためには、人工知能の特徴を把握することによって、私たち人間の脳の活かし方のヒント、人間にしかできない必要な能力、人間の脳でしか伸ばすことができないスキルを見出し、人工知能やロボットに奪われない仕事の付加価値は何か?を考える必要があると言っています。

 人工知能は、ロジックに強い一方、ルールや基準が決まっていないと何もできない、「正解が決まることにしか対応ができない」ので直感やセンスといった評価が入り込む余地がない。それに対して、人間の強みは「感情の豊かさ」「五感」にあり、欲望や目標を持つこと、意思決定することは人間の脳が得意としていることだ。そのためには、意識や感性を大事にして人工知能では計り知れない「パーソナリゼーション(個性)を」を磨くことが大切だと主張しています。そして、人口知能時代を生き抜く大きな武器として、5つのスキルを挙げています。

  コミュニケーション:「メタ認知」が働くと相手や状況を把握したうえでの適切な判断が可能となる。
※メタ認知とは、自分の行動・考え方・性格などを別の立場から見て認識する活動。

  身体性:「いい無茶ぶり」によるギリギリのハードルを越えた時、神経伝達物質ドーパミンが出る。

  発想、アイデア:感情論を抜きにして次々と思いつく問題解決力が優れた時代になる。「できない理由よりもできる理由をひとつでも探していく」という発想を持つことが大事。

  直感、センス:論理的で網羅的、緻密で非常に公平な思考ができる人の方が、かえって直感をうまく使うことができる。

  イノベーション:ひとりですべてのことを引き受けて何かのイノベーションを生み出すよりも、誰かとコレボレーションしてイノベーションを起こしていく形にシフトしていくだろう。

 また一方で、人工知能をチャンスと捉えられない人の阻害要因として、・権威主義に固執すること・過去の成功体験に囚われていること・スピード感を持っていないこと、を挙げています。教育については、「遊びながら勉強にもなる」という概念、教育(エデュケーション)と娯楽(エンターテインメント)を合成した言葉「エデュテイメント」を挙げ、これからの時代は学びと遊びの境界がだんだんなくなってくるのではないか?と。

2010年からSTEM教育を続けている当アカデミーは、まさに「遊びと学びの融合」を、コンストラクショニズムという教育理論に基づき、実践しています。次回は、OECDのプロジェクト「Education2030」に触れたいと思います。
 
 
トゥルース・アカデミー 代表 中島晃芳
 
 
 


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2016年11月16日水曜日

トゥルースの視線【112回】


人口知能とロボットの時代に生きる(1)
- 労働人口の半分がロボットに? ―


去る107日、夜テレビをつけたら、なんとあの松原仁先生(公立はこだて未来大学教授)が報道ステーション(テレビ朝日)にコメンテーターとして出演しているではないか!松原先生は日本の人工知能研究の第一人者であり、元ロボカップ日本員会会長で、当アカデミーの先輩たちは「松原仁」と書かれた表彰状をたくさんもらいました。ジュニアジャパンの理事であり、ロボカップ2017名古屋世界大会でもアドバイザーを務めて下さります。もはや、人工知能(AI)やロボットを抜きにして人間が生活できる時代ではなくなったことを、誰もが認識しなければならない時代になったことを改めて痛感しました。

一方で、人口知能やロボットに人間の職業が奪われることを心配したり、新たなビジネスチャンス、人間の生き方を変える絶好の転機と捉えたり、様々な議論が沸き起こっています。

株式会社野村総合研究所は、英オックスフォード大学の機械学習を専門とするマイケル A. オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究により、国内601種類の職業について、それぞれ人工知能やロボット等で代替される確率を試算。この結果、1020年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が得られたと発表しています。(201512月)

では、どのような職業が人工知能に取って代わり、どのような職業が代替されないのでしょうか?サイエンスライターの森山和道氏がレポートした、オズボーン氏の分析を紹介したいと思います。

ビッグデータ解析は既に弁護士などの文書チェック、契約文書の準備にも用いられ、かなり複雑な法律的相談にもシステムが用いられるようになっており、単純作業・肉体労働・小売だけでなく法律分野などでも自動化が進んでいる。日本の職業では、会計監査係員、税務職員、行政書士、弁理士などは機械にとって代わられる可能性が高い。事務職やホワイトカラー業務、そして賃金が高い業務はコンピュータによる代替が可能。一方、雑誌記者、中学校教員、弁護士、歯科医師などは代替リスクが低い。ソーシャルコミュニケーション、非定型業務である。翻訳や司書は中間。また代替されにくい仕事は意思決定者のような職務と、人でしかできない仕事とに二極化するだろうと。要するに、芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は人工知能等での代替は難しい傾向があり、一方、必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる可能性が高い傾向が確認できたとしています。

オズボーン氏は、自動化しやすい仕事としにくい仕事の違いは、「クリエイティビティ(創造性)「ソーシャルインテリジェンス(社会的知性)2つの要素を含んでいるかどうかだと言います。また、新たな職業も生まれます。今後の社会的対応については、オズボーン氏は「再教育が鍵となる」と述べた。今後は機械とうまく連携しながら社会的知性を活用しながら仕事をすることが求められるという。さらに、ソーシャル・インテリジェンスやクリエイティビティ自体がコンピュータ化される可能性についても触れて、クリエイティブな職種も将来は自動化される可能性があると指摘。例えばちょっとした会話をするチャットボットなら実現できるが、人を説得したり交渉したりすることは今の時点では難しい。ソーシャル・インテリジェンスについても情報を構造化できるものならば機械化できるが、人の頭の中にしか情報がないようなものの場合は難しいと述べました。 

10年〜20年後には、今の子供たちのほとんどが何らかの職業に就いていることでしょう。このような社会に子供を送り出すには、どのような教育が求められているのでしょうか?


