2014年12月4日木曜日

トゥルースの視線【93回】


 
STEM教育支援プログラム」いよいよ始まる!
-日本の教育にコンストラクショニズムを!-
 
今年9月に当アカデミーのホームページを刷新し、その際「STEM教育支援プログラム」を発表しました(http://truth-academy.co.jp/stem/)。
STEM教育とは、サイエンス(science)、テクノロジー(technology)、エンジニアリング(engineering)、数学(math)に重点を置いた教育です。
 
アメリカでは、間違いなくこの4分野が経済発展の中心を担うと言われ、この分野のリーダーを育成しアメリカ経済の牽引役となる人材を社会へ輩出することを目的に、国家戦略として力を入れています。2010年、オバマ大統領は一連のSTEM教育改革を実施するにあたって、STEM教育のイニシアチブを取るNPO団体「CTEq」(Change the Equation)を設立しました。CTEqが目指すのはSTEM教育プログラムの質的向上を図り、科学技術分野に対する子どもたちの興味関心を高め、STEM分野の優秀な人材を養成することです。また、今年1月に開催されたホワイトハウスの大学進学サミットにて、アメリカの低所得層および中所得層を中心に500人の学生を選抜し、STEM教育の強化プログラムを受けた後、米国のリーダー的な大学10校に進学させるという新しいプロジェクトをPosse財団が発表しました。
 
当アカデミーは1988年に進学塾としてスタートし、2000年から「ブロックとロボットで学ぶ科学教室」すなわちSTEM教育を実践しています。その間、ブロックサイエンス、ロボットサイエンス、リトル・ダヴィンチ理数教室の全ステップ・全授業だけではなく、夏休み・冬休み・春休みサイエンス講座の全講座について、オリジナルのカリキュラム、授業案、ワークシートを作成してきました。また、日本科学未来館や杉並区立科学館を始めとした科学館や中学・高校にロボット授業や、幼稚園・保育園に科学の授業を提供してきました。今年はモンゴル高専でも授業を行い、情報科担当の先生にも指導法を学んでいただきました。「STEM教育支援プログラム」は、その膨大な蓄積を公開するものです。
 
ホームページ掲載から2カ月ほどの間に7件の問い合わせがあり、この11月から3名の方が指導者研修に参加していらっしゃいます。また、NPO法人科学技術教育ネットワーク(NEST)でも、「ロボット教育指導者養成講座」を開催。STEM教育の重要性に気付き、関心を持つ方が増えてきた気がします。
 
当アカデミーが目指すのは、今世界の子供たちが求められているPISA型学力の養成に最も有効とされる「社会的構成主義」に基づく教育を、日本の教育現場に広めていくことです。この教育で指導者に求められる資質は、Teacher(先生)やInstructor(インストラクター)ではなく、良きFacilitator(ファシリテーター)として、生徒たちの学習を正しく援助していくものです。その資質を持った指導者を育成することが、私共の使命の一つであると信じています。当アカデミーに通う子供たちのように、好奇心と探求心で目を輝かせる子どもがもっともっと増えてくれることを願ってやみません。

 
【参考文献】
STEM教育がグローバルリーダーを育てる」宮崎晴人氏
(ハルデザインコンサルティング株式会社取締役会長)
 
トゥルース・アカデミー代表 中島 晃芳


 
トゥルース・アカデミー STEM教育支援プログラム
 

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2014年11月20日木曜日

トゥルースの視線【92回】


NESTモンゴル高専支援プロジェクト(2)
-モンゴルにともった未来の灯火-
 

モンゴル高専では、第1期生3クラス99名にロボットの授業を行いました。

情報化の授業と教師指導のために先にモンゴル入りしていた黒木先生(都立産技高専准教授)が、毎晩一所懸命奮闘してくださったのですが、なかなかロボットを動かすデジタルの環境が確保できませんでした。直前にガンバト学長の決断で新しいパソコンを購入。到着した授業前日9/8の夜、何とか動く環境を創ることができました。しかし、初日の午前中は、前日テストしたにもかかわらず、PCが固まったり、ロボットのファームウェアが飛んだりと思わぬアクシデントが続出。富永先生(都立産技高専教授)と黒木先生が懸命に対処して下さったお陰で、午後の授業からは安定した授業を進めることができました。

