2022年4月21日木曜日

【第169回】ここが違う!TruthのSTEM教育①

~ 社会的構成主義を実現する独自カリキュラムと指導 ~


2020年から小学校でプログラミングが必修になることを受け、雨後の筍のように同種の教室が増えてきています。そのような状況の中、2000年からSTEM教育(科学・技術・工学・数学教育)を実践している当アカデミーが依然として他の教室と一線を画す特長はたくさんあります。

 

 その中で最も重要なのは、「社会的構成主義」という教育理論を実現している点です。現在世界の子供たちが求められている学力は、OECDが実施する国際的な学習到達度調査(PISA=ProgrammeforInternationalStudentAssessment)が求める学力、いわゆる「PISA型学力」であることは周知の事実となっています。その育成に最も有効とされる教育が、PISAにおいて学力世界一を誇ったフィンランドの教育です。そして、フィンランド教育を世界一に導いたのが「社会的構成主義」と言われます。一言で言うと、「知識は固定的に教え込まれるべきものではなく、他者との協働の中で構成されていくと考える教育哲学」です。

 

 砕いてお話すると、「構成主義」とは、教師が一方的に知識を与えるのではなく、「学習者としての子供たちが自らの活動を通して自分自身で知識を構築し獲得できるようなものでなければならない」とする考え方です。これに「Leaning by Making(作ることで学ぶ)」という主張を加えたのが、マサチューセッツ工科大学メディアラボの創設者の一人、人工知能の研究者としても広く知られるシーモア・パパートが唱える教育理論「コンストラクショニズム」。パパートは、「デバグの効用」や「推論・実験・検証という正しい学びのサイクル」を唱え、プログラミング教育・ロボット教育の元祖であり、プログラミングソフトScratchの源やLEGOMindstorms®のアイデアを生み出しました。「社会的構成主義」とは、これを分断された個人が行うのではなく「他者との関わりで学ぶ」、すなわち、他の学習者と意見を交換したり刺激し合ったりしながら、その協働の中で知恵や知識を高め、自らの力で目標を達成させる、という考え方なのです。ここでは、教育者の役割はteacher(ティーチャー)instructor(インストラクター)として知識を与えることではなく、facilitator(ファシリテーター・促進者)mentor(メンター・良き助言者)として学習者たちの活動を目標に向かって正しく進めるように導くことになります。

 

 「21世紀型スキル」を育成するには、プログラミング教育やロボット教育は不可欠です。しかし、ICTスキルの育成にだけ軸足を置いては、単なる教科の学習と何ら変わりはありません。創造力・イノベーション・批判的思考・問題解決・意思決定・学びの学習・メタ認知(認知プロセスに関する知識)・コミュニケーション・コラボレーション(チームワーク)・地域と国際社会での市民性等を含む「21世型スキル」やPISA型学力をも育成するには、「社会的構成主義」が避けては通れないと確信しています。そのため、既存のカリキュラムでは実現できないので、パイオニアとして、全カリキュラムと授業案、ワークシートをオリジナルで作成し、他にない指導を20年以上にわたって実践し続けているのです。

 

 お蔭様で、Truthの授業を見学したり指導者養成講座を受講したりした学校の先生や教育関係者からは、「理論と実践が完璧に一致している」と評価をいただいています。また、教室での活動を拡大して行うNPO法人科学技術教育ネットワーク(略称NEST)では、ICTを活用した教育実践事例のコンテスト「ICT夢コンテスト」でも、「ICTを活用して社会的構成主義を実現する活動」として認められ、3年連続CEC奨励賞を受賞しています。

 

 Truthには、21世紀に求められる新しい教育があります。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2022年3月28日月曜日

