2021年12月8日水曜日

【第165回】練馬区地域おこしプロジェクト②

 

~ STEM教育に普及を望む声 ~ 

 

練馬区地域おこしプロジェクトに応募した際に練馬区在住の保護者の皆様にお願いした、STEM教育(ステム教育:科学・技術・工学・数学)についてのアンケートに寄せられたご意見をご紹介いたします。まず今回は、肯定的なご意見を。

<練馬区のSTEM教育の現状と期待について>

■このコロナ禍で小学校でもPCが個人に配布されるようになりましたが、有効な使われ方をしていないように感じます。せっかくの機会なので、この状況をプラスに捉えて授業などでもっと活用していったり、子供たちの想像力を伸ばせたりする使い方ができればいいと思います。

■近隣の板橋区や中野区では、定期的に小学生向けの実験教室やプログラミング講座などが行われていますが、練馬区ではこれまでそういった活動はほとんどありませんでした。今回のプロジェクトを通して、練馬区の子供達が科学や工学に触れる機会を作っていただけたらとても嬉しいです。

■ゲームプログラミングと違い、生活や社会などに深く関わるロボットプログラミングだからこそ、子供のうちから体験を通して学べる事は将来財産になると信じています。やるならぜひ定期的な学習の場を提供してほしいです。

■学校でプログラミング教育が始まったとはいえ、まだまだそれほど浸透しているようには思えません。息子は学校で、ロボットの大会に出ていますが、そのことは一切言わないそうです。それはなぜなら、周りに言っても理解してくれないからと言っていました。是非ともこの事業に参加して練馬区のプログラミング教育を盛り上げて、ロボットの国際大会を練馬で開催してください。

■公立小中学校は変化、進化速度が遅いので、新しい刺激が入って時代に即した教育が更新されていくことを期待します。

■先駆者であるプロに先生になってもらう事はこの先の先行投資の意味合いもあるしここから雇用が生まれれば練馬区にとってもチャンスだと思います。

■応援します!ロボットの街、プログラミングの街として練馬区の魅力を発信できれば良いと思います。

■今後のプログラミングソフトの学習に於いて、ロボット開発の就職に有効となれそうなものであるとより有り難いと思っております。また、最新のロボット開発や使用ソフトなどの情報提供のセミナーや有効的な施設見学などのイベントなどあると嬉しいです。

「ICT の活用で、区においてもアクティブ・ラーニングの視点に立った学びを取り入れることにより、 ① 基礎的な知識や技能を確実に身に付ける ② 考える力、判断する力、表現する力を育成する ③ 主体的に取り組む姿勢を養う ことのできる授業を目指します」と謳った『練馬区学校ICT環境整備計画』を作成しましたが、期間は2016~20年なので、現時点どのような目標を設定しているのかは不明です。また、現在、特別非常勤講師を募集していますが、プログラミング教育の募集は小学校で1校のみ、しかも1名のみ。練馬区には科学教育の拠点となり発信地となる科学館がないので、STEM教育を強力に推進することができないのかもしれません。

私共Truth Academyは、同業の仲間から「もっと教室を増やせばいいのに」と言われますが、小中高校、科学館への出張授業、NPO法人NESTやロボカップジュニアの運営、指導者の養成に力を注いできました。21世紀教育に求められる「社会的構成主義」(https://truth-academy.jp/truth-shisen/43 参照)により日本の教育の在り方を変えることを目標としています。練馬区がその拠点になれればと思っております。

次回は、STEM教育の在り方やその価値についてのご意見をご紹介したいと思います。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年11月8日月曜日

【第164回】練馬区地域おこしプロジェクト①

 

~ 練馬区発・国際ロボットコンテストの提案 ~

 

練馬区が現在募集している「地域おこしプロジェクト」に、トゥルース・アカデミーが所属し、私が立ち上げた「NPO法人科学技術教育ネットワーク(NEST)」として、応募することにいたしました。これは、未来に向けた夢のあるまちづくりの実現に向け、区民の自由な発想で、未来の練馬の発展につながる事業を区との協働により実施するプロジェクトです。この20年間、日本科学未来館を始めとした様々な科学館や他区からの委託、小・中・高校からの依頼で教室外でも年間数百名の子供たちにロボット・プログラミングを指導してきました。しかし、本拠地のある練馬区では単年度の協働事業でしか実現していなかったため、継続的に貢献できればと思って応募した次第です。

目標は、練馬区の小学生~高校生にロボット・プログラミング学習を提供すること、練馬区内の学校の先生や指導者を目指す方々にその指導方法を伝授し、学校を始めとする様々な場で子供たちに学べる機会を提供できる環境を作ること、そして、学習の目標として国際的なロボットコンテスト「RoboRAVE(ロボレーブ)」を練馬で開催することです。他区・他市からお通いのお子様も多くいらっしゃいますが、最初は練馬大会、その後全国大会、そして国際大会と規模を大きくしていく予定ですので、参加の機会を得られるようにいたします。

この応募に際し、練馬区在住の保護者の皆様に、STEM教育(ステム教育:科学・技術・工学・数学)についてのアンケートをお願いしたところ、37名の方々からご回答をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。アンケート結果は次のようになりました。

 

●今の日本の子供たちに、STEM教育が必要であると思いますか?

⇒必要であると思う(94.6%)分からない⇒(5.4%)

●STEM教育をお子様に受けさせたいと思いますか?

⇒ぜひ受けさせたい(86.5%)まあまあ受けさせたい(13.5%)

●学校でプログラミングを始めとしたSTEM教育が実践されていると感じますか?

⇒ある程度実践していると思う(16.2%)あまり実践しているとは感じられない(54.1%)

●練馬区とコラボ(協働)した取り組みとして、STEM教育の場があったら、お子様に参加させたいと思いますか?