3クラスを2分割し、1グループ1617名に対して、それぞれ3時間半の授業を行いました。8301630(昼休み1時間)、3日連続の授業です。まず、富永先生より挨拶とロボットについてのブレインストーム、ロボカップジュニアの紹介を行いました。次に、当アカデミー統括マネージャーの池田がロボットカーの走行プログラムを、続いて中島よりタッチセンサーと光センサーの使い方の授業。各単元の終わりに競技を行い、その定着を図りました。

授業には必ず女性の通訳がついてくれました。通訳の方々はとても優秀で、一度授業の通訳をすると、その内容をきちんと覚えていて、私共の説明を補ってくれるなどしてくれ、本当に助かりました。授業が円滑に進んだのも通訳の方々のお蔭です。 

新入学生たちは初めて受けるロボットの授業に目を輝かせ、競技になると熱中して取り組んでいました。モンゴルでも富裕層の子供たちですが、素朴な素直さを感じます。授業の開始の時は全員が起立して当番の生徒が「礼、おはようございます」と号令をかけます。また、廊下ですれ違う時も「こんにちは」「さようなら」と声をかけてくれます。


テレビや新聞、雑誌の取材を受け、ロボットの寄贈式も行っていただき、驚くほどの歓迎を受けました。ガンバト学長やビルゲイン校長が初日には昼食会を、最終日には夕食会を開いて下さいました。夕食会は、外務省所有のハントルチ宮殿で行われました。この宮殿は、モンゴル独立に人生のすべてを投入し、初代外務大臣となったハントルチの元住居で、ウランバートル最大のゲル(主にモンゴル高原に住む遊牧民が使用している伝統的な移動式住居)です。2つの大きなゲルをつないでおり、ハントルチの所蔵物などが展示されています。ここで、感謝状と記念品を贈呈して下さいました。

10/18にウランバートルで行われたロボットコンテストにモンゴル高専の教え子たちが参加し、4つの競技の内1つの競技で優勝したとの連絡がありました。また、10/23に東京の青山で「モンゴル高専支援の会」の懇親会が行われ、モンゴル工業技術大学(IET)の理事長や理事、学長、9/25に第1期生の入学式を行った2校の高専の校長(なんと30歳-おそらく日本の高専卒業生)を迎えました。日本の高専関係者だけではなく、産業界の方々も多数列席し、モンゴルのこれからの発展に熱いエールを送っていました。

モンゴルの高専生たちは将来卒業して社会に出て、産業を興し発展させ、新しいモンゴル国を作っていくことでしょう。NPO法人科学技術教育ネットワーク(NEST)Truth Academyは、そんな目を輝かせ、熱い情熱を秘めたモンゴルの子たちの教育を支援していきたいと思います。
 
トゥルース・アカデミー代表 中島 晃芳
 
 
NPO法人科学技術教育ネットワーク(NEST)
Truth Academy
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2014年10月23日木曜日

トゥルースの視線【91回】


 
NESTモンゴル高専支援プロジェクト(1)
-モンゴルに日本の高専を創る-


2001498()、眼下に広がる草木もまばらな荒野の起伏を見下ろしながらモンゴルの上空を飛び、ウランバートルのチンギスハーン国際空港に到着したのは、午後7時過ぎ(日本時間午後8)。まだ夕暮れには時間が早いのか、明るい空が大きく広がっていました。NPO法人科学技術教育ネットワーク(以下、NEST)の理事長である中西佑二・産技高専名誉教授、理事の黒木啓之・産技高専准教授、モンゴル工業技術大学(IET)理事のセルゲイン氏たちが、私たち一行3名―NEST理事の富永一利・産技高専教授、事務局長の池田(Truth Academy統括マネージャー)、私―を迎えてくれました。セルゲイン氏はその後帰国の途に就くまで終始私たちの面倒を看てくれました。

今回モンゴルを訪問した目的は、モンゴル高専の学生にロボットの授業を行い、今後の学習のためにLEGO Mindstorms RCXを寄贈することにありました。モンゴル高専は設立したばかりで、91日に第1期生の入学式を迎えたばかりです。中西理事長は、「一般社団法人モンゴルに日本式高専を創る支援の会」代表代行理事も務め、昨年10月から西山明彦・産技高専名誉教授と共にウランバートルに在住し、現在もモンゴル高専開校の準備をしていらっしゃいます。国内からもNEST理事である井上徹・産技高専教授もバックアップし、モンゴル初の高専で初めての入学生を迎えることができたとのことです。学校名も「モンゴル・コウセン」と日本語がそのまま付けられています。