【第168回】加熱する中学受験

~ コロナ禍が浮き彫りにした公私の差? ~

 3回にわたってご紹介した練馬区地域おこしプロジェクトですが、残念ながら最終選考で選に漏れてしまいました。おそらくその理由は、国際的ロボットコンテストは練馬区でしかできないことだろうか?ということだと思います。確かにどこでも開催できます。新宿区でも文京区でも渋谷区でもできるでしょう。しかし、練馬区で開催しない理由も考えられないと思っています。  現在のオミクロン株による第6波では児童の感染者も増え、幼稚園・保育園・学校が学級閉鎖や学年閉鎖など、その影響を受けています。練馬区の公立学校では、GIGAスクール構想によって生徒全員にパソコンやタブレットなどの端末が行き渡ってい ますが、オンライン授業は行わない、端末は勝手に使ってはならず学校と家庭との連絡用としてのみ、といった話が生徒から聞かれます。この現状に一石を投じ、改革する機会を失ったのはとても残念なことです。一方、私立学校ではオンライン授業への対応が速く、2020年の段階で、双方向(先生と生徒がやり取りできる)型オンライン授業については、公立中学が10%に対して私立中学は72%。動画配信などを加えたオンライン学習となると、私立中では90%以上が実施していました。

科学教育については、海城中高がサイエンスセンターを新設し校舎自体を教材とする試みを始め、約90年前から太陽の黒 点観測を続けるなどサイエンス教育で知られる武蔵中高(写真 は同校にある天体望遠鏡)は新校舎「理科・特別教室棟」を新築、創立150周年の開成中高も7月に完成した高校新校舎A棟 と23年に完成予定のB棟をつなぎ最上階を理科専用フロアに、 桜蔭学園も創立100周年事業として、23年度までに新設する校 舎に理科専用フロアやデジタル機器を活用できるコーナーを設置、芝浦工大付は来年の100周年を前に「STEAM教育」を前面 に打ち出す校舎を完成――と、サイエンス教育に力を注ぎ始めています。この波は、山脇学園・恵泉女学園・富士見中高・昭和女子大付・普連土学園・女子美術大付といった首都圏の伝統ある私立女子中高にも見られ、 理科探究やデータサイエンス教育 の重視に乗りだし、人気を集めてい るそうです。「文理問わずサイエン ティストの力を」と改革に取り組む女 性校長たちも出てきているとのこと。 

武蔵高等学校中学校にある天体望遠鏡

これらの背景もあり、2022年度都圏中学入試は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けたにもかかわらず、受験者数は6 万2,400人と前年度より700人増加、2009年につぐ過去2番目の高水準となったとのこと。また、特長的な教育活動等、偏差 値や大学合格実績という数字に表れる成果以外の視点で学 校を選択するという行動様式が近年定着してきているようです。入試問題も、知識の量を問うだけでなく、麻布中では難民問題、開成中はジェンダー問題、女子学院では表現の自由と人権問題など、公立の学校であれば「偏向教育」と攻撃されかね ない社会問題を批判的に考える力を問う問題が見られるよう になってきました。また、首都圏ではプログラミング入試を実施している学校も現れています。

民間のみならず学校教育でも私立を中心にロボット教育・プ ログラミング教育が浸透しつつある昨今ですが、入試のための学習、教科の学習に堕すことなく、ロボット教育・プログラミング 教育が持つ力を発揮できる教育の在り方を死守しなければな らないと思っております。それは、実証的な精神に基づいて、「 推論・実験・検証」という正しい学びのサイクルを繰り返すこと によって、論理的思考力や正しい洞察力、批判的思考、問題 解決力を自らの体験として獲得していく教育です。トゥルースには、3つのコースがありますが、「遊びと学びの融合」をテーマに楽しく実践できるよう綿密なカリキュラムを提供しています 。中学・高校・大学と進んでいく中で、大きな財産となることを期待しています。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2022年2月9日水曜日

【第167回】練馬区地域おこしプロジェクト③

 

~ STEM教育の在り方に対する危惧 ~

NPO法人科学技術教育ネットワークとして、令和4年度『練馬区地域おこしプロジェクト』事業企画募集に『練馬発・国際ロボット教育 ― つながろう!教育の輪で』という事業を応募し、「国際的ロボットコンテストを練馬で開催しよう!」という提案をいたしました。1次書類審査が通ったという連絡が年明けにあり、先日10名ほどの専門家の審査員を前に2次審査のプレゼンおよび質疑応答を行ってまいりました。

 