⇒ぜひ参加させたい(78.4%)まあまあ参加させたい(21.6%)

●国際的なロボットコンテストが練馬区で開催されたら、お子様を参加させたいと思いますか?

⇒ぜひ参加させたい(64.9%)まあまあ参加させたい(35.1%)

●国際的なロボットコンテストが練馬区で開催されたら、練馬区の魅力の一つになると思いますか?

⇒大いに魅力になると思う(78.4%)少しは魅力になると思う(18.9%)あまり魅力にならないと思う(2.7%)

 

トゥルースにお子様を通わせていらっしゃる保護者の皆様は、一般的な方々と比べ、教育に対する意識や関心が高く、時代が求める教育にも敏感ですので、この結果が平均的なものであるとは言えない面もあるかもしれません。しかし、STEM教育を望む保護者が多いのに対して、「GIGAスクール構想」によって生徒1人1台のパソコンが配布されたにもかかわらず、学校や区が十分にその活用するに至っていないと感じる方が多いようです。練馬区に科学教育の拠点となる科学館が存在していないのも、その一因かもしれません。

このプロジェクトでこれまで採択された事業は、2017年に3事業、18年に2事業、20年に2事業しかなく、極めて難関ですが、百年の計である教育に関心を持っていただき、この事業が採択することを願っております。

アンケートでは自由記述の欄に、様々なご意見をいただきましたので、次回ご紹介いたしたく存じます。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年10月8日金曜日

【第163回】リケジョ(理系女子)は増えたのだろうか?

 

~ 理系のジェンダー・ダイバーシティの実現を! ~

 
日本科学未来館

今年,日本科学未来館に女性の館長が誕生しました。2代目館長となったのは浅川智恵子氏です。初代館長は開館以来館長を務めてきた宇宙飛行士の毛利衛氏。2006年ロボカップ世界大会に出場したトゥルースの生徒たちが毛利館長を表敬訪問したことも遠い記憶となりました。日本人女性として初めてIBMの最高技術職である「フェロー」に務めていた浅川智恵子氏は,事故がもとで中2の時に失明。IBMではインターネット上の情報を音声で読みあげるソフトを開発するなど、視覚障害者の生活を支える機器やサービスの開発を続けてきたそうです。就任にあたり,2030年に向けて「あなたとともに『未来』をつくるプラットフォーム」というビジョンをまとめ,多様な人たちとともにアイデアやイノベーションを生み出す基盤になることを目標に掲げました。「ダイバーシティー(多様性)」と「インクルージョン(包括性)」の重要性を強調しています。 第一歩として、人工知能(AI)を搭載して視覚障害者を誘導する案内ロボット「AIスーツケース」を館内に導入することをめざしているそうです。(9/7朝日新聞)

また,日本の女子高生が留学先のイギリスで,プログラミングコンテストで優勝するという朗報が入りました。菅野楓さん(18才)。2013年,10才からプログラミングを学びはじめ,同年にアプリ「元素図鑑」が当時小学生初となる史上最年少で「U-22プログラミングコンテスト」入賞。2017年、同コンテストで経済産業大臣賞受賞し,さらに未踏ジュ二アスーパークリエーターに認定。2018年、孫正義育英財団1期生に採択され,コンピューティング・スカラシップでイギリスに留学。2019年、アジアのアプリ開発コンテスト「AppJamming Summit」に日本代表選手として出場し、中学生部門2位とMostCreative賞のW受賞。2020年、パックツアーコンサルティングシステムの開発が、未踏IT人材発掘・育成事業に採択され,グローバルサイエンスキャンパス(GSC)全国受講生研究発表会で優秀賞受賞。2021年、イギリス最大の若者向け科学技術コンテスト「The Big Bang Competition 」で優勝(UK Young Engineer of the Year 2021)し,まさに大活躍しています。現在は,自然言語処理などの技術を活用し、言語や文学、旅行など興味分野への研究を続けているそうです。

このように女性の科学技術分野の活躍についてのニュースは最近増えましたが,一方で国内の大学におけるジェンダー・ギャップがなかなか縮まらないという指摘があります。朝日新聞と河合塾による今年度の「ひらく 日本の大学」調査では,女性教員の割合は16%,助教32%,准教授26%。教授18%と,職位が上がるほど女性の比率は低くなり,副学長は15%,学長は13%にとどまるそうです。OECDが9/16に発表した2021年版「図表でみる教育」によると,高等教育で工学・製造・建築を専攻する新入生の女性比率は16%(19年)で、OECD加盟国で最低(平均は26%)。高等教育における女性教員比率は28.4%で、これも加盟国で最低(平均は44.2%)でした。内閣府男女共同参画局が行っている「理工チャレンジ」や,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が次世代人材育成事業として行っている「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」などはあまり成果を出しておらず,女子学生の比率は01年年度調の工学部10.3%・理学部25.3%からこの20年間ほぼ変わっていないようです。

国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の報告では,学習者・家族及び周囲の人・学校・社会が有機的にジェンダー・ギャップの課題に取り組むことが必要であり,特に子どもの段階でSTEM に関する自己効力感(self-efficacy)をつけることが重要であり、そのためには親や周囲の人が偏見や固定観念に基づき否定的な声掛けや行動をせず、STEM への興味を持続するように十分留意する必要がある,と指摘しています。

かなり以前ですが,トゥルースの視線(第76~78回)でも「『リケジョ(理系女子)』の時代到来?」というタイトルの文章を掲載しています。ぜひこちらもご覧ください。

視線【76回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/03/blog-post.html

視線【77回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/04/blog-post.html

視線【78回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/05/blog-post.html

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年9月8日水曜日

【第162回】学習ツールとしてのデジタル

 