モンゴルは1911年中国清国から独立し、独立の後ろ盾となっていた帝政ロシアがソ連になってからは社会主義国家として親ソ路線を続けていましたが、ペレストロイカの影響下、1992年に民主主義国家に転身し現在に至っています。ロシアと中国に挟まれているという地理的な理由から、その歴史は両大国に大きく左右され翻弄されてきたようです。現在も内モンゴルは中国の自治区となっています(人口は漢民族移入のため80%が漢民族)モンゴルの基幹産業は、畜産業を中心とした農牧林業、モリブデン、銅、金を中心とした鉱業です。鉱物資源が豊富にあり、石炭や石油(推定埋蔵量5000万バレル )も外国投資家の注目を集めているようです。そのため、バブル景気に沸き建築・不動産ラッシュだそうです。

相撲では身近に感じるようになったものの、モンゴルと言えば広大な草原を馬で駆け巡っているくらいのイメージしかなかったのですが、ウランバートルは大都会です。しかし、道路は荒れて凸凹なところも多く、4泊滞在したホテルのシャワーもお湯が出たのは、1日だけという有り様。大渋滞を起こしている自動車のほとんどは日本製の中古車。大きな橋は中国や日本が作ってくれたとのこと。巨大な壺のような2基の工場は、お湯を沸かし、市内に張り巡らされたパイプでスチームを送っているそうです。社会資本の整備がとても立ち遅れているのを痛切に感じます。石油の採掘も海外資本に任せ、90%は国外に持ち出され、10%程度しか国内に残らない。それでも、「技術」を持っていないから、採掘してもらわないよりもずっといいのです。

ンゴルが国として成長し続け、現在格差の大きい社会を改善し国民全体を豊かにしていくには、技術力を向上させること、技術を持った人材を育成することは、必要不可欠であることは言うまでもありません。日本の高専には過去に多くのモンゴルの青年が留学しています。さらに、現在の文部科学大臣ガントゥムル氏も日本の高専留学生だったことから、モンゴルに日本の高専を創るプロジェクトが始まったのです。実践的技術者養成システムとして国際的に評価の高い日本の高専は、ものをつくることができる人材を必要としているモンゴルにとって実に有益と判断したとのことです。

帰国後の915日に、新たに2校の高専が入学式を迎えたそうです。
 
 
トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳
 



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2014年7月13日日曜日

トゥルースの視線【第90回】


強力な学びを引き出す「ハンズ・オン学習」①
-理科教育におけるハンズ・オン学習 -

 
 
トゥルースの視線で何度か取り上げましたが、当アカデミーの指導理念の一つである『ハンズ・オン(hands-on)学習』の意義について改めて考えたいと思います。直訳すると「直接手を触れる」「実際に参加する」という意味で、教育界では「実践的に学ぶ、参加・体験型の学習活動」を指します。ここでは、教える側が知識を一方的に教えるのではなく、学ぶ側が能動的・主体的に学習することが重視されています。また、本で学ぶよりも実際に行った方が、活動の楽しさや学ぶ意欲につながりやすく、学習効果が高まると考えられています。特に理科の学習では、「科学を行うとは何か?」「科学者がどのように研究をしているのか?」を、ハンズ・オン学習抜きにして子どもたちに理解させることは、考えられません。
 
理科教育を専門としている千葉大学大学院の藤田剛志教授は、人文社会科学研究第17号で初等理科教育におけるハンズ・オン学習の歴史と定義、あるべき姿について、興味深い考察を行っています(オヤオ・シェラ氏と共著)。この論文では、ハンズ・オン学習の効果について、体験を重視する余り「這い回る経験主義」に陥らないか?という批判があることも紹介されています。また、ハンズ・オン学習の展開の仕方について、下手をすると、問題の言明、実験計画、データの解釈、書き方までが教師の厳格な統制下に行われ、子どもたちが何をどうすればよいか、考えなくても活動できるように具体的な指示が料理本のように与えられる危険性も指摘しています。
 