トゥルース・アカデミー 代表 中島晃芳
 
 
 


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2016年10月19日水曜日

トゥルースの視線【111回】


NEST主催「ロボットの鉄人」報告
-高い目標が見えた!23日のロボット開発合宿-

 
去る917()19(月祝)3日間、国立オリンピック記念青少年総合センターにて、NPO法人科学技術教育ネットワーク(略称:NEST)主催「ロボットの鉄人2016」を開催しました。 
「ロボットの鉄人」は2009年からスタート、2013年にはICTを活用した教育実践事例の全国コンテスト「ICT夢コンテスト」でCEC奨励賞を受賞、今年で8年目となりました。ロボカップジュニアのジャパンオープンや世界大会出場を本気で目指す子供たちを対象とする、23日の合宿です。最大の特徴は、ロボカップOBの先輩たち(「鉄人」と呼びます)による指導。技術や開発手法だけではなく精神、文化を伝承していくことも、その目的の一つとなっています。

今回は、従来の「初心者コース」の代わりに、「ロボットサッカープロジェクト」の一環として「サッカービギナーズコース」を新設。レスキューコースに8名、サッカーコースに11名、サッカービギナーズコースに14(宿泊7名・通い7)の計33名が参加し、世界大会出場者7名の鉄人たちが後輩の指導にあたりました。
 
サッカービギナーズコースでは、ダイセン社製TJ3を使用してサッカーロボットを製作し、コンパスセンサーを搭載して自陣と敵陣を見分けるようにしました。また、これから独自のロボット開発のヒントを得ることができたようです。ロボットサッカープロジェクトは、東京都立産業技術高等専門学校での練習会や同校の文化祭「高専祭」での競技会を通じてロボットをさらに進化させ、ロボカップジュニアのビギナーズリーグの出場を目指します。
 
今年の特徴は、かつてこの合宿に参加した学習者が鉄人として指導する側となったこともあり、原点に戻ったことにあります。
 

その一つは、鉄人が自らロボットを作って参加者と対戦をすること。レゴ マインドストームEV3で製作した鉄人のロボットには、現役の時代に使っていた、ドリブルする機能とシュートする機能を1つのモーターで実現する仕組みが搭載されていて、参加者には大いに参考になったようです。また、TJ3ロボットも外装の仕方などが参考になりました。レスキューLineでは、3人の鉄人がそれぞれの特徴を持ったロボットを製作。競技ではその一台が圧倒的な優勝を果たしました。鉄人のロボットを目の当たりにして、自らのロボット開発の目標が見えたのではないのでしょうか?
 

して、「深夜の競技会」。宿泊する部屋にフィールドの一部を持ち込んで競技を行い、皆ベッドに座って他の人の競技を見ています。学習室とは異なり狭い空間なので、ロボットの息遣いが感じられるのでしょうか?皆が息を飲んでロボットの動きを食い入るように見つめていました。

レスキューLineでは最終日の競技でレベルを参加者に合わせるのではなく、世界大会を目指すのならばこれくらいのレベルが必要だ、というコースに参加者を挑ませたことです。高い目標を掲げ、それに向かって創意工夫と努力を積み上げていくことの大切さを鉄人たちが教えてくれました。

「ロボカップジュニア2017」は11月にノード大会、12月にブロック大会、3月にジャパンオープン(岐阜県中津川)7月に世界大会(名古屋)が開催されます。この合宿で朝4時まで頑張った人もいます。ここでの経験を原点として、皆が大会で大いに活躍してくれることを期待しています。




トゥルース・アカデミー 代表 中島晃芳
 
 
 


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2016年9月14日水曜日

トゥルースの視線【第110回】


まだまだ続くNESTの熱い季節
 
-海で山で室内でのICT科学の活動-


今年の夏もNEST (ネスト:NPO法人科学技術教育ネットワーク)恒例のプロジェクト活動として、8/23に一泊二日で神奈川県真鶴にて「ICTオーシャンプロジェクト」を、8/911に二泊三日で八王子市高尾にて「ICT科学キャンプ」を、8/28東京都立産業技術高等専門学校品川キャンパスにて「NESTロボコン」を開催しました。

今年はいくつかの新しい試みを行いました。

まず、「ICTオーシャンプロジェクト」。毎年行っているシュノーケリングや磯の生物、プランクトンの採集と観察、潮の満ち引きの観察に加え、今年よりiPadを使った2つの活動を始めました。