~ 家庭でどのようにデジタルと付き合ったらいいのか? ~

 

トゥルース・アカデミーは元々進学塾としてスタートしました。しかし、学ぶことそのものが目的ではなく手段になってしまっているのではないかという疑問が徐々に頭をもたげ、受験指導に違和感を覚えるようになり、様々な教育を模索し始めました。そんな中、ある一冊の本と出合いました。富山県内の公立小学校で教諭を勤めていた戸塚滝登氏の『クンクン市のえりちゃんとロゴくん』(ラッセルブックス)という本です。新任教員として赴任した戸塚氏が子供たちになかなか授業が受け入れてもらえず苦悩した末、パソコンを購入してプログラミング教育を始めました。その実践の中で描かれている先生と生徒との交流、生徒の成長の姿に感銘を受け、「プログラミング教育こそ今の教育を変えられるかもしれない!」を思い始めたのです。

これがLOGO(ロゴ)との出会いです。LOGOはマサチューセッツ工科大学の創設者の一人、人工知能の研究者として有名はシーモア・パパート教授(2016没)が子供の学習のために開発したプログラミング言語です。LOGOは、その後パーソナルコンピュータの父アラン・ケイが「Squeak(スクイーク)」に発展させ、続いてパパートの下で助教授を務めていたミッシェル・レズニック(現教授)が今世界的に流行している「Scratch(スクラッチ)」へと発展させました。コンピューターを搭載したレゴブロックが作れないか?というパパートの発想からレゴのロボットキット「Mindstorms(マインドストーム)」(この名は元々パパートの著書の題名)が誕生。しかし当時は、パソコンとロボットが有線でつながっていましたが、タフツ大学が計測系のプログラミング言語「LabView」をベースとしたソフトを開発し、ロボットがパソコンから自由に動けるようになり、「これだ!」と飛びつきました。そして、パパートの唱える「コンストラクショニズム(構築主義学習)」という教育理論に基づいたSTEM教育を実践する「レゴとロボット教室」を2000年にスタートさせました。

その頃、客員研究員としてMITメディアラボを目の当たりにしたNPO法人CANVAS代表の石戸奈々子氏は、教育に関心を持ち始めたそうです。石井氏は今年6月『賢い子はスマホで何をしているのか』(日経プレミアシリーズ) を出版し、「コンストラクショニズム」の考えを紹介し、「新しいものを生み出したいとき、これほど有効な道具はないからです。プログラミングは、論理性を育てるためのものではなく、むしろ創造・表現のためのツールなのです」と、プログラミング教育の必要性を説いています。また、デジタルの強みは「創造・効率・共有」にあると論を展開しています。この本では、学校教育にも触れていますが、家庭や親の関わり方の話にも及んでいます。「これからの時代、『学び合い」「教え合い」が重要になる』ので、学校の先生同様「親もファシリテーターになるとよい」、そして「『スマホに丸投げ』ではなく、ときには親も一緒になって 楽しむ。 面白いコンテンツであれば、親子の会話も自然と増えていきます」と。また、「時間制限をしない家庭の子のほうがスマホにしがみつくことが少ない印象」があり、「適度なバランスをたもつためには親子のコミュニケーションしかない」、フィルタリングは当然必要だが、「ネット上で起きる問題は決して特殊なものではなく、リアルな世界で起きている問題とさほど変わりがありません。大人の知見で解決できるものばかりです」と。

この本では、トゥルースでも使用している「Scratch」や「micro:bit(マイクロビット)」も紹介しています。それだけはなく、もはや「えほん」の世界を飛び越えていますが、『デジタルえほん』アワード受賞作品の中で、「地図エイリアン」や「算数忍者」、「工作生物ゲズンロイド」など、学習に役立つアプリが数多く紹介されています。

家庭でどのようにデジタルと付き合ったらいいか、子供の学習にどう役立てたらいいかのヒントが得られるかと思います。ぜひ、ご一読なさってみてください。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年7月8日木曜日

【第161回】コロナから子供の心を守ろう!

 

~ コロナ禍が子供たちの心と夢に与える影響は? ~

 

東京オリンピックの開催が迫る中、東京の感染者数は増加に転じ、ワクチン接種も期待されたほど進んでおらず、東京都は4回目の緊急事態宣言は発出されることになりました。今回は、7/12~8/22と一か月以上に及び、東京オリンピック開催期間だけではなく、子供たちの夏休みのほとんど期間が含まれます。子供たちが楽しみにしている夏休み、そして素敵な思い出が残せるはずの夏休み―その夏休みに行動規制がかかることになります。子供たちの心にどんな影響を与えるのか、不安を感ぜざるを得ません。

新型コロナウイルスの流行が子供たちに及ぼす影響について国立成育医療研究センターがアンケート調査を行っています。今年2/19~3/31に行われた第5回調査報告では、「コロナのことを考えると嫌だ」が42%「すぐにイライラしてしまう」が37%「最近集中できない」が32%などとなり、何らかのストレスを感じているとみられる子供は全体の70%に上ったということです。

 

 

 

 

 

また、日本語版「KINDL-R」尺度(子供のQOL[=quality of life]を評価する尺度)により身体的健康と精神的健康を測定したところ、第1回調査(昨年5月)と比べ、身体的健康は全般的に低下傾向にあり、精神的健康は小1~3は微増、小4~6は横ばい、中高校生は低下傾向にあります。同センターの半谷まゆみ医師は「1回目の調査から子どもたちのストレスの状態は改善していない傾向だ。コロナの影響が思った以上に長引き積もってきた負担が心や体の健康に響いてきている可能性がある。少しのサインも見逃さず子どもが困っていたら一緒に解決する方向に持って行くことが大切だ。」と述べています。しかし、「先生や大人への話しかけやすさ・相談しやすさ」については「減った」との回答が51%に及んでいます。「友達と話す時間」が「減った」との回答も46%に。