まず、ハンズ・オン学習の定義として、「理科のハンズ・オン学習は、人を事物の操作に積極的に関わらせ、知識や理解を得させるあらゆる教育的経験である(Haury and Rillero,)」という考えを紹介しています。しかし、実物を単に眺めたり触ったりするだけでは、科学概念の理解は深まりません。子どもたちが何かを行うとき、ある事物を操作するとき、事物の持つ意味を考えさせることが必要です。そのためには、『探求に基づくハンズ・オン学習』が必要であると、この論文は主張しています。
 
探求的行為として、次の一連の行為を紹介しています。

  追求すべき問いを発する 

  探究のための手順を考える 

  予想する 

  質的・量的データを収集する 

  観察しデータを記録する 

  データを操作しグラフや表を作成する 

  データを解釈し予測と結果とを関連づける

こうした探求的行為を含むハンズ・オン学習により、子どもたちが取り組んでいる問題を解決するには、教師の指示に単純に従うよりも、何を行うべきか、どう行うべきかを自分で考えなければならないので、批判的思考力が高められる、というのです。

この論文を読んで、「リトル・ダヴィンチ理数教室」ジュニアⅠ・Ⅱで行っている理科実験の方向性が間違えていなかったことを改めて確信しました。小学低学年が対象のため、1つの活動で探求的行為を網羅することはできませんが、全米の学校教師向けの理数カリキュラム「GEMSGreat Explorations in Math and Science:ジェムズ)」とイギリス製のデータロガー「Easy Sense(センサーを使って実験データを収集しグラフ化する電子機器)」を用い、いくつかの活動を組み合わせることによって、①~⑦の実践はできていると思います。

新しい教育に対する挑戦を続けていく勇気を得た気がします。
 
 
トゥルース・アカデミー代表 中島 晃芳

 
 
【参考文献】

人文社会学研究第17号「初等理科教育におけるハンズ・オン学習」(オヤオ・シェラ、藤田剛志)

 

 


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2014年6月22日日曜日

トゥルースの視線【89回】

ロボット・ルネッサンス②
-ロボット倫理学-



 
若田さん「一緒に地球に帰れなくてごめんね」
KIROBO「気にしないで。僕が乗ると定員オーバーだし」
 
日本人宇宙飛行士として初めて国際宇宙ステーションの船長を務め、今年5月地球に帰還した若田光一さんが、ロボット初の宇宙飛行士「KIROBO」と別れを告げるシーンが報道されました。今回の KIROBOのミッションは、「単身化社会で起こるコミュニケーションレスから発生する問題の緩和」― 孤独な宇宙空間で過ごす宇宙飛行士らとの会話を通じて、地球で進む単身化社会でロボットがどのような役割を果たせるかを探るというものです。
 
去る6/5、ソフトバンクの孫社長が突如発表会を開き、人型ロボット「Pepper」を紹介しました。身長120cm位、車輪を使って移動し、腕や指も動かすことができます。最大の特徴は、人の感情を読み取る感情認識機能を搭載していること。対話機能も備わっており、店頭での接客やパーティーで活用されるようです。Pepperは、感情認識機能で人間の感情を認識し、その情報をクラウドに記録して蓄積していくことにより、学習しながら成長する仕組みになっています。つまりロボット自体に高性能なハードウェアや大容量のメモリーを用意する必要がないので、製造コストが抑制され、198,000円という低価格を実現できたのです。しかも、他のPepperが得た情報も収集することで膨大なデータを利用することができ、1体だけでは得られない情報や知識を共有することで加速度的に学習が進むそうです。孫社長は、「脳型コンピューターがモーターという筋肉と合体するとロボットになります。やがて知的ロボットと共存する社会になる」と述べています。
 
人間とロボットが共存する社会では、その関係はどうあるべきなのでしょうか?
 
爆弾で吹き飛んだ「同僚」のロボットの死に涙し、「戦死」したロボットのために軍隊式の葬儀を執り行った兵士たちがいたそうです。いずれロボットが恋愛や結婚の対象になるという声まであります。しかし、2007年南アフリカ軍の半自律制御の対空砲が誤作動し、味方の兵士9人が死亡し、14人が負傷しました。Pepperのようにロボットが自律的に学習し進化するロボットがこのような誤動作をした場合、製造物責任法(PL)を適用することができるのでしょうか?
 