一つは、磯で収集した生物の写真をその場で撮り、マインドマップ・アプリを使って、各グループが話し合って写真を移動させて生物の分類を行いました。「マインドマップ」とは、自分の考えを絵で整理する表現方法で、1枚の紙の上に表現したい概念(テーマ)をキーワードやイメージで中央に描き、そこから放射状に連想するキーワードやイメージを繋げていき、発想を広げていくノート術・発想術のことです。マインドマップは、人間の脳の意味記憶の構造によく適合し、その仕組みを最大限に生かすツールなので、より早く情報を整理し、理解・記憶することができます。これを、iPadならば指1本で行うことができるのです。

もう一つは、この4月に発売開始されたLEGO educationロボティクス導入教材の最新版「WeDo2.0」を使った活動です。WeDo2.0は、iPadでプログラミングしてBluetoothを介してオンタイムで動かすことができます。まず、磯でどんなゴミが流れついているかを観察し、次に、アメリカの理数プログラム「GEMS(ジェムズ)」のアクティビティ「海流」で寒流と暖流の混ざり合いや海に流れ込んだ汚染物質が世界の海に広がっていく様子を実験しました。そして、最後にWeDo2.0でロボットを使って、2台のロボットが協力してゴミを回収するというミッションに取り組みました。

次に、新プロジェクトの「ロボットサッカー・プロジェクト」。ロボカップジュニアのサッカーチャレンジには、初心者でも参加できるビギナーズリーグがあります。サッカー競技ができるロボットを製作する講座だけにとどまらず、製作したロボットを発展させる活動や練習競技会を経験し、ロボカップジュニアへの参加を目指すことのできるプロジェクトです。TJ3というダイセン工業社製のロボットキットを組み立て、C言語が学べるC-styleというプログラミングソフトでプログラムを作成します。7/8月にかけて全7回の「活動(1)サッカーロボット入門講座」を開催し、30名が受講。また、8/21科学イベント「かわさきサイエンスチャレンジ」では、75名が体験会を受講しました。来たる9/17()19(月祝)に行う二泊三日の合宿「ロボットの鉄人2016」でも行います。ここでは、「活動(1)サッカーロボット入門講座」に加え、「活動(4)発展講座・ オリジナルロボットにしよう!」「活動(5)サッカー競技交流会&エントリー説明会」も行います。その後、10月・12月には、都立産技高専ロボカップ部の先輩たちからアドバイスしてもらえる「活動(7)ロボカップジュニア・ビギナーズリーグ練習会」へとつながっていきます。

「ロボットの鉄人2016」まだ参加は間に合います。通いか宿泊か?どの活動にするか?を選べます。奮ってご参加ください。NESTの熱い季節はまだまだ続いています。

■ロボットの鉄人2016・ロボットサッカープロジェクト
 


トゥルース・アカデミー 代表 中島晃芳
 
 
 




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2016年8月5日金曜日

ロボカップ2016ドイツ・ライプツィヒ世界大会報告


rescuejo、総合5位・ロボットコミュニケーション賞受賞!
-駆け抜けた!怒涛の1カ月-
 


 630日~73日、バッハの過ごした音楽の街であり、旧東ドイツ地域の「平和革命の地」と呼ばれるライプツィヒにてロボカップ2016世界大会が開催されました。市の中心部からやや離れた会場のライプツィヒ・メッセは、この地域では最大の見本市会場。広大な敷地に、大きなロボットやフィールドを使用するメジャーリーグ会場、企業のブース、カフェやレストラン、歴代のロボカップトロフィーやTシャツが展示されたコーナーがありロボカップ一色に染まった雰囲気でした。
 

 会場ライプツィヒ・メッセ

 ジュニアリーグに日本からは全15チームが出場。昨年から各チャレンジ1チームのみが世界大会に推薦されるのが基本でしたが、今回は他国チームの辞退によりサッカーライトウェイトプライマリ2チーム+オープン2チーム、OnStage(旧ダンスチャレンジ)プライマリ1チームが日本から追加推薦されることが5月末に知らされました。これにより、当アカデミーからOnStageプライマリに日吉校で結成した「rescuejo (西村H・吉備T・竹島I・鈴木T)」が出場決定!通常であれば3月末のジャパンオープンで出場が決まり、約3カ月の準備期間があるところを1カ月も無い状態でした。特にOnStageは、今世界大会から新ルールになったことで、その対策と、英文書類やプレゼンテーション準備など課題山積み。怒涛の3週間ちょっとを、メンバー保護者・当アカデミースタッフ総出で協力してメンバーを叱咤激励。息切れ状態でやっとたどりついたドイツでした。当然、ツアーも急な追加手配となり、3月末から出場が決まっていたチームの班よりも遅い出発、早い帰国、ホテルも会場から離れたところ…と追加チーム班は過酷な状況。とはいえ、市の中心部のホテルに宿泊できたので、街の雰囲気が感じられ、毎日ヨーロッパ名物トラムに乗って会場まで通えたことは、楽しい思い出となりました。伝統的な市の中央駅の正面にロボカップの横断幕が掲げられ、街のあちこちにポスターもあり、現地の新聞一面で紹介されるなど、歓迎ぶりは十分に感じられました。
 