一方、「家族と話す時間」は、「減った」が42%、「増えた」が40%とどちらも増えていますが、保護者へのアンケートでは、53%が子供と過ごす時間が増えたと答えています。3/17に発表された第一生命保険の第32回「大人になったらなりたいもの」のアンケート調査結果(https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2020_102.pdf)では興味深い結果が出ました。小学男子は1位会社員・2位ユーチューバー・3位サッカー選手、小学女子は1位パティシエ・2位教師/教員・3位幼稚園の先生/保育士、中高生男子は1位会社員・2位ITエンジニア/プログラマー・3位公務員、中高生女子は1位会社員・2位公務員・3位看護師。小学男子で会社員が1位、女子でパティシエを選んだ理由として、第一生命保険は、男子は「コロナ禍でリモートワークが進む中、自宅で仕事をするお父さん・お母さんの姿を目の当たりにし、会社員という職業を身近に感じた子どもが多かったのかもしれない」、女子は「コロナ禍のステイホーム期間に家族とお菓子作りを楽しんだ子どもたちも多かったのではないか」と推察しています。コロナ禍は子供の夢の変化にも影響を与えているようです。

コロナ禍でストレスを感じているのは日本の子供たちだけではありません。WEBサイト「新型コロナウイルスから子どもの心を守る。WHOから世界中の保護者たちへ」https://covid-19-act.jp/parenting-who/)では、WHO(世界保健機関)が世界の保護者に向けたアドバイスを発信しています『1対1の時間』『肯定的でいましょう』『新しい日課を作る』『悪い行い』『焦らずにストレスマネジメント』『新型コロナウイルスについて話をする』という6項目を分かりやすく解説しています。ご一読なさると何かの参考になるかもしれません。また、前述の国立成育医療研究センターでも、「第5回【コロナ×こどもアンケート】こどもが考えた『気持ちを楽にする23のくふう』」https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/report/cxc05_coping20210525.pdf)を公開しています。子供たちがどのようにストレスを発散しているのかを知ることも、子供と接するときのヒントになるかもしれません。

 

トゥルース・アカデミーは例年通り、「夏休みサイエンス講座(夏期特別授業)」(http://truth-academy.co.jp/2021summer/)を開催し、科学・算数・工作・レゴ・ロボット・プログラミングと多彩な内容をラインナップして、子供たちが生き生きと楽しく学ぶ場を提供します。周りに興味のあるお友達がいらしたら、ぜひお誘いください。一人でも多くの子供たちに私共の授業を届けられたらと願っております。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年6月8日火曜日

【第160回】宇宙のロマン ~ 白熱化する火星探査レース ~

 

~ 白熱化する火星探査レース ~

 

去る5/26の夜8時過ぎ、夜空を見上げた人は多かったのではないでしょうか?月面の全体に地球の影が落ちる「皆既月食」と、今年で地球に最も近く大きな満月となる「スーパームーン」とが重なる珍しい機会で、日本では24年ぶり。しかし、東京の空は曇って残念ながら見られませんでした。6/11、日本では見られませんでしたが、日の出と日食が重なり、三日月のように欠けた太陽が水平線に出現したのを北半球では見られたところもありました。5/26、観測史上最古となる124億年前の渦巻き構造を持つ銀河を発見したことを国立天文台などの研究グループが発表したと報じられました。

 
欠けた太陽の日の出

宇宙にロマンを感じる出来事は、天体ショーや新発見ばかりではありません。宇宙に行くことにもロマンを感じます。国際宇宙ステーション(ISS)で5カ月半の滞在を終えた野口聡一さんら4人の飛行士を乗せたスペースX社の宇宙船「クルードラゴン」が5/2地球に無事帰還しました。これに先立ち4/28には星出彰彦さんが日本人2人目のISS船長に就任。ロシアの宇宙機関ロスコスモスは5/13、ZOZOの創業者・前澤友作氏が12/8にソユーズ宇宙船でISSに出発する予定だと発表。アマゾンのCEOジェフ・ベゾス氏は6/7、自らが創業した宇宙開発企業ブルーオリジン初の有人宇宙船「ニューシェパード」に搭乗して7/20に宇宙旅行に出発する計画を発表し、弟のマーク・ベゾス氏も同乗し、5歳からの夢を叶えると言います。

そのような中、火星探査レースが過熱化しています。火星探査レースは1960年代からスタート。2004年に降り立って火星表面を移動しながら探査活動を始めた米国の「スピリット」と「オポチュニティ」というローバー(探査機)はインパクトがあり、当時教室でもレゴのロボットを使った「火星探査ミッション」という活動を行いました。その後、2007年に「フェニックス」、2012年の「キュリオシティ」が着陸し、火星の生命の痕跡や可能性の追求を続けています。

