2019年12月8日日曜日

【第145回】 NHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」を観て(その2)

 

9/29放映NHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」は、AIで美空ひばりを蘇らせて新曲を披露するというプロジェクトです。「新曲を歌わせる」ということにより、このプロジェクトにはさらにさまざまな難問が待ち受けていました。

作詞を担当した秋元康は、曲の中に「語り」を入れることを希望しました。しかし、ひばりの語りは生前歌った1500曲の中にはほとんどなく、「悲しい酒」にしかありません。決定的に教師データが不足しています。そこに救世主が現れました。ひばりは、養子縁組をした甥の加藤和也を溺愛しており、地方公演のときは必ず連れて行ったものの、小学校に入るとそれもかなわず、代わりに童話をカセットテープに吹き込みました。和也はひばりの留守中それを聞いていたそうです。そのカセットテープが残っており、和也が提供。これを教師データとしてAIが自己学習を繰り返し、新曲の語りの部分を作ったのです。

曲が完成し、晩年のひばりを支えた美空ひばり後援会のメンバーが視聴。しかし、「力が感じられない」など厳しい意見が浴びせられます。秋元も「人間味がない。的確にデータで作っているので、雑味というか、人間臭さとか温かみとかに欠ける。これでは、人を感動させることはできない」と。これを聞いたAIプログラマーであるヤマハの大道龍之介は、「泣きそうになる」と言いつつも、「特徴はたぶん捉えていると思う。でも、ディテールが本物のそれではない。本当に細かい何かに再現出来ていない部分があるのではないか?」と決して諦めることはしません。 

そこで、歌声分析の専門家に依頼したところ、モンゴルの「ホーミー」という歌唱法と同じように「高次倍音」がひばりの歌声には出ていることが判明。通常1000~5000ヘルツで歌っている声の他に、7000ヘルツを超える(数オクターブ上)のもう一つの音「高次倍音」を同時に出して一人でハーモニーを作っていた。しかも、必要な箇所だけピンポイントに出して、一音ごとに音色を変えていたというのです。AIプログラマー大道は何度も楽譜と照らし合わせながら歌を聞いて、音程やタイミングのズレを見つけました。AIは楽譜に忠実に歌うことに留まっていたのだ。そして、楽譜から周波数(声の高さ)を作るAI、周波数から音色を作るAI、ビブラートのAI、タイミングのAIなど、何段階かのひばりAIを作り、それらを協調して動かし、音程とタイミングのAIの関与を強めてみました。そして1年近く経って、高次倍音が出現したのです。

そして、30年ぶりに3DCGに映し出された美空ひばりが、100人のスタッフ、200人近いファンの前で新曲「あれから」を歌います。皆涙を流して感動し「無限の可能性を感じる」「神様に出会ったような気がする」と、このプロジェクトは大成功を収めました。11/19日本コロムビアは、CD/カセットテープで12月18日リリースすることを発表。大晦日の「第70回NHK紅白歌合戦」で歌声が披露されることも決定しました。

AIに人間が支配されるのではなく、人間が何をAIに学ばせるのか?AIをどうコントロールするのか?が大切なことをこの番組は伝えました。AIにはない想像力を持った人間が、その創造性と革新性を発揮し、たゆまぬ努力をすることでAIを進化させ、活用することができるのです。Truthの子供たちを、これらができる人間に育てなければならないという思いを一層強くしました。

―人間の思いを科学がサポートする。科学や技術は人間の夢とか願いを具現化して奇跡を起こすのだと思う― 作詞家・秋元康


AI美空ひばり「あれから」

  https://www.youtube.com/watch?v=nOLuI7nPQWU


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

トゥルースアカデミー
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