2019年1月23日水曜日

トゥルースの視線【第136回】


2019年新年のご挨拶
~ 人類は新たなステージへ ~


平成最後の年、東京は晴れて穏やかに明けました。昨年1220日、天皇誕生日を前にした天皇陛下の記者会見での、「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」というお言葉が心に残りました。思えば、昭和64年すなわち平成元年に、トゥルース・アカデミーは産声を上げました。そして今、平成の世が終わり、新たな時代が始まります。明けましておめでとうございます。

毎年元旦には新聞各紙に目を通しますが、ここ数年はITやAI(人工知能)、ロボットといった技術革新の特集が毎年組まれています。今年出色なのは、「つながる100億の脳 常識通じぬ未来、『人類』問い直す」というタイトルで始まった日経新聞『Tech2050新幸福論』の特集ではないでしょうか?①猿人から都市国家(個から集団へ変化)②第1次~第2次産業革命(動力・エネルギーの革新)③第3次産業革命(情報処理・共有の発展)④生命科学の進歩(人の限界への挑戦)に続き、今バイオとデジタルの発展により、「ヒト、機械、ネットワークの融合」を目指す「第5の革新」が加速度的に進行しているとのこと。その内容には大変驚かされます。全世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリは、その最新作『ホモ・デウス』で、これまで人類が苦しんできた「飢饉と疫病と戦争」は、もはや無力な人類の理解と制御の及ばない不可避の悲劇ではなく既に対処可能な課題となったと語り、次なる人類の課題として「不死と幸福と神性」を標的にする可能性が高い、ロボットやコンピューターと一体化しながら人間(ホモ・サピエンス)を神(ホモ・デウス)にアップグレードするだろうと予想します。日経の特集は私たちがまさにその過程にあることを自覚させるのに十分な内容でした。



カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究室でアリソン・ムオトリ教授が培養液を満たした皿に見せた白い物体は、人間の様々な細胞や組織に育つiPS細胞から作った「人工脳」。3カ月前ワシントン大学とカーネギーメロン大学の研究チームは3人の脳を特殊なヘッドギアなどで結び、脳波を通じてテトリスに似たゲームを共同でこなす様子を詳述し、複数の人の脳を安全につなぎ問題解決した初の例とした。脳と機械、そして脳と脳をつなぐブレイン・ネットワーキングの先駆者であるデューク大学教授ミゲル・ニコレリスは「脳同士が会話できれば言語すらも省略できる」と話す。50年の世界人口はおよそ100億人。時間や場所の制約も越え、人類のコミュニケーションや知の探求は速度と広がりを増すと。

ワシントン大学の今井真一郎教授らは老化を抑える長寿遺伝子を突き止め、日本企業が大量生産に成功し一部市販もされている。スタンフォード大学の中内啓光教授はブタの体内で人間の膵臓の作製を目指し、「いずれは生きた臓器同士の交換が始まる」と言う。国際電気通信基礎技術研究所は、二本の手と脳波で第3の腕を同時に操るロボットアームを開発。ロボットベンチャーのメルティンMMIは人間の動きを再現する制御技術と組み合わせ、肉体の一部を機械に置き換えるサイボーグ技術の実現を目指し、「脳さえあれば何でもできる社会」を究極の目標とする。フィンランドのスタートアップ企業ソーラーフーズは、水から水素を取り出して二酸化炭素に混ぜ、バクテリアに食べさせてたんぱく質を作る技術の試作に成功。農業や畜産の資源に恵まれない国でも食糧大国になれる。カナダのカーボンエンジニアリング社は、大型ファンで大気を集めて化学反応などで二酸化炭素を抽出して水素と混ぜてガソリンや軽油、ジェット燃料を作り出す。空気から燃料が作れるのだ。起業家のムハマンド・ヌール氏は仮想通貨の基礎技術であるブロックチェーンにより「国家は丸ごとデジタル化できる。国家に支配されないコミュニティをテクノロジーの力で作る」と語る。スタートアップ企業テレイグジスタンス社はヘッドセットグローブを身につけて体を動かすと遠隔地のロボットが連動する、世界中を自由に「移動」できる技術を開発した。人類を隔ててきた「距離」が消え国境をやすやすと飛び越えられるようになる。






これらの技術が加速度的に開発され実現していき、「超人」と呼ばれる新しい人類が出現していく時代において、今の子供たちにどのような教育が必要となるのでしょう?

「研究室で優秀な学生だなと思い、出身を聞くと『どこどこ高専です』『高専でロボコンやっていました』と答える学生が多い。これまでに研究室には高専出身者が10人ほどいて、本当に外れがなくて優秀だ。高専生は日本の宝だ」と話す、人工知能分野の第一人者ある松尾豊・東京大学大学院特任准教授の言葉にヒントが見つかりそうです(日経産業新聞2018/11/15)。

松尾氏は述べる。「ディープラーニング(深層学習)の研究はロボティクスのような機械などのリアルな世界の方向に進んでいる。自動運転、医療画像、顔認証など画像認識にはイメージセンサーやカメラが必要だ。電気や機械の基礎知識を習得した高専出身者は強みを発揮できる。ディープラーニングを学んでから電気や機械を学ぶよりも、逆の順の方がはるかに簡単で身につきやすい。電気や機械の基礎を学ぶには1、2年はどうしてもかかるが、ディープラーニングはあっという間にできるようになることがある。これからのAI時代の三種の神器は電気、機械、ディープラーニングだ」「高専出身者はとにかくやってみて、結果を私のところに持ってくる。こちらも的確な指導ができて、次のチャレンジにどんどん進んでくれる。いろいろなモノを使えるようにする実装力がある。プロジェクトのリーダーとしてもふさわしい」と。

2020年小学校での必修化に伴い、世はプログラミング教育に浮き立っている感があります。しかし、現実社会はもっと先に進んでいて、求められる能力はプログラミング・スキルだけではありません。トゥルースは、STEM教育を始めてから18年余り、ブロック・サイエンスやロボット・サイエンスでのメカニズムとプログラミングの融合、データロギングの学習、リトル・ダヴィンチでの算数活動や電気の学習、それらとプログラミングの融合など、いろいろな教育的チャレンジを行ってきました。しかもそれらを、21世紀に求められる「社会的構成主義」(視線128回参照)という教育理論に基づき、「ハンズオン」という直接体験型の学びを通して。トゥルースが提供する学びの形は変わりませんが、さらに時代が求める教材とそのカリキュラム開発に全力を注ぎ、邁進していきたいと考えております。本年もよろしくお願いいたします。


人間の定義は技術の進展に応じて変わる。
いま必要なのは、自分自身は何者なのか考えることだ。
― 世界初の完全自律対話型アンドロイドの創造者・石黒浩大阪大学教授 ― 
 

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳
トゥルース・アカデミー