そして、2020年夏には、火星探査機が3機、打ち上げられました。NASAの「マーズ2020」と、アラブ首長国連邦(UAE)の「HOPE」と、中国の「天問1号」 です。マーズ2020は、今年2月に「パーサヴィアランス」ローバーを着陸させました。これには火星初のヘリコプターとなる「インジェニュイティ」が搭載されており、「パーサヴィアランス」が中継するコマンドを受信して自律飛行を行います。日本もJAXAの研究グループが火星探査用ドローンを設計し、2030年代に火星探査での実用化を目指すとのこと。NASA火星ヘリコプターの3倍以上の距離を飛べるそうです。中国「天問1号」は火星を回る軌道に探査機を投入し、火星に着陸させ、さらに今後、探査車で地表を走らせるという三つのミッションに一気に挑むとのこと。NASAですら大気圏突入から着陸までを「恐怖の7分間」と表現していますので、その技術の高さに驚かされます。UAE「HOPE」は昨年7月に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた三菱重工業のH2Aロケット42号機に積載されて軌道に投入された後、火星に向かいました。UAEは100年後の2117年までに、火星上に人類が居住できる最初の都市を建設し、国民の60万人を移住させるという壮大な計画を掲げています。日本の計画としては、「火星衛星探査ミッション」があり、2024年9月打ち上げ、2025年に火星周回軌道へ投入して火星衛星の擬周回軌道に入り、火星の月フォボスに於いてサンプルを採取、2029年9月に地球帰還する予定です。また、インドの2機目となる火星探査機MOM-2も2022年に計画されています。


 
パーサヴィアランス
 
インジェニュイティ

宇宙にロマンを感じる一方、軍事利用や鉱物などの資源開発、宇宙ゴミなどの問題が切実さを増しています。地球上で抱える問題を宇宙にまで拡大することのないよう、むしろ地球の問題を有効に解決できるよう、開発の方向性をかじ取りする必要があるようです。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年5月8日土曜日

【第159回】未来都市とはどんな姿?

 

~ トヨタ「ウーブンシティ」プロジェクトがスタート  ~

昔から未来の夢の一つとして「未来都市」という言葉はよく使わ れていますが、最近は現実的な意味を帯びてこの言葉をよく聞きます。

SDGs未来都市』。これは、「SDGs達成のため積極的に取り組 む都市」として内閣府地方創生推進室に選定された都市のこと。 もともとは日本を低炭素化社会に転換するため、温室効果ガス の削減などに対する取り組みが評価された自治体が選出される 『環境モデル都市』(2008~)に、環境・超高齢化対応等に向け た、人間中心の新たな価値を創造する都市であるという要素が 加わり,『環境未来都市』に(2010)。そして、首都圏への人口の 一極集中を改善し、それぞれの地域で住みやすい環境を確保 することで、日本の活力維持につなげることを目的とした『地方創生』が言われ始めました(2014)。これらが複合されて『SDGs未来都市』の募集が始まったのです(2018~)。以来、SDGs未来都 市には毎年30前後の自治体が選定されています。また、SDGs未 来都市のなかでも特に先進的な取り組みをする都市は、『自治体SDGsモデル事業』として選定されます(年間10件)。

『SDGs未来都市』は、SDGsが達成される未来の創造に画期的 な取り組みをしている自治体を指しているので、「未来に出現する都市そのもの」ではありません。一方、「未来の都市そのものの姿を創造しよう」というのが、トヨタの未来の実証都市『ウーブンシティ(Woven City)』プロジェクトです。『ウーブンシティ』は、昨年1月7日、ラスベガスで開催される世界最大規模のエレクトロニクス 見本市「CES 2020」で発表されました。場所は、昨年末に閉鎖さ れたトヨタ東富士工場(静岡県裾野市)の跡地。東京ドーム約15個分に値する175エーカー(約70.8万m2)の範囲で街づくりになり ます。そして、今年2月23日に地鎮祭が行われ、造成工事が本格的に始まりました。2025年までに高齢者や子育て世代の家族 、研究者などを中心に360人程度、将来的にはトヨタ従業員を含む2千人以上が暮らす予定です。

 
ウーブン・シティのイメージ

このプロジェクトの目的は、ロボット・AI・自動運転・MaaS(バス、 電車、タクシーからライドシェア、シェアサイクルといったあらゆる 公共交通機関を、ITを用いてシームレスに結びつけ、人々が効 率よく、かつ便利に使えるようにするシステム)・パーソナルモビリ ティ・スマートホームといった先端技術を人々のリアルな生活環境の中に導入・検証出来る実験 都市を新たに作り上げること。まさに、スマートシティです。

「ウーブンシティ」は、日本語に直訳すると「編まれた街」。これは、①スピードが速い車両専 用の道として、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道 ②歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードの ような道 ③歩行者専用の公園内歩道のような道 の3種類の 道が、網の目のように織り込まれたデザインに由来しています。 地下にも物流用の自動運転車走行道を設置する計画。街の建物は主にカーボンニュートラルな木材で建設、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、環境との調和やサステイナビリティを前提とした街づくりが基本。住民には、室内用ロボットの他、AIで健康状態をチェックするなど、日々の暮らしの中に先端技術を取り入れます。また、街の中心や各ブロックには、住民同士のコミュニティ形成やその他様々な活動をサポートする 公園や広場も整備されるそうです。

 
自動運転EV「e-Palette(イーパレット)」

今のところ、パートナー企業としては,NTTが「スマートシティ プラットフォーム」を構築し、自動運転技術などを搭載したトヨタ の「CASE車」とNTTの5G(第5世代移動通信方式)、IoT(モノの インターネット)技術を融合。5月10日、ENEOSをコアパートナーに迎えて、水素エネルギーの利活用について検討を進める と発表。ウーブンシティ内に定置式の燃料電気(FC)発電機を設置し、ウーブンシティおよびその近隣における物流車両の燃料電池化の推進を目指すだけでなく、水素需要の実用化に向けての検証および需給管理システムの構築といった目的も兼ねているとのこと。既にトヨタとパナソニックは2019年、街づくり事業に関する新会社を設立しています。まさに日本企業が一丸となってこのプロジェクトを推進していくようです。これよって、 開発のスピードアップが期待されます。

今の子供たちが大人になった時、どのような街に住んでいるのでしょうか?どのような街を創造していくのでしょうか?

