2014年6月22日日曜日

トゥルースの視線【89回】

ロボット・ルネッサンス②
-ロボット倫理学-



 
若田さん「一緒に地球に帰れなくてごめんね」
KIROBO「気にしないで。僕が乗ると定員オーバーだし」
 
日本人宇宙飛行士として初めて国際宇宙ステーションの船長を務め、今年5月地球に帰還した若田光一さんが、ロボット初の宇宙飛行士「KIROBO」と別れを告げるシーンが報道されました。今回の KIROBOのミッションは、「単身化社会で起こるコミュニケーションレスから発生する問題の緩和」― 孤独な宇宙空間で過ごす宇宙飛行士らとの会話を通じて、地球で進む単身化社会でロボットがどのような役割を果たせるかを探るというものです。
 
去る6/5、ソフトバンクの孫社長が突如発表会を開き、人型ロボット「Pepper」を紹介しました。身長120cm位、車輪を使って移動し、腕や指も動かすことができます。最大の特徴は、人の感情を読み取る感情認識機能を搭載していること。対話機能も備わっており、店頭での接客やパーティーで活用されるようです。Pepperは、感情認識機能で人間の感情を認識し、その情報をクラウドに記録して蓄積していくことにより、学習しながら成長する仕組みになっています。つまりロボット自体に高性能なハードウェアや大容量のメモリーを用意する必要がないので、製造コストが抑制され、198,000円という低価格を実現できたのです。しかも、他のPepperが得た情報も収集することで膨大なデータを利用することができ、1体だけでは得られない情報や知識を共有することで加速度的に学習が進むそうです。孫社長は、「脳型コンピューターがモーターという筋肉と合体するとロボットになります。やがて知的ロボットと共存する社会になる」と述べています。
 
人間とロボットが共存する社会では、その関係はどうあるべきなのでしょうか?
 
爆弾で吹き飛んだ「同僚」のロボットの死に涙し、「戦死」したロボットのために軍隊式の葬儀を執り行った兵士たちがいたそうです。いずれロボットが恋愛や結婚の対象になるという声まであります。しかし、2007年南アフリカ軍の半自律制御の対空砲が誤作動し、味方の兵士9人が死亡し、14人が負傷しました。Pepperのようにロボットが自律的に学習し進化するロボットがこのような誤動作をした場合、製造物責任法(PL)を適用することができるのでしょうか?
 
今、「ロボット倫理学」という学問が生まれています。
 
カリフォルニア州立工科大学准教授のパトリック・リンによると、「意識ある人間の脳(と体)には人権があり、脳の一部を別のもので置き換えても脳として正常に機能していれば、完全な人間でなくても『人権』があると見なすことができる。脳や体の半分以上が人工物ならば人間よりロボットに近く、『ロボットの権利』という問題が現実味を増す。だから、ロボットの自律化が人間に近付けば、ロボット自身に責任を負わせることも考えられる」というのです。
人間とロボットの共存には、まだまだ乗り越えなければならない壁がたくさんあるようです。
 
変化、継続的変化、必然的変化が現在の社会における支配的要因だ。今の世界だけではなく未来の世界も考慮しなければならない。つまり政治家も実業家も一般人も、SF的な考え方を身に付けなければならない。 ― SF作家アイザック・アシモフ(1920-1992)
 
【参考文献】『避けて通れないリスクと責任』パトリック・リン著
 (ニューズウィーク日本版2014ゴールデンウィーク合併号)


トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳
 


 


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