1次審査書類審査に先立ち、練馬区在住の保護者の方々にアンケートをお願いし、通信165回(https://truth-academy.jp/truth-shisen/501)でSTEM教育を望む声をご紹介いたしましたが、一方でその在り方に危惧を抱く方もいらっしゃいました。その危惧にお答えしたいと存じます。

■一般論として、区のプロジェクトに採用された場合に、レベルに高低差のある子供たち相手に、短期で目に見える成果を上げることを求められる(~が出来るようになる、など)と、とにかく詰め込み教育になりがちかなと思います。
■いま国で検討されている内容が、他の教科と同じような詰め込み型の学習になってしまうと、むしろ数学、理科嫌いを助長させてしまうのではないかと、不安。課題解決のツールとして身につけ、活かせるような教育になってほしい。自分たちで手を動かして、課題解決に導く、そんなカリキュラムだと、いいと思う。失敗から学べることも多いことも、身を持って感じられるような…。

 

トゥルースは中学校や高校では毎週1回1年間の授業を行ってきましたが、一方この20年間日本科学館は杉並区科学館等、いろいろな科学館や区との協働事業で、1クラス20~30名の1日~3日の短期講座を行ってきました。私共の使命は、『社会的構成主義』という教育理論(視線128回参照:http://truth-shisen.blogspot.com/2018/04/128.html)の実践と普及にあります。学校の先生始め教育関係者からは「理論と実践が完璧に一致しいている」との評価をいただいており、「問題解決学習とは、こういうことなのか!」というお声もいただいております。指導者向けの著書や雑誌の連載、NESTが運営する指導者向けe-learningサイト「STEMing」でも、その手法を紹介しています。そのため、詰め込み教育に陥ることなく、「Activity Based Learning(子供たちの活動をベースにした学習)」「Project Based Learning(プロジェクト型学習・問題解決型授業) 」「Future oriented Education(未来志向の教育)」を実践するノウハウ、経験は十分にあると自負しております。

■STEM教育に興味を持つ保護者は、教育熱心だと思います。そこで考えられるのが、中学受験との兼ね合いかと。可処分時間を考えて、中学受験の塾よりもSTEM教育を選択してもらうには、STEM教育の結果を見せるのが大切かと思います。中学受験は、学歴という短期の利益を得ることができるのに対し、STEM教育は短期的利益はあまり見込めません。長期的目線でどのような利益があるのかを訴えないと、保護者はお金と時間をかけないと思います。

 

もっともなご意見だと思います。しかし、受験とSTEM教育は両立できないものなのでしょうか?長く通っている生徒しか合格校は分かりませんが、トゥルースに通いながら受験勉強もして、御三家・早慶・国公立を始め優秀な学校に入学している生徒が多いようです。高校や大学の推薦状を依頼されることもあります。ご本人のロボットコンテストでの実績や活躍をしたためた私の推薦状がどれだけの効果があったのかは分かりませんが、全員から志望校に合格したという報告をいただいております。そして、ほぼ100%が理系に進学しています。また、生徒から講師になり、10年~20年トゥルースに関わってきた学生たちは、ロボット・ゲーム・機械・電気・制御関連の専門性を活かした職に就いています。21世紀の三種の神器が「機械・電気・AI」と言われる中、STEM教育を通じて『21世紀型スキル』(視線95回参照:http://truth-shisen.blogspot.com/2015/02/)を身につけた成果であると感じております。また、ロボットコンテストから得られる成果の一つとして、子供たちが将来大人になって社会に出たとき、○○年のジャパンオープンに出たよ、○○年の世界大会に出たよ、というだけで、日本中に世界中に人的ネットワークを手にすることができるということが挙げられます。かけがえのない人生の財産を手にすることができる場でもあるのです。

 

 

ロボカップ2012世界大会 優勝チーム「Amalgam」

 

令和4年度『練馬区地域おこしプロジェクト』の採択事業は2つのみ。難関ですが、練馬を起点としてSTEM教育の輪が全国に広がり、海外との交流も実現できればと願っています。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2022年1月8日土曜日

【第166回】新年のご挨拶

 

~ 高まるデータサイエンス教育の必要性 ~ 

 