 ライプツィヒ駅
 
OnStage(オンステージ)」と名称が変わり、新ルールとなって大きく変わった点は、オープンテクニカルデモンストレーション(以下OTD)という審査が新たに加わったこと。パフォーマンス40%、インタビュー30%、OTD30%の割合で各分野審査され、総得点で順位が決まります。OTDはステージ上で、各チームが5分以内で、ロボットの特徴や技術、開発過程などを実際に動かして実演しながら紹介するのがルールです。パフォーマンスは2回行い、得点の高い方が採用されます。
 
 パフォーマンス風景
 
 OnStageには25か国からプライマリ19チーム、セカンダリ23チームが参加。スケジュール概要は出発3日前にメールが来ましたが、あとは全て現地についてから情報収集、という例年の世界大会スタイルなので、英語がキャッチしづらい日本人チームは協力し合って情報交換することが重要でした。

6/28深夜にホテル到着、翌朝830から受付開始でした。無事に受付を済ませるとTシャツやバッグなどの記念品を受け取り、その日は会場で調整ができます。OnStageは到着したチームからインタビューも開始されました。国内大会ではインタビューは比較的高得点だったrescuejoは英語での不安を感じつつも、書類はしっかり準備、自分のロボットのセンサー名の英語ぐらいには反応できるように備え、通訳付きで挑みました。審査員5名と、ドアが閉められた個室での約15分の面接試験のようなものです。rescuejoメンバーは、比較的落ち着いて対応できたと安堵な表情で出てきました。
 
 本競技会初日はパフォーマンスの1回目です。国内大会のように、リハーサルが無いので、段取りや音響との打ち合わせが満足に行かずドタバタでパフォーマンスを終えるチームが多い中、rescuejo90%の出来栄えで、審査員含め会場は一番の盛り上がりを見せました。パフォーマンス1回目だけの得点では堂々1位でした!
 
  オープンテクニカルデモンストレーション風景

2日目はOTD。この新ルールの対策をしていないチームが、プライマリでは多い状態でした。rescuejoは、ルールは読み込んでいたものの、英語でOTDを披露する準備時間が無く、パワーポイントでは英文で説明し、ステージでは堂々と日本語で話すことにしました。パフォーマンス1回目でうまくいかなかったロボットの動きが、この場で実演できたことで、ここでも会場を沸かせることができました。インタビューが質疑応答形式であるのと違い、OTDは観客も聴くことができるプレゼンテーションで、いわば学会の発表のような雰囲気です。密室で行うインタビューは、審査員とメンバー以外見ることができない場なので、OTD形式は指導者や保護者にとっては好評だったようです。そしてこの日の夕方にジュニアパーティーが催されました。バスケやバレーボールなどスポーツが自由にできる場が用意され、言葉が通じなくても楽しく過ごせるように工夫されていました。rescuejoはパフォーマンスで使用しているピロピロ笛をお土産として、海外の友人たちに配っていました。 
 
 ジュニアパーティーの様子

3日目はパフォーマンスの2回目。1回目の経験を経て、仕上げてくるチームが多い中、rescuejoは準備不足のあらゆる懸念が表にでてしまった、残念な結果となってしまいました。1回目がうまくいった心のゆるみもあったかもしれません。悔しさとがっかりと、怒涛の1カ月を駆け抜けた「終わった」という脱力感。世界大会だからこその、あらゆる感情が凝縮されて湧き出てきました。この日の夕方に他国チームと協力して行う「スーパーチーム」チャレンジのルールとチームが発表。rescuejoはスロバキアとポルトガルのチームと組むことになりました。気持ちを切り替えてスーパーチーム競技のロボット作りに夢中になり、他国チームメンバーとみんなで2000過ぎまで一緒に調整していました。

  super team練習風景

 旧ダンスチャレンジのスーパーチームチャレンジは、これまで特にルールが無く、他チームとテーマや音楽を決めてダンスを披露するという形式でしたが、OnStageとなった今年は競技形式のルールが発表されました。ステージ上の2本のラインの間を、ロボットがバトンタッチしながらリレーするというものです。制限時間は2分で、バトンタッチや往復できるごとにポイントがつきます。リレーする以外のロボットは応援ロボットとしてパフォーマンスするのが奨励され、それもポイントになります。
最終日はスーパーチーム競技本番と結果発表、表彰式。rescuejoはホテルに帰ってからもロボット調整に励んでいるメンバーもいましたが、なかなかリレーは上手くいかず。他チームも完璧なリレーはプライマリでは難しく、「みんなで応援する!」という人間のパフォーマンスが主になっていた感じでした。初めての試みだったので成功率は低かったですが、ルールがあってその目的に向かって活動する競技形式は、子供たちにとって有意義で円滑なコミュニケーションが生まれやすい環境ができる良い方法であると感じました。
 
 
rescuejoは総合5位、ベストロボットコミュニケーション賞という部門賞を受賞できました。他日本チームも皆、部門賞を受賞できました。今年は部門賞にトロフィーが無かったことがちょっと残念でしたが、急な出場決定から短期間でここまでの結果を得られたことは立派です。その日の夜は、ライプツィヒ大学近くの展望レストランで、美味しいドイツ料理を食べて最後の夜を楽しみました!観光の時間もほとんどありませんでしたが、生涯忘れられない貴重な体験ができた充実した滞在期間になりました。
サッカーやレスキューでも日本チームは良い結果を得ていました。今回、OnStageスタッフとして入っていたのでほとんど他チャレンジが見られず、詳細報告できず申し訳ないのですが、8/28(日)のNESTロボコンで、各チャレンジで出場した関係者からの世界大会告会が開催されます。来年の大会に向けて対策やヒントが見つけられる機会です。ぜひ、ご参加ください!!
 