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

【第158回】水素燃料電池の可能性

 ~ 新しい時代を作るためのイノベーション ~

昨年から始まったコロナ禍は今年に入っても勢いが止まらず、変異株の蔓延が問題となっています。東京も再び日々感染者数の増加傾向になり、昨年の緊急事態宣言と同等かそれ以上のより厳しい措置が発動されつつあります。

思えば昨年世界ではロックダウンなどにより、経済活動がストップしました。その時皮肉にも「大気汚染が深刻なインドで数十年ぶりにヒマラヤが見えた」「イタリアのベネチアで緑色に濁っていた運河の水が透明になった」など、一時的に環境の改善が見られました。2019年9月23日にニューヨークで行われた国連気候行動サミットで、グレタ・トゥーンベリさんが「大絶滅を前にしているというのに、あなたたちはお金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり」「私はあなたたちを絶対に許さない」と抜本的な改革を起こさない大人を痛烈に批判したことも、コロナ禍が始まり今や遠い過去のことのように感じられるかもしれません。しかし、コロナ後、人類が取り組む最大の問題は『気候変動』であると言われています。昨年菅首相は就任後、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする(2050年カーボンニュートラル)脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、バイデン新大統領となったアメリカは地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に復帰したことを見ても、今や気候変動問題に取り組むことが国家戦略の重要な一つになっていることが分かります。

太陽光・風力・地熱・バイオマスなど様々なクリーンエネルギーが研究されています。ミドリムシ由来の油脂と使用済み食用油などでバイオディーゼル燃料を製造し、この4月からいすゞ自動車がシャトルバスで使用を開始するという事例もあります。中でも注目は水素燃料電池です。これは、「水素」と空気中の「酸素」を反応させて電気を起こす画期的な発電システムで、排出されるのは水だけです。原理は、簡単に言えば「水の電気分解」を逆にしたもの。水素の持つエネルギーの83%を理論的には電気エネルギーに変えることができる(ガソリンエンジンの最高効率が40%程度)、高いエネルギー効率をもつクリーンエネルギーです。最新の燃料電池車であるトヨタMIRAIは満タン状態で850kmを走ることができ、「水素ステーション」でタンクを満タンにするまで5分~10分程度で済むそうです。

 
水素化プラント外観

しかし、水素ステーションはまだ全国で130カ所強しかありません。大量の水素を入手する必要があります。水素は宇宙に存在する元素の約70%を占めるほど豊富にある物質ですが、単体では自然界にほとんど存在せず、地球上では水や化石燃料、有機化合物などの形で存在するので、そこから水素を取り出す必要があります。そこで、川崎重工がオーストラリアの「褐炭」という石炭の一種に目を付けました。現在国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「褐炭水素プロジェクト」も推進されています。褐炭は、石炭と同程度の埋蔵量があるとされ世界に広く分布していますが、水分量が50~60%と多いうえ、乾燥すると自然発火するという少々扱いづらい資源なので、輸送が難しく、採掘地付近で発電に使う程度しか用途がありません。ただ、非常に安価に入手できるため、もっとも経済的な水素製造方法の1つと言えます。日本の発電電力量の約4分の1は石炭火力であり、2019年COP25の会期中2度も温暖化対策に消極的な国に与える不名誉な賞「化石賞」を小泉環境大臣に与えるなど、国際社会から批判されてきましたが、石炭から水素というクリーンエネルギーを取り出すとは!と大変驚きました。中でも日本の総発電量の240年分の褐炭が眠るとされるビクトリア州で、水素の採掘から製造、液化、輸送、そして、国がロードマップのフェーズ3で掲げるCCS(CO2の回収・貯留)までをトータルで行う『CO2フリー水素チェーン』を、現地政府と一緒に推進しているとのことです。2019年世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の命名・進水式を行いました。水素を液化して800分の1の体積にして零下253度で日本へ運ぶそうです。


 
液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」進水式

やはり新しい社会を創り出すには「イノベーション(革新)」が必要です。革新的なものを生み出す能力のある人間に育つよう、多様なものの見方や考え方、創造力、問題解決力を育てるTruthの教育が資することができれば幸いです。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年3月8日月曜日

【第157回】教育用レゴブロックの歴史

 

~  MITから生まれた教育を次につなげよう!  ~

トゥルース・アカデミーは、2000年に日本における第1期のレゴとロボットの教室を開講し、メカニズムとプログラミングを中心するSTEM(科学・技術・工学・数学)教育を行っております。この20年間、使用している教育用レゴブロックは度々変遷してきました。

●ブロックビルダー(BB)Ⅰ・Ⅱ・Ⅲで使用している「アーリーストラクチャー」は、2015年に販売終了。


 
アーリーストラクチャー

●キッズクリエータ―(KC)Ⅰで使用している「アーリーシンプルマシン」は、他の教材が変遷する中、開講当初から変わらず販売されてきましたが、昨年12月末に廃盤。デュプロサイズでメカニズムを直感的に学べるとても優れた教材がなくなることはとても残念です。


 
アーリーシンプルマシン

●KCⅡでは、開講当初は「ミニセット」というテコ・車輪と車軸・歯車・滑車の4部門がそれぞれのセットになっていたものを使用していましたが、一時廃盤になり、その後現在使っている「シンプルマシンセット」にリニューアルし、ミニセット4セットが1つにまとめられました。シンプルマシンセットも昨年12月末に廃盤となりました。


 
シンプルマシンセット

●KCⅡで使用している2012年に発売されたロボティクス導入教材「WeDo1.0」は、16年WeDo2.0としてリニューアル。BluetoothでiPadからロボットにプログラムが送れるようになりました。