今、「ロボット倫理学」という学問が生まれています。
 
カリフォルニア州立工科大学准教授のパトリック・リンによると、「意識ある人間の脳(と体)には人権があり、脳の一部を別のもので置き換えても脳として正常に機能していれば、完全な人間でなくても『人権』があると見なすことができる。脳や体の半分以上が人工物ならば人間よりロボットに近く、『ロボットの権利』という問題が現実味を増す。だから、ロボットの自律化が人間に近付けば、ロボット自身に責任を負わせることも考えられる」というのです。
人間とロボットの共存には、まだまだ乗り越えなければならない壁がたくさんあるようです。
 
変化、継続的変化、必然的変化が現在の社会における支配的要因だ。今の世界だけではなく未来の世界も考慮しなければならない。つまり政治家も実業家も一般人も、SF的な考え方を身に付けなければならない。 ― SF作家アイザック・アシモフ(1920-1992)
 
【参考文献】『避けて通れないリスクと責任』パトリック・リン著
 (ニューズウィーク日本版2014ゴールデンウィーク合併号)


トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳
 


 


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2014年5月24日土曜日

トゥルースの視線【88回】


ロボット・ルネッサンス ①
Googleによるロボットベンチャー買収-
 
 
 
Googleで携帯端末OSアンドロイド開発を指揮した男アンディ・ルービンが1年ほど前に突然その地位を退き消息を絶った。そして昨年12月、同じGoogle社内でロボット開発の長となってその姿を現した。
 
4/30朝日新聞『のまれる日本のロボット技術―グーグル、次世代にらみ買収』では、昨年12Googleがロボットベンチャー8社を一気に買収し、その1社である東京大学発のベンチャー・SCHAFT(シャフト)社を取り上げています。SCHAFT社製のロボット「S-ONE」は、米国防高等研究計画局(DARPA)主催による世界初の人間大ロボットによる競技会『DARPAロボティクス・チャレンジ(DRC)』の予選会で、米航空宇宙局(NASA)マサチューセッツ工科大学(MIT)などの強豪がひしめく中、断トツの1位で予選通過をしました。
 
この予選会には、2年間にわたる厳しい事前調査の結果、世界150以上のチームから16チームが選抜され参加しました。来年、優勝賞金200万ドルを賭け上位8チームによる決勝が行われます。予選競技は、(1)自動車の運転(2)不整地踏破(3)階段踏破(4)瓦礫撤去(5)ドアを開き目的地まで移動(6)電動工具で壁に穴を開ける(7)バルブの閉鎖(8)消火ホースの接続の8種目。競技中のロボットは人間の操作を受けることなく、すべての動作を自律的に行わなければならないので、周囲の状況を判断するAI(人工知能)技術にも高いレベルが必要となります。
 
2001911日の同時多発テロ以降、米軍は戦場での使用を目的としたロボット開発に多額の予算と人材を投じてきましたが、ヒューマノイド(人間型)ロボットには興味を示してきませんでした。しかし、2011311日の東日本大震災と福島第一原発事故がその考えを一変させました。この未曾有の大災害の惨状とその対応状況について分析を続けた米国防総省は、災害現場において本来人間が行うべき作業のすべてを単独で行えるロボットの重要性を思い知り、米国防総省はDARPAを通じて災害対策用ロボットの開発に必要な技術を手に入れるため、世界初の人間大ロボットによる競技会DRC開催を20124月に発表したとのことです。DRC同様、SHAFT社が誕生したのも東日本大震災。東京大学の研究所に在籍していた中西飛雄氏と浦田順一氏が、災害援助活動や原発事故を収束させるため、これまで培ってきたロボット技術を役立てたいと大学を辞め、SHAFT社を立ち上げたとのこと。そのため、災害対策以外の目的を視野にロボット開発を進めてきた他チームとの開発のコンセプトの違いが勝因の一つに挙げられています。
 
GoogleはこのSHAFT社、DRC4部門の内2部門で使用されたヒューマノイドロボット「ATLAS」を開発したボストン・ダイナミック社、AI開発のディープマインド・テクノロジー社などを買収しています。Amazonも物流センター向け運搬ロボット開発会社を2012年に買収、小型無人機を使った配送サービス計画を昨年暮れに発表。グローバルIT企業が次々とロボット産業に参入してきているようです。Googleの真の目的はどこにあるのでしょう? 
 