rescuejo引率者・池田)
 
 
 


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2016年6月23日木曜日

トゥルースの視線【109回】


ロボット・サイエンスが目指すもの
-ロボット教育の意義を実現するには? -
 
 当アカデミーは、2000年にブロックとロボットを教材としたSTEM教育を始め、2002年からロボカップジュニアに参加、ロボカップ2004ポルトガル・リスボン世界大会以来、ほぼ毎年世界大会に子供たちを送り出し、世界チャンピオンも輩出しています。子供たちの華々しい活躍の舞台裏で、私たちが常々気にしているのは、教育的意義が実現できているかどうかという点です。

 では、ロボット教育の意義とは、どこにあるのでしょうか? ロボット白書2014では、「ロボットを用いた教育は、人間の持つ動きや形に対する認知のメカニズムに強く働きかけることから、学習者に強い印象を与えることができる。結果として、出力されるロボットの動作も、理解しやすいという特長を持つ。また、ロボットは、思った通りではなく作った通りに動作することから、学習成果のリアルな評価を容易に実現できる。さらに、ロボット技術は、コンピュータからモータ制御、センシング技術、機械要素といった横断的、総合的な技術の結晶である。そのため、課題発見能力、自己解決能力を涵養するPBL(問題解決型学習)法等により、複数の要素技術を統合し、統合したシステム全体を最適化する能力を身につけさせる構成論的な教育に適しているといった特長がある。(中略) さらに、ロボットコンテスト活動の多くは、グループで行う製作活動を中心としており、協調作業のスキル獲得やリーダ人材教育にも適用可能である」と記述しています。

 Mindstormsの生みの親シーモア・パパート(視線106)は、『デバグの効用』を唱えます。「学校では間違いは悪いものだと教える。(中略)デバグの哲学は、これと正反対の態度をとるようにと勧める。間違えは、何が起こったのか調べ、何が間違ったのかを理解し、理解することによって修正するように我々を導いてくれるから、有益なものである」(未来社「マインドストーム」)。「デバグ」とは、プログラムのバグ(誤り)を発見し取り除く作業であり、プログラム作成における最も難しい段階である、と言われます。原因を推理して仮説を立て、その証拠を集めて問題の所在を絞り込むデバグの作業は、科学的思考訓練そのものなのです。

 また、ロボット白書2014では、次のような批判にも言及しています。「教育という側面から見ると ロボット教育にどのような教育効果があるかわからない、単に体験して終わりになっていないかとの批判を受けてきている。(中略) さらに、ロボット教育を効果的に使える学習手法であるPBL等の問題解決型教育手法を用いた場合、技術的な問題に対して付け焼き刃的、場当たり的な解決手段をとる習慣がついてしまうという意見がある。抜本的、理論的な解決を探索しようとしない、探索するためのスキルも身に付かないという指摘である」

 ロボットコンテストWROWorld Robot Olympiad2014年世界大会で優勝をした奈良教育大付属中学・科学部を指導する葉山泰三教諭も、「すぐに教えてしまうと、子どもが与えてもらうことが当たり前だと思ってしまうんです。そして、創造する側の楽しさを知らない子どもが多いと感じます。(中略) 生徒が『先生冷たい、先生いじわる』と思わずに、それを楽しめる関係を築けることが大切だと感じています。それは学校だけで構築されるものではなく、家庭教育も重要です。いくら学校で私がそのように伝えても、家で親が『教えてくれないなら辞めたら』と生徒に言ってしまうと、子どもたちもそう思ってしまうんです」と述べています。(東洋経済ONLINE)

 当アカデミーのロボット・サイエンスの講師は、全員がジャパンオープン、世界大会出場経験者の先輩たちで、理工系の大学や大学院に進学し、中にはロボットの研究を続けている者もいます。その講師たちが首を傾げることがあります。それは、自分たちがかつて小中学生だった頃と、今自らが指導する小中学生との取り組み方の違いです。分からないと自分でよく考えもせずにすぐ質問をする、家では何もしていないで授業中しかロボットに触れていない…等々。彼らは言います。「授業ではどんな難しいことでも扱うことはできるが、基本的なことは日々の積み重ねでしか定着することはできない。だから、もっと家でロボットをいじってほしい」

ロボカップジュニアのルールの歴史は、大人の過干渉から子供の自主的な学習をいかに守るか? その闘いの歴史である

-ロボカップジュニア関東ブロック初代委員長 中島晃芳-

 

                               




