2016年3月30日水曜日

トゥルースの視線【106回】


プログラミング教育・ロボット教育のルーツ「シーモア・パパート」
『マインドストーム』-子供、コンピューター、そして強力なアイデア -
 
常々お話ししておりますように、当アカデミーでは、マサチューセッツ工科大学メディアラボのシーモア・パパート名誉教授が提唱する教育理論「コンストラクショニズム」に基づいた教育を提唱し、実践しています。教育関係者からは、「問題解決型の授業とは、こういうものなのか!」「理論と実践が完璧に一致している」という評価を頂いております。

ところで、シーモア・パパートとは、どんな人なのでしょうか?

パパートは、192831日に南アフリカで生まれた数学者であり、コンピューター科学者、発達心理学者です。後にMITメディアラボとなるMIT建築機械グループ認識学習研究班の創設者の一人でもあります。

1959年から5年間、スイスのジュネーブ大学で、ジャン・ピアジェの下で研究。ピアジェは発達心理学者として、質問と診断から成る臨床的研究の手法を確立し、『構成主義』を唱えました。これは、「子供は生まれながらにして積極的な知識の建設者である」という言葉に象徴されるように、ある対象について、子供たちが自分自身の力で理解を組み立てられるような形で教育すべきであるという学習・教授理論です。ピアジェはかつて「パパートほど私の考えを理解してくれる者はいない」と言ったそうです。ピアジェとの研究がパパートに大きな影響を与え、独自の教育理論「コンストラクショニズム」の考案につながりました。

1964年にマサチューセッツ工科大学(MIT)に移ります。そこで、「人工知能の父」と呼ばれるマービン・ミンスキーたちと共に、MITの人工知能研究所を創設。ミンスキーはパパートを「生きている内で最も偉大な数学教育者」と呼び、二人で人工知能の歴史の中でも大きな議論を呼んだ『パーセプトロン』を共著。本書は、ニューラルネットワーク解析の基礎を築いた一方、そこで示した結果により1960年代の第1次ニューラルネットワークブームを終わらせ、1970年代の「AIの冬」をもたらす原因のひとつにもなったとのこと。

1967年、ピアジェとの研究成果を生かし、コンピューターの使用を通じた児童の思考能力の訓練を目的とした教育用のプログラミング言語「LOGO」を開発。LOGOの最大の特徴は「タートル・グラフィック」です。画面上の亀(タートル)に動きと線描を命令し、プログラムに基づいて線で描かれた図形ができます。このLOGOを使った教育実践とその成果、教育理念と手法を著したのが、その著書『Mindstorms(マインドストーム)― 子供、コンピューター、そして強力なアイデア』(1980)。子供たちの「心」に「嵐」を吹き起こすという、強烈なインパクトのあるタイトルです。レゴ社のロボットキット「Mindstorms(マインドストーム)」の名前は、このパパートの著書の題名から取られたのです。

子供たちの理解に役立つよう、LOGOで操縦可能な亀のロボットがMITで作られたのは1969年。その後LEGO社との共同プロジェクトが立ち上がり、パパートの「コンピューターを搭載したレゴブロックができないか?」という提案により、MITメディアラボで「マインドストームRCX」が誕生。第2世代NXTを経て、現在のEV3となります。また一方で、「パーソナルコンピュータの父」と言われるアラン・ケイのダイナブック構想にも影響を与えました。アラン・ケイが自ら開発した「Squeak(スクイーク)」は、LOGOの手法を踏襲しています。また、パパートの下でレゴ・マインドストームの開発に携わったMITメディアラボのミッチェル・レズニック教授が、LOGOSqueakの系譜を引き継いだ、「Scratch(スクラッチ)」を開発。現在では、子供のプログラミング教育で大流行となっています。

このように、コンピューター教育、ロボット教育やプログラミング教育の原点にいるのが、シーモア・パパートなのです。

知識は、理解するということのほんの一部に過ぎない。本当の理解というものは実際の体験から生まれるものである。

― シーモア・パパート ―

 


トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

 






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