 
【参考文献】
『軍事研究』20145月号「圧勝!日本の『人間型ロボット』」(ミリタリービジネス研究家・阿部拓磨氏)
DRC公式ホームページ:http://www.theroboticschallenge.org/
WIREDDRC予選の8つの課題を動画紹介):http://wired.jp/2013/12/23/darpa-challenge/
ガジェット通信(競技の様子を紹介):http://getnews.jp/archives/480260
 
 
 
トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳
 
 


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2014年4月21日月曜日

トゥルースの視線【87回】


国際的な学習到達度調査PISA2012
-問題解決能力 日本3位に-

今年の「新年のご挨拶」で、65カ国・地域の15歳約51万人を対象とした『PISA2012』の主要3分野の結果をご紹介いたしました。今回は日本では191校(学科)、約6,400人の生徒が参加。今回の中心分野である「数学的リテラシー」が7位・536点(OECD平均494点)、「読解力」は4538点(OECD平均496点)、「科学的リテラシー」が4547点(OECD平均501点)と、日本の順位が急落した2003年の「PISAショック」からかなり回復し、3分野とも過去最高得点となりました。また、全分野で上位層が増え、下位層が減ったという望ましい形になってきました。

(調査問題例は、http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/pisa2012_examples.pdf をご参照ください)

PISA2012では、主要3分野の他にコンピューターを使った、次の3分野の調査が国際オプションとして実施されました。「デジタル数学的リテラシー」が6539点(OECD平均497点)、「デジタル読解力」は4545点(OECD平均497点)、「問題解決能力」3552点(OECD平均500点)。問題解決能力の調査には44カ国・地域が、日本では181校、約6,300の生徒が参加。1位シンガポール、2位韓国に続く順位となりました。PISAでは2003年に問題解決能力の調査を行っていますが、コンピューターを使用したのは初めてであり、枠組みや調査実施形態が異なるため、2003年との直接比較はできません。

(調査問題例は、http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/pisa2012_item_ps.pdf をご参照ください)

PISAでは問題解決能力を、「問題解決の道筋が瞬時には明白でなく、応用可能と思われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学、科学、または読解のうちの単一の領域だけには存在していない、現実の領域横断的な状況に直面した場合に、認知プロセスを用いて問題に対処し解決することができる能力」と定義しています。PISAでは、「CCC(Cross Curriculum Competance)」として捉えられている問題解決力、批判的思考、コミュニケーション能力、忍耐、自信といった教科の枠を横断した能力こそ大事であり、それを測ることの重要性が提起され、各種の実験が行われてきました。

当アカデミーの『ブロック・サイエンス』は、世界の教育現場で(最近は日本の学校でも)採用されている教育用レゴブロックを使った科学技術教育プログラムを提供しています。「楽しく創造力と問題解決力を育てる」と謳っていますが、具体的にどのようなカリキュラム構成になっているかをご紹介します。カリキュラムの中には単元の最後に必ず「問題解決学習」が用意されています。この問題解決学習とは、「困っている人(または動物)がいるので、その人(または動物)の問題を解決するための物を各ステップで使用しているレゴブロック教材で作ろう」ということが課題になります。①まず、提示された絵の中にどのような問題があるかを発見する ②解決策を考える(解決のための推論を立てる) ③問題解決のためのオリジナルの作品を作る(試行錯誤しながらの創作活動) ④なぜそれを作ったのか、どのような工夫をしたのかを発表する(プレゼンテーション) ⑤実験によって問題が解決したかを検証する(作品の評価)、という流れで行います。制作中の試行錯誤における小さな「推論→実験→検証」のサイクルを、課題達成のための全体の「推論→実験→検証」に結び付けて活動しています。