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2016年6月1日水曜日

トゥルースの視線【108回】


リトル・ダヴィンチ理数教室のカリキュラム再編成について
-より年齢と理解度に合わせたカリキュラムに-
 
 
当アカデミーが根底においている「コンストラクショニズム」に基づく教育を教科の学習に導入することを目的に、2003年から試行錯誤してカリキュラム作成を始めました。そして、2005年にスタートした「ハンズオン算数くらぶ」は、2006年「リトル・ダヴィンチ」に、2011年に現在の「リトル・ダヴィンチ理数教室」へと発展して参りました。その間、カリフォルニア大学バークレー校ローレンスホール科学研究所が開発する直接体験型の理数教育プログラム「GEMSGreat Explorations in Math and Science:ジェムズ)」やアメリカの環境教育プログラム「Project Wild」、データロガーや電子ブロックなどの電子教材、Scratchによるプログラミングなどを積極的に取り入れてきました。

 
2006年「リトル・ダヴィンチ」開講に際して、次のように紹介いたしました。『「人類史上最も偉大な天才」とも「真理を追い求めた知の巨人」とも称され、芸術から科学まで、あらゆる分野に圧倒的に卓越した才能を発揮したダヴィンチ。子供は皆、科学者であり、芸術家として生まれてきます。誰もが皆、知的好奇心や探究心を十分に持った「小さなダヴィンチ」なのです。その資質を十分開花させたいと願い、「リトル・ダヴィンチ」と名づけました』。数学者や科学者が行っている研究行為を、子供たちも実際にやってみる機会を創るという、その理念は全く変わっておりません。

 

この5年間で「リトル・ダヴィンチ理数教室」の受講生が飛躍的に増え、保護者の皆様の関心の高さと期待の大きさをひしひしと感じております。しかし一方で、特に算数において、授業レベルとの不一致から一部問題も起きるようになってきたようです。最終段階では、指導要領の学年をはるかに超えている内容も多く含まれているので、一朝一夕にできるものではありません。それまでに、規則性あるものを美しく感じる心、規則性を発見し、数式で表現できる力を十分に養っておく必要があります。そのゴールを目指して、各ステップのカリキュラムを体系的に組んでおります。

当アカデミーの授業カリキュラムは、「心理学のモーツァルト」と称されたヴィゴツキーが唱える教育理論『発達の最近接領域』と深く関連しています。「子どもは集団活動における模倣(注:教師や仲間とならできること)によって、自主的にすることのできることよりもはるかに多くのことをすることができる。大人の指導や援助のもとで可能な問題解決の水準と、自主的活動において可能な問題解決の水準とのあいだのくいちがいが、子どもの発達の最近接領域を規定する」と述べています。すなわち、『発達の最近接領域』とは、「一人ではできないことでも、仲間との関係において、あることができる、という行為の水準ないしは領域」のことなのです。


これは、課題設定の方法として当アカデミーでも最も重視している考え方です。課題設定が子どもの発達水準よりも低すぎれば意味がありません。また、逆に高すぎれば、自らの活動から自分で知識を獲得し構築することができず、いわゆる「教えてもらわなければ、できない」という困った状態になってしまいます。要するに、自分一人では解決できないけれど、お友達と意見を交換したり刺激を与え合う中で、あるいは先生と一緒に考えたり、ちょっとしたヒントやアドバイスをもらったりしながら、自分の力で到達し得るレベルの課題設定をしなければならない、ということなのです。

その観点から、学年幅を広げ、もう少し緩やかな段階を踏んでコースの最終目標に到達できるよう、カリキュラムを再編成することに致しました。新鮮な発見が学問には不可欠なので、数量は学校より少し先取り、図形は大幅な先取り学習となることには変わりません。それに伴い、最終ステップでは、さらに高学年内容を追加する予定です。また、算数・数学学習の観点から、プログラミング学習をさらに低学年からスタートさせる予定です。さらに強力なカリキュラム体系となりますので、ご期待ください。

 


トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳


 

 


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2016年4月23日土曜日

トゥルースの視線【107回】


ブロック・サイエンスの問題解決学習とは?
-推論・実験・検証の学びのサイクル-


「問題解決力とは何か?」 あまりに漠然としていて、捉えどころがないような気もします。一般的に、問題解決力とは、「課題を正しく理解し、解決策を立てて実行する、そして、その結果を検証し、計画の見直しや次の計画への反映を行う能力」を指しているようです。 

また、問題解決力を構成する要素として、次のことが挙げられています。

①課題発見 (現状と目標[あるべき姿]を把握し、その間にあるギャップの中から、解決すべき課題を見つけ出す)

②課題分析 (課題の因果関係を理解し、真の原因[本質]を見出す)

③論理的思考 (複雑な事象の本質を整理し、構造化[誰が見てもわかりやすく]できる。論理的に自分の意見や手順を構築・展開できる)

④計画実行 (目的と目標を設定し、順序立てて計画して確実に実行する)

⑤検証 (計画して実行した結果を正しく評価し、計画の見直しや次期計画への反映を行う)