●ジュニアエンジニア(JE)Ⅰ・Ⅱでは、当初「シンプル&パワード」というポッチ付きビームを中心としたセットでしたが、2009年に今の「サイエンス&テクノロジー」にリニューアル。ポッチのないビーム中心になりました。そして、これも昨年12月末で廃盤。


 
サイエンス&テクノロジー

●ジュニアインベンター(JI)で使用している、「空気力学セット」と「エネルギーセット」は、10年に発売され、19年に廃盤。

●ロボットサイエンスでは、98年に発売されたMindstormsが、RCX→NXT→EV3と3代続き、今年6月でその歴史に幕を閉じます。

現在Truthで使用している教材がすべて廃盤となります。引き続き発売されるWeDo2.0に加え、「BricQ モーションベーシック」(6歳以上)と「BricQ モーションプライム」(10歳以上)が今年1月に新発売となりました。

 
BricQ

どちらもベーシックサイズの小さなブロックで、テクニック系のパーツが多いセットです。ブロックサイエンスで使用している教材の後継教材に当たります。どちらも家庭用学習教材が別売されます。

ロボット教材は、昨年発売開始した「SPIKEプライム」が主流になります。これまでのMindstormsは計測系のプログラミング言語LabVIEWをベースにし、データロギングもできましたが、SPIKEプライムはScratchでプログラミングするため、利用範囲は狭まるようです。また、Mindstormsに対応したサードパーティーのセンサー類が豊富にありましたが、まだSPIKEプライムに対応したものは見当たりません。そのため、これまでTruth生が参加できるロボットコンテストも比較的易しいものに限定される恐れがあります。


 
SPIKEプライム

レゴ社が提供する新教材のカリキュラムは、WeDo2.0同様、どれもプロジェクト中心になっていて、これまでのようにメカニズムの研究を通して物理の世界を体験する、とはいかないようです。SPIKEプライムのプログラミングも予めプログラムが用意され、課題に沿ってプログラムの一部を変更して学習するようになっているので、体系的にプログラミングを学ぶ構成にはなっていないようです。レゴエデュケーションの教育は、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが開発したカリキュラムと、レゴ社と共同開発した教材から始まりました。新教材が発売されるたびに、MITカリキュラムから遠退き、学問的な要素が失われていく気がします。

Truthでは当面1~2年は現在の教材を使用し、この間に新教材を使ったカリキュラム開発を行って、この教育の原点であるMITカリキュラムを活かしたTruthオリジナルカリキュラムをご提供する予定です。SPIKEプライムも、対応したサードパーティーのセンサー類が充実した段階でこれに切り替えたいと思っております。さらなるTruthの挑戦にご期待ください。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年2月8日月曜日

【第156回】スマホが脳をハッキングする

 ~  集中力こそ現代社会の貴重品 ~

 

― Facebookの「いいね!」の開発者は、「SNSの依存性の高さはヘロインに匹敵する」と発言し、自らFacebookへのアクセス時間を制限した。スティーブ・ジョブズはiPadをわが子に与えるかを問われて「そばに置くことすらしない」と答えた。ビル・ゲイツは子供が14歳になるまでスマホは持たせなかった。―

コロナ禍にあり、テレワークやオンライン授業が盛んに推奨されている中、こんな衝撃的な事実を紹介したのは、昨年11月に刊行され今世界的ベストセラーになっている『スマホ脳』。著者は、『一流の頭脳』で一躍世界的評価を受けたスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンです。中でも衝撃を受けたのは教育大国として知られるスウェーデンの教育界。学校からの著者への講演依頼が急増、彼の提案する改善メソッドを現場に取り入れる学校が日に日に増えているそうです。

彼は、「大人は1日に4時間を、10代の若者なら4~5時間をスマホに費やす。この10年に起きた行動様式の変化は人類史上最速。現代社会は人類の歴史のほんの一瞬に過ぎず、地上に現れてから99.9%の時間を人間は狩猟と採集で暮らしてきた。人間の『脳』は今でも狩猟採集時代の生活様式に最適化されている。現代社会と人類の歴史のミスマッチが重要な鍵である」と言う。なぜチャットの通知が届くとスマホを見たい衝動にかられるのか?なぜ人はリンクを思わずクリックをしてしまうのか?SNSはお金儲けのためにいかに巧妙に私たちの脳をハッキングしているか?なぜネット社会ではフェイクニュースの方が正しいニュースより多く、拡散速度も速いのか?なぜスマホがポケットに入っているだけで集中力が阻害されるのか?なぜスマホを過剰に使うと、ストレスがたまったり睡眠不足になったり、健康に壊滅的な影響を与えるのか?そして、なぜ周囲の人に関心を持てなくなるのか?…様々な調査結果を基に脳科学の観点からそのメカニズムを解き明かしています。

「基本的にすべての知的能力が、運動によって機能を向上させる。集中できるようになるし、記憶力が高まり、ストレスにも強くなる。長期記憶を作るには集中が必要であり、固定化するプロセスは睡眠中に行われる」という科学的根拠を基に、「睡眠、運動、そして他者との関りが精神的な不調から身を守る3つの重要な要素」「本当の意味で何か深く学ぶためには、集中と熟考の両方が求められる」と述べ、『第7章バカになっていく子供たち』では、衝動に歯止めをかける前頭葉は成熟するのが最も遅く、子供や若者のうちは未発達なためデジタルなテクノロジーをさらに魅力的なものにし、興奮を感じさせるドーパミンの量が多い10代は依存症のリスクが高くなると警告しています。そして、「子供たちが能力を発揮するためには、毎日最低1時間は身体を動かし、9~11時間眠り、スマホの使用は1日 最長2時間まで」と提言します。