ここでは、子供たちが自らの活動を通して自分の力で知識を獲得し構築していく学習を実現する「コンストラクショニズム」という教育理論、自分の手を使った直接体験型の学び「ハンズオン学習」、正解のない問題にアプローチすることにより考えるプロセスに働きかけ多様な考えを引き出す「オープンエンド」という、当アカデミーが主軸とする3つの教育コンセプトが生かされています。また、「基礎理論のための実験→それを利用した現実社会に存在するモデルの研究→問題解決学習」という流れで行っています。問題解決学習では調べ学習も行います。ですので、これまで学んだ知識や技術や技能と、調べた情報とを基に問題を解決する、という正にPISAのいう「リテラシー」(知識や情報の活用力)を育成するのには極めて有効であると考えています。おそらく、世界の教育現場で採用されている理由の一つがここにあるのでしょう。


トゥルース・アカデミー代表 中島 晃芳

 
 
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2014年3月27日木曜日

トゥルースの視線【86回】




続・グローバル化時代の学力(2)
-プログラミング・スキル-


2012年度から学習指導要領が新しくなり、中学校の技術・家庭科の授業で「プログラムによる計測・制御」が必修になりました。文科省が公表している解説には下記のような記載があります。プログラムによる計測・制御について、次の事項を指導する。
ア)コンピュータを利用した計測・制御の基本的な仕組みを知ること。
イ)情報処理の手順を考え,簡単なプログラムが作成できること。
 
 昨年12月アメリカで行われた“Computer Science Education Week”で、オバマ大統領が行った『全ての人よ、プログラミングを!』という演説が話題になりました。「プログラミングを学ぶことは、みなさんの将来にとって重要なだけでなく、アメリカにとっても重要です。アメリカが最先端であるためには、プログラミングや技術をマスターする若手が必要不可欠です。新しいビデオゲームを買うのではなく、作ってください。最新のアプリをダウンロードするのではなく、設計してください。それらをただ遊ぶのではなく、プログラムしてください。誰もがプログラマーとして生まれたわけではなく、少しのハードワークと数学と科学を勉強していれば、プログラマーになることができます。あなたが、誰であっても、どこに住んでいてもコンピューターはあなたの将来において重要な役割を占めます。あなたがもし勉強を頑張れば、その未来は確かなものとなるでしょう」と。
 
 
 シーモア・パパートの下で98年に「レゴマインドストーム」を開発したミッチェル・レズニック(MITメディアラボ教授)は、03年に学習用プログラミング言語「スクラッチ」を発表しました。TEDカンファレンス『子どもにプログラミングを教えよう』で、彼はプログラミング学習の効果について次のように語っています。「子供たちは、スクラッチのプロジェクトを作りながらプログラミングを覚えていきますが、さらに重要なのはプログラムを書くことで学ぶということです。読み書きを学ぶことで他の多くのことを学ぶ可能性が開けます。同様に、プログラミングを学ぶことで他のいろいろなことを学ぶ機会が開けます。(中略)ビクターがこのプロジェクトに取り組みスクリプトを作っていたとき、彼はデザインのプロセスも学んでいました。ぼんやりしたアイディアから始めて、それを本格的な実際に機能するプロジェクトにする方法です。彼はデザインの核となるいろいろな概念を学んでいたのです。新しいアイディアをどうやって試すかとか、複雑なアイディアを単純な部分へと分割する方法や、他の人とどう協力していくかとか、期待したように動かないときにどうバグを見つけて直すかとか、物事がうまくいかない状況でいかに粘り強く方向性をもって前に進んでいくかなど、これはプログラミングに限らず重要なスキルです。いろいろな活動において重要なものです」
 
 
当アカデミーの「ロボット・サイエンス」のコースでは、オリジナルの自律型ロボットを製作するので、当然プログラミングの学習が中心になり、PDCAサイクルによるロボット開発を行います。ロボットコンテストに出場する時には必ずチームを組まなければなりませんので、活動を通して、コミュニケーション能力やチームワーク力、計画性やスケジュール管理、問題解決力、粘り強さを身につけていきます。それだけでなく、プレゼンテーションも要求されるので、プレゼンテーション力やデザイン力、表現力も必要になります。
 
「ブロック・サイエンス」のキッズ・クリエーターⅡ以上でも、製作物を自動制御するためにプログラミングを行っています。また、「リトル・ダヴィンチ理数教室」のダヴィンチ・ジュニアⅡでは、ミッチェル・レズニックが開発した「スクラッチ」を使って、図形を描くプログラミングを扱っています。どのコースでもプログラミングを組み入れていますので、在籍生の全員がプログラミングを学ぶことができます。
 
生まれたときからITやインターネットが当たり前にある今の子供たち=「デジタル・ネイティブ」の世代にとって、これからの時代を生きていくためには、プログラミング・スキルがますます必須となっていくことでしょう。また、プログラミングの学習を単なる目的に終わらすのではなく、「プログラミング学習を通して、何を学ぶべきか?」が問われる時代になっているのではないでしょうか?
 