 教育の世界では、「問題解決学習法(Problem-Solving-Learning)」または「課題解決型学習(PBLProject-Based Learning)」と呼ばれる学習法があります。アメリカの教育学者のジョン・デューイ(1859-1952)によって提唱されました。学習を能動的なものと規定し、知識の暗記にみられる受動的なものを脱却し、自ら問題を発見し解決していく能力を身につけていくことに教育の本質を求めるというものです。ここでは、教師が準備し設計したステップを踏んで学んでいく系統学習ではなく、生徒自身の自発性、関心、能動的な姿勢から、自ら体験的に学んでいく努力の価値を評価していきます。最近盛んに耳にする「アクティブ・ラーニング」(視線97回参照)に当たります。

 当アカデミーの「ブロック・サイエンス」コースでも、「問題解決学習」と呼ぶアクティビティを全ステップで一貫して行っています。簡単にいえば、「困っている人(動物)を助けるものをブロックで作ろう」というものです。例えば、ブロックビルダーⅡ(年中対象)の授業では、野生動物園を舞台にする「アニマル」という問題解決アクティビティを行います。まず、困っていたり不満だったりしている動物の絵を見て、何に困ったり不満だったりしているのか?(課題発見)、なぜ困っているのか?(課題分析)を皆で話し合います。その上で、子供たちは動物園の運営者として、その問題を解決するためには、どのような施設や設備、居住空間を作ったらいいか?(解決のための推論)について意見を出し合います。その上で、各自が自分の考えに沿って制作(計画実行)を行います。制作後、「自分はこう考えてこれを作った。ここはこんな工夫をした」などをクラスのお友達に発表します(論理的思考)。そして、最後に実験をして、その動物の問題が解決できたかどうかを確かめます(検証)。MITメディアラボ名誉教授のシーモア・パパート(視線106回参照)は、自身が提唱する教育理論「コンストラクショニズム」において、出鱈目な試行錯誤ではなく、「推論→実験→検証」という『正しい学びのサイクル』に基づく試行錯誤こそ、意義ある学習となる、と唱えています。

小学生の中学年~高学年の授業では、「ドラムペダルがないので作って下さい」「病院のリクライニングベッドを作って下さい」など、各単元の章末問題として問題解決学習を用意しています。メカニズム(物理・力学)の実験を通しての基本的な原理学習、モデル研究、モデルのモーターによる駆動とプログラミングによる制御を学んだ後に行います。これらの問題は、実際の仕組みを調べないと作れません。ですので、「これまで学んで身に付けた知識や技術と、新たに得た情報を基に問題を解決する」という、まさにOECDが行う国際的な学力調査「PISA」が求める学力(=知識や情報の活用力)を育成するカリキュラムとなっているのです。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

 

 


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2016年3月30日水曜日

トゥルースの視線【106回】


プログラミング教育・ロボット教育のルーツ「シーモア・パパート」
『マインドストーム』-子供、コンピューター、そして強力なアイデア -
 
常々お話ししておりますように、当アカデミーでは、マサチューセッツ工科大学メディアラボのシーモア・パパート名誉教授が提唱する教育理論「コンストラクショニズム」に基づいた教育を提唱し、実践しています。教育関係者からは、「問題解決型の授業とは、こういうものなのか!」「理論と実践が完璧に一致している」という評価を頂いております。

ところで、シーモア・パパートとは、どんな人なのでしょうか?

パパートは、192831日に南アフリカで生まれた数学者であり、コンピューター科学者、発達心理学者です。後にMITメディアラボとなるMIT建築機械グループ認識学習研究班の創設者の一人でもあります。

1959年から5年間、スイスのジュネーブ大学で、ジャン・ピアジェの下で研究。ピアジェは発達心理学者として、質問と診断から成る臨床的研究の手法を確立し、『構成主義』を唱えました。これは、「子供は生まれながらにして積極的な知識の建設者である」という言葉に象徴されるように、ある対象について、子供たちが自分自身の力で理解を組み立てられるような形で教育すべきであるという学習・教授理論です。ピアジェはかつて「パパートほど私の考えを理解してくれる者はいない」と言ったそうです。ピアジェとの研究がパパートに大きな影響を与え、独自の教育理論「コンストラクショニズム」の考案につながりました。

1964年にマサチューセッツ工科大学(MIT)に移ります。そこで、「人工知能の父」と呼ばれるマービン・ミンスキーたちと共に、MITの人工知能研究所を創設。ミンスキーはパパートを「生きている内で最も偉大な数学教育者」と呼び、二人で人工知能の歴史の中でも大きな議論を呼んだ『パーセプトロン』を共著。本書は、ニューラルネットワーク解析の基礎を築いた一方、そこで示した結果により1960年代の第1次ニューラルネットワークブームを終わらせ、1970年代の「AIの冬」をもたらす原因のひとつにもなったとのこと。

1967年、ピアジェとの研究成果を生かし、コンピューターの使用を通じた児童の思考能力の訓練を目的とした教育用のプログラミング言語「LOGO」を開発。LOGOの最大の特徴は「タートル・グラフィック」です。画面上の亀(タートル)に動きと線描を命令し、プログラムに基づいて線で描かれた図形ができます。このLOGOを使った教育実践とその成果、教育理念と手法を著したのが、その著書『Mindstorms(マインドストーム)― 子供、コンピューター、そして強力なアイデア』(1980)。子供たちの「心」に「嵐」を吹き起こすという、強烈なインパクトのあるタイトルです。レゴ社のロボットキット「Mindstorms(マインドストーム)」の名前は、このパパートの著書の題名から取られたのです。