また、持論を裏付ける様々な研究成果を紹介しています。2歳児は本物のパズルをすることで指の運動能力を鍛え、形や材質の感覚を身につける。そういった効果はiPadでは失われてしまう。就学前の子供を対象にした研究では、手で、つまり紙とペンで書くという運動能力が、文字を読む能力とも深く関わっているのが示されている。小学校高学年の半数に紙の書籍で短編小説を読ませ、残りの半分にはタブレット端末で読ませた。その結果、紙の書籍で読んだグループの方が内容をよく覚えていた。米国小児科学会は「衝動をコントロールする能力を発達させ、何かに注目を定めて社会的に機能するためには、遊びが必要だ」と指摘している。小児科医の専門誌も、普通に遊ぶ代わりにタブレット端末やスマホを長時間使っている子供は、のちのち算数や理論科目を学ぶために必要な運動技能を習得できないと警告している。…等々

これからますますデジタル機器が生活における存在が増していく中、自分の身は自分で守れるよう、子供たちの健全な体と頭脳を育てられるよう、流れに身を任せるのではなく、一歩立ち止まってデジタル機器との付き合いを考える必要性を痛感しました。ぜひご一読を。

【参考文献】『スマホ脳』アンデシュ・ハンセン著/久山葉子訳(新潮社)

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2021年1月8日金曜日

【第155回】2021年 新年のご挨拶~パンデミックという歴史の真只中に生きる

 ~ パンデミックという歴史の真只中に生きる ~

2020年希望を与えたはやぶさ2[/caption]

2020年はコロナに始まり、コロナに終わりました。東京都は大晦日に2,447人の感染者を記録し、年が明け、1/7に2度目の緊急事態宣言が発出され、2021年はさらに深刻なコロナ禍で幕を開けました。

1/16時点で世界の感染者数は93,844,190人 死者2,008,548人に達しています。14世紀のペストや第一次世界大戦時のスペイン風邪のような、歴史に刻まれるパンデミック(世界的大流行)が頭をよぎります。ペストをきっかけに農奴に依存した荘園制の崩壊が加速、当時の教会の権威が失墜し、中世という時代が終焉を迎えます。そして、ルネサンスを迎えて文化的復興を遂げ、強力な主権国家を形成する近代が生まれたのです。パンデミックは時として大きく歴史そのものを変えることがあります。この新型コロナウイルス感染症のパンデミックが今後どのような軌跡をとるのかは分かりませんが、パンデミックがさらに遷延すれば、私たちは、私たちが知る世界とは全く異なる世界の出現を目撃することになるかもしれません。私たちは今まさにその歴史の真只中に生きているのです。

 
世界の感染者状況

敗戦の1945年を起点とした場合、75年経った時点が2020年、逆に75年遡ると1870年。五箇条の御誓文が発表されて、元号が明治に変わった明治維新が、その2年前の68年。戦後国家と戦前の明治国家がほぼ同じくらいの時間になります。1/4日経新聞に掲載された、同紙論説フェローの芹川洋一氏「2021年から始まる日本」では、コロナによってコペルニクス的転回とも言えるくらい世の中が変わり、我々自身も行動様式の変容を迫られた2020年は歴史的転換期と捉え、近現代史における周期説を紹介しています。

まず代表的な「15年周期説」。■1915~30年=大正デモクラシー■31~45年=軍国主義■46~60年=戦後民主主義■61~75年=高度成長■76年~90年=低成長。氏はこれを以降に当てはめます。■91年~2005年=バブル崩壊後の「失われた」期間。国際的にはグローバル化の進展■06~20年=逆に振れた時代。経済は再生を目指し、政治は制度改革を行い、反グローバリズム化が加速。そしてコロナですべてが停止状態に陥る。

次に「25年単位説」。●1870~95年=開化と国家建設●95~1920年=帝国主義列強化と階級闘争●20~45年=経済恐慌と戦争●45~70年=復興と成長●70~95年=豊かさと安定●95~2020年=衰退と不安、と位置付けています。親と子の平均的な時間距離である25年が世代の間隔というのが、この見方の根拠になっているとのこと。また、資本主義経済では25年の上昇局面と25年の下降局面を持つ50年周期がこれにかぶさって長期波動と世代間隔の共振作用が起き、2020年がその節目だとすると、日本は今後25年間次なる段階に入ることになる。

芹川氏は、75は15と25の最小公倍数であり、歴史の切れ目には因縁めいたものを感じると述べています。「25年単位説」を唱える東大大学院情報学環の吉見俊哉教授は、「このままでは先がないと思ったときに初めて構造転換が起こり社会が変わる。コロナは黒船だと思ったらよい」と。

コロナによって社会の格差が浮き彫りとなり、民主主義の後退、資本主義の行き詰まりが懸念されている現在、私たちはどこに向かって進んでいくのでしょうか?そして、どのような新しい時代が開けてくるのでしょうか?今、私たちの身の回りで起きていることをつぶさに見続けなければならないと強く感じます。そして、Truthが今できることは、これからどのような時代になろうとも、子供たちが新しい時代の担い手としてより良い社会を築く素養を育てることだと痛感します。自分の目でしっかり見て、自分の頭で考えて、人と協力しながら問題解決し、新しいものを創造していく力を養うことです。芹川氏は言います。「明治の人たちもたぶんそうだったように、ここは令和のわれわれも子や孫のためにも歯を食いしばって踏んばっていく―。そんなしんどい時代だろう」と。しかし、子供を育てることは楽しいことです。子供たちの好奇心で輝く目をいつまでも見ていられるよう、常により良い教育の提供に精進したいと思います。

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