2022年の東京は、北風が強く吹く晴天の元旦を迎えました。コロナ禍が発生してから早2年、一見落ち着きを見せていましたが、オミクロン株が猛威を振るう前の、束の間の嵐の静けさに過ぎなかったのかもしれません。ウィルスと人間の科学との戦いはまだ続きそうです。

昨年6/28スロバキアのクライン・ビジョン社が開発した「空飛ぶ車」が35分間の飛行テストに成功しました。「エア・カー」と名付けられた自動車兼飛行機です。スロバキアのニトラ国際空港からブラチスラバ国際空港までの70㎞を35分間で飛行に成功。着陸後、ボタンを押すとエア・カーは3分でスポーツカーに変身し、そのまま空港から市内へ移動しました。テストでは最高で高度2500メートルまで上昇し、速度も時速190キロまで出たということです。その映像は、まるでSF映画を見ているようです。

↓エア・カー飛行の様子


https://www.youtube.com/watch?v=a2tDOYkFCYo

「空飛ぶ車」の定義は様々ですが、経済産業省は、①電動②自動(操縦)③垂直離着陸を条件としています。

経産省の工程表では、2023年に離島の荷物輸送・観光地の遊覧飛行、25年頃に山間部や都市部の荷物輸送・旅客輸送、30年代に自動無人飛行・自家用を目指すとしており、2025年の大阪万博では、会場の遊覧飛行や会場と関西国際空港などを結ぶエアタクシーサービスを計画しています。

今後さらにAI(人工知能)やロボットの技術が進化し、それに携わる人材も当然必要となります。

昨年、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」という文部科学省の認定制度が始まりました。数理・データサイエンス・AIに関する知識及び技術について体系的な教育を行うものを文部科学大臣が認定及び選定して奨励するというものです。昨年は大学・短期大学・高等専門学校から78件の応募があり、11件が認定されました。その中には、ロボカップジュニアにもご協力くださり、Truthの卒業生も通う金沢工業大学の「KIT数理データサイエンス教育プログラム」、長岡工業高等専門学校の「AIR Techエンジニア育成プログラム」も入っています。

データサイエンス」という言葉を最近よく聞きますが、これはデータを用いて新たな科学的および社会に有益な知見を引き出そうとするアプローチのことで、数学・統計学・情報工学・機械学習など多岐に渡る分野と横断的に関係しています。このところ、経営戦略や販売促進にビッグデータや統計学が活用されるようになり、ビジネスシーンでも数学・統計学の必要性が高まっているようです。数学独習法の著者・富島佑允氏(大手外資系生保で資産運用部門に勤務)は、代数・幾何学・微積分学・統計学を「数学四天王」と呼び、その全体像をざっくりつかみ、俯瞰できるようになることの大切さを説いています。

また、教育の分野でも、欧米を中心に30年程前から統計教育の重要性が説かれ、データに基づく実践的な統計的問題解決力、思考力の育成を国家戦略として位置付けています。日本でも、平成20・21年度の学習指導要領では、小中高ともに統計教育が充実し、特に高校の数学や新教科の情報、大学入学共通テストではデータの活用内容に重点が置かれています。こども統計学 なぜ統計学が必要なのかがわかる本の監修者である渡辺美智子氏(理学博士/立正大学データサイエンス学部教授)は、「統計データを『調べる力』、そこから何かを『読み取る力』、その結果から『身の回りの問題を解決し改善する力』など、総合的な探求力が養える統計学では、すべての人に役立つ、生きる上で強力な武器になるのです」とその意義を説き、「日常の些細な事柄においても感情や思い込みではなく、エビデンスに基づき判断する」「統計リテラシーを育てるには、子どものうちからいろいろな文脈でデータを集め、データに基づいた判断を下す練習をしなければなりません」と、幼いころからの教育の重要性を訴えています。

コロナ禍において、様々なデータや統計、シミュレーションが報道されています。しかし、正しく統計を読む力、統計で考える力を持たなければ、正しい理解も正しい判断もできないのです。算数・プログラミングを扱っているリトル・ダヴィンチ理数教室でもデータサイエンス教育の導入を検討したいと考えています。

新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

― データは21世紀の刀、データ分析ができる人は21世紀のサムライ ―

Google元CEOエリック・シュミット

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