子供たちの理解に役立つよう、LOGOで操縦可能な亀のロボットがMITで作られたのは1969年。その後LEGO社との共同プロジェクトが立ち上がり、パパートの「コンピューターを搭載したレゴブロックができないか?」という提案により、MITメディアラボで「マインドストームRCX」が誕生。第2世代NXTを経て、現在のEV3となります。また一方で、「パーソナルコンピュータの父」と言われるアラン・ケイのダイナブック構想にも影響を与えました。アラン・ケイが自ら開発した「Squeak(スクイーク)」は、LOGOの手法を踏襲しています。また、パパートの下でレゴ・マインドストームの開発に携わったMITメディアラボのミッチェル・レズニック教授が、LOGOSqueakの系譜を引き継いだ、「Scratch(スクラッチ)」を開発。現在では、子供のプログラミング教育で大流行となっています。

このように、コンピューター教育、ロボット教育やプログラミング教育の原点にいるのが、シーモア・パパートなのです。

知識は、理解するということのほんの一部に過ぎない。本当の理解というものは実際の体験から生まれるものである。

― シーモア・パパート ―

 


トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

 






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2016年2月18日木曜日

トゥルースの視線【105回】


ロボット・AI(人工知能)の時代に生きる (その2)
- AIが人間のプロ棋士に勝利! -


128日、人間に勝つのは少なくとも10年後と言われていた囲碁で、「AIが人間のプロ棋士に勝った」との報道がありました。

1994年コンピュータがチェッカーの世界チャンピオンを打ち負かし、その3年後IBMのスーパーコンピューター「Deep Blue」がチェスの世界チャンピオンから勝利を収め、オセロ、スクラブル、バックギャモンといったゲームでも、コンピュータが人間に勝利しました。将棋に関しては、2010年以降コンピュータ将棋とプロ棋士との対戦を継続してきた情報処理学会が、コンピュータ将棋の実力はトッププロに追いついておりプロジェクトの目的を達成したとして、20151011日コンピュータ将棋プロジェクトの終了宣言を発表しています。囲碁は19×19の格子が描かれていた盤面で展開し得る指し手の数は10360乗にのぼるそうです。最善の手を求めてそれぞれの手すべてを評価していくことは、コンピュータにとって大変な作業になるため、人間に勝つのにあと10年はかかると言われてきたのです。囲碁で人間に勝ったのは、グーグルが4億ドルで買収したブレイン集団「DeepMind」。1510月、同社のロンドンオフィスで人間対コンピュータの試合が行われ、「AlphaGo」と呼ばれる囲碁ソフトが、欧州の囲碁大会で三年連続優勝した現欧州チャンピオンであるファン・フイ氏との対局に臨み、従来のコンピュータ囲碁で多く使われてきた小さな碁盤(計算量が少ない)ではなく標準の19路盤でハンデをつけず、5局すべてでチャンピオンを倒したとのことです。

127日に『Nature』誌に掲載されたAplhaGoのシステムを説明する論文で、AI技術のなかで近年、特に重要性が増してきている「ディープ・ラーニング(深層学習)」と呼ばれる手法が、非常に優れた形で利用されていることが明らかになりました。

今、「第3AIブーム」と言われています。第1次ブームはArtificial Intelligence=AIと名づけられた1956年のダートマス会議以来で、自然言語処理による機械翻訳の研究が中心でしたが挫折しました。第2次ブームは1970年代後半から80年代にかけて。この時期に脳の神経細胞の回路に近い仕組みをコンピュータでつくると、脳と同じようなことができるのではないか、という発想から「ニューラルネットワーク」が注目されました。そして、2000年代半ば、ジェフリー・ヒントンという研究者が、ニューラルネットワークの階層を4層、5層と増やし、精度の高い機械学習の実現に成功。この「ディープ・ラーニング(深層学習)」の研究が、今の第3AIブームのきっかけになったのです。この技術は、画像認識や音声認識等の分野に活用され、2012Googleの開発したグーグル・ブレインが、猫の概念を学習することに成功しました。従来は顔がどういうものかを人間がコンピュータに教育する必要がありましたが、Google1週間にわたりYouTubeの動画をコンピュータに見せつづけたところ、猫がどういうものかを学習し、猫を認識できるようになったというのです。これは、人間の脳の構造をソフトウェア的に模倣し、人間が関与せずに学習を進める、いわゆる「無教師学習」=「self-taught learning(自己教示学習)」の一つです。AlfaGoは、3,000万種類の棋士の手を学んだ後、プログラムが自分で囲碁を打てるように訓練し、ソフトウェア同士を戦わせて打ち手を収集し、これを使って名人を倒すことのできる新しいAIを養成したとのこと。この技術の将来的な目標は、気候変動から複雑な病気の解析まで、実世界の重要な問題を解決することだそうです。

Googleは、来たる3月に現在最強と言われているプロ棋士、韓国のイ・セドル9段とAlphaGoの対局を予告しています。また、様子はYouTubeで世界にストリーミング中継される予定だそうです。果して結果は? 楽しみです。

 
トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

 





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