 
 
トゥルース・アカデミー代表 中島 晃芳


 

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2014年2月25日火曜日

トゥルースの視線【85回】


続・グローバル化時代の学力(1)
-コミュニケーション・スキル-

昨年1213日、文部科学省は平成32年から中学校の英語の授業を原則として英語で行うこと、正式な教科ではない「外国語活動」を実施している小学校は、平成30年より開始時期を現在の小学5年から小学3年に前倒しし、小学56年では教科に格上げすることを決定しました。

 確かに、このグローバル化時代では、英語ができることがもはや優位性を持たない時代になってきています。「何かができて、英語もできる」ことが必須となってきているのです。ロボカップ世界大会の会場では英語が公用語となります。ルールの説明や会場のアナウンスが英語であるばかりではなく、ジュニアでは必ず個室でのインタビューが行われ、それも当然英語です。質問に答えられないと自分たちが自力でロボットを作ったことを証明できていないとみなされ、最悪の場合、失格となることもあります。また、他国のチームと組んで行う「スーパーチーム」の競技でも、英語をコミュニケーション・ツールとして使うしかありません。

 当アカデミーの生徒は小・中・高校生で、このような世界の舞台に立つことは現実です。そのため、生徒たちに英語学習の機会を与えられないか?と長い間考えておりました。彼らには、優秀なロボットという技術があります。これに英語力が加われば、これほど強力なものはありません。

しかし、ただ英語力さえ身につけば、いいのでしょうか? 英語圏に留学した日本人学生が一番困るのは、プレゼンテーションとライティング(書くこと)だ、というのです。十分な英語力を持っていても、「自分の言いたいことを論理的に正しく伝える」ことが日本人には少し苦手なようです。その原因として、欧米では学校教育の中で徹底的にコミュニケーション・スキルのトレーニングが行われているのに対して、日本の国語教育ではそれが欠落していることが指摘されています。

中高の4年間をドイツで過ごした、つくば言語学技術研究所所長の三森ゆりか氏は、コミュニケーション・スキルについて次のように述べています。「人間は言葉によって互いに意思疎通を図ります。また、言葉を使って人間は思考します。他人に最もよく自分の感情を理解してもらうための技術、自分の考えを深めていく技術、それがコミュニケーション・スキルです。そして、このコミュニケーション・スキルの鍵になるのが『論理(ロジック)』です。相手に自分の考えや感情を正確に理解してもらうためには、相手が理解できるように、道筋を立てて話が飛躍したり、必要な情報を欠いたりせず伝える必要があるからです。つまり、『論理的』でないと、コミュニケーション・スキルは機能しないのです」。また、コミュニケーション・スキルとして、次のような技術を挙げています。①話す技術 ②聴く技術 ③書く技術 ④読む技術 ⑤論理的思考の技術 ⑥論証の技術 ⑦推論の技術 ⑧説明の技術 ⑨描写の技術 ⑩討論・議論・ディベートの技術 ⑪主張の技術 ⑫交渉の技術 ⑬説得の技術 ⑭発表の技術 ⑮分析・解釈の技術 ⑯批判の技術(批判的思考/クリティカル・シンキング)

 英語の学習を通じて、このようなコミュニケーション・スキルを育てることはできないか?―そう考えている時に、「対話力(Communication Competence)」を重視した英語教育に出合いました。コミュニケーション・スキルを育てる体系的なプログラムです。現在、まず練馬校と日吉校において今春の開講に向けて準備を鋭意進めております。ご期待ください。


【参考資料】
『論理的に考える力を引き出す』三森ゆりか著(一声社)

※三森氏は、母語である日本語を使ったコミュニケーション・スキルを、英語学習の前に育てるベきであるとの立場をとっています。


トゥルース・アカデミー代表 中島 晃芳
 
 
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