2020年6月8日月曜日

【第150回】新型コロナが教育に投げかけたものは?

 ~ Online授業と子供たちの学び ~

Truth Academyでは、4/16~6/5の間、Onlineで授業を提供してまいりました。今年度から、児童・生徒に1人1台の端末を整備する「GIGAスクール構想」が始まっていますが、5/25朝日新聞では、「教師との双方向オンライン授業」を実施した学校は小学校で3.7%、中高校で6.5%、学習塾では小学生36.9%、中学生26.1%、高校生36%と報じています。学校や塾によることに加え、WiFi環境が整っていなかったり、両親の仕事の関係でPC操作などをフォローできなかったりなど、家庭環境によっても「教育格差」が問題となっており、日本財団「『18歳意識調査』 第26回 学校教育と9月入学」では、「休校措置により、教育格差を感じる」という回答は58.6%に達したそうです。学校が再開し、平日や土曜の授業を増やしたり、夏休みを短縮したりして、失われた授業時間を懸命に取り返そうとしています。

新型コロナが浮き彫りにしたものは、教育格差だけではありません。加速させるアメリカと中国の覇権争い、中国による香港国家安全維持法の制定と施行、アメリカに端を発した人種差別問題、追い打ちをかけるように日本を襲ったこの梅雨の豪雨とその被害、医療体制の脆弱さ、遅れている日本のIT化、都会一極集中型の問題点、海外依存の生産体制、コロナクラスターの出た米軍基地の問題、ステイホームで増えるDV、増加する失業率(6/30時点で完全失業率2.9%)、中小零細企業を中心とした相次ぐ倒産(7/10時点で332件、東京商工リサーチは今年1万件を超える予想)や休廃業(東京商工リサーチでは今年5万件と推計)、働き方の在り方・・・、どれもこれまで抱えてきた社会の問題がコロナをきっかけに露わになった気がします。今の子供たちが待ち受けている社会は私たち大人が作ってきた、あるいは見て見ぬふりをして放置してきた矛盾に満ちた社会かもしれません。そのような社会に巣立っていく子供たちに、どのような「学び」が必要なのでしょうか?

教育研究家の鈴木大裕氏は、「休校を機に進むオンライン化の議論は、僕にとって、残念な意味で予想通りでした。議論の前提にある『学び』の概念が、あまりに貧弱なことです。重視されているのは、受験をゴールととらえた『お勉強』ばかり」「学校の目標が『点数』になったとたんに、子ども一人ひとりの違いは序列化され、競争社会に飲み込まれてしまいます。そうではなく、多様な幸福の形を示し、一人ひとりの自己実現を教育の目標ととらえる。それが『勝ち組』『負け組』という今の社会から脱却する道ではないでしょうか?学校は『人を育てる』場所です。授業はその一部にすぎない。オンライン学習だって、普段会えない人とつながるような、教育の可能性を広げる方法がたくさんあるはずです」と述べています(7/3朝日新聞「新型コロナ オンライン 学べるもの」)。そして、「人に魚を与えればその人は一日生き延びることができるが、人に魚の釣り方を教えればその人は一生生きていくことができる、という中国のことわざを思い出す。魚を与えるか、釣り方を教えるか…。もちろん、オンライン授業では学び方を教えられないというわけではない。ただ、学びの本質を変えずに媒体だけ変えて上から施しても意味がないということだ」(5/12朝日新聞デジタル論座)とも。

工藤勇一氏(横浜創英中学・高校 理事・校長)と日野田直彦氏(武蔵野大学中学・高校校長兼武蔵野大学付属千代田高等学院校長)との対談(6/9日経電子版)で、日野田氏は「ITは手段であって、目的ではないですよね。これを使ってどのように自主性のある個人を育成するのかに焦点を当てるべきです」と。工藤氏は「小学校時代に塾などで詰め込み教育を受けてきた子供たちが多いんです。散々与えられ続けると、自分で学ぶことを忘れてしまう。何をしたらいいか分からなくなってしまう。子供の自律性を復活させることが非常に重要」と。そして、日野田氏「いわゆるインプット型の授業は、当然オンラインでやれます。もし単純に知識を吸収して受験に勝とうという今までの教育が変わらなかったら、オンラインでいいコンテンツを流しているところの勝ちになっちゃいますよね。世の中を自分の力で歩いていける子供を育てることと、社会の幸福のために対話して合意していくことを学べる場所であるという、本質の部分に向かって学校が進んでいくことが大事です」。

本来群れをつくって暮らしてきた人類ですが、自分や周囲の人の命を守るためには、人との接触を避けなればならない「ニューノーマル(新しい日常)」に慣れていかなければなりません。当然、子供たちにも息苦しさを感じさせています。一方、政府も東京都も経済に軸足を移し、東京都の感染者数が増えつつある中、大規模イベントの開催やスポーツ観戦、そしてGo Toトラベルキャンペーンと行動規制の緩和策が相次ぎます。いつOnline授業に戻らざるを得ない日が来る日が来るか分かりません。その日のためにも、新しい教育を提供するためにも、本来の教育の目的を忘れないで、準備をしていきたいと存じます。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳
http://truth-academy.co.jp/