2020年3月8日日曜日

【第147回】国際的学力到達度調査「PISA2018」-その1

 ~ 日本の子供たちのデジタル読解力不足 ~

皆様も驚かれたと思いますが、昨年12/4朝日新聞朝刊第1面に「『読解力』続落 日本15位」というショッキングなタイトルが躍りました。OECDが行う15歳を対象とした国際的な学習到達度調査「PISA2018」の結果です。

今回の調査は79の国・地域で約60万人が参加。日本からは183校・約6100人が参加しました。2015年以降、コンピューターを使ったテストとなっています。日本は「数学的リテラシー」は順位を1つ落とし6位、「科学的リテラシー」は2つ順位を落とし5位と、以前トップレベルを維持。しかし、「読解力」は8位から15位に落ちてしまいました。今回は3教科とも、「北京・上海・江蘇州・浙江省」(中国)が1位、シンガポールが2位、マカオ(中国)が3位。

「読解力」では、既存の問題72問にコンピューター用の新規問題173問を加えた計245問が出題されました。最初に出題される問題の結果によって、その後の問題の難易度が変わる「適応型テスト」を初めて導入しました。日本については、コンピューターを使ってネット上の多様な文章を読み解く力、テキストの中から情報を探り出したり、質と信ぴょう性を評価したりする能力の弱さや、根拠を示しながら自分の考えを他者に伝わるように記述する力の低さが指摘されました。自由記述形式の正答率は前回より12ポイント下がっています。また、前回、前々回と比べ、習熟度の低い生徒の割合が増えました。

記述式問題については、昨年末「大学入学共通テスト」で紛糾したことは記憶に新しいかと思います。これまでPISAで日本の子供たちの記述式問題の弱さが指摘されてきたこともあり、「記述式問題の導入により、解答を選択肢の中から選ぶだけではなく、自らの力で考えをまとめたり、相手が理解できるよう根拠に基づいて論述したりする思考力・判断力・表現力を評価することができます。また、共通テストに記述式問題を導入することにより、高等学校に対し、『主体的・対話的で深い学び』に向けた授業改善を促していく大きなメッセージとなります。大学においても、思考力・判断力・表現力を前提とした質の高い教育が期待されます」(文科省)という御旗を掲げました。しかし、「採点ミスの完全な解消」「自己採点と実際の採点の不一致の改善」「質の高い採点体制の明示」について現時点では困難という判断から、無期限の見送りとなりました。

耳塚寛明・青山学院大学コミュニティ人間科学部特任教授は、PISA読解力低下の謎に迫る仮説として、「読解力低下仮説」と「デジタル読解力不足仮説」を挙げています(1/27日経新聞)。前者は従来の議論の延長線上にあるとし、後者は新たな発見として知見を読み解くことつながると言います。まず、日本は学校の授業におけるデジタル機器の利用時間が短く、OECD加盟国で最低であること。小中高校のパソコンは児童生徒5.4人に1台(練馬区は16.5人/台と東京23区で最低、新宿区6.1人/台)、教室の無線LAN整備率は4割しかありません。また、「関連資料を見つけるために授業後にインターネットを閲覧する」生徒は、OECD平均23%に対して日本は6%にすぎません。コンピューターを学習や思考の道具として使う日常生活が圧倒的に不足していることを指摘しています。加えて今回の結果は「格差」の問題も提起しました。デジタル読解力は家庭の社会経済文化的背景(ESCS)が強く影響しているとのこと。家庭の経済状況4段階の最も厳しい層では、読解力の最下位水準の子が4人に1人いました。耳塚教授は「調査結果は日本の学校教育がデジタル社会への対応に失敗したことを教えている」と文章を結びます。

しかし、『AI vs教科書が読めない子どもたち』の著者・新井紀子氏(国立情報学研究所教授)が、『AIに負けない子を育てる』を昨年9月に出版し、前作同様、日本の子供たちの読解力低下に警鐘を鳴らしています。「読解力低下仮説」も決して看過できる問題ではありません。

 


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

トゥルースアカデミー
http://truth-academy.co.jp/