2013年7月20日土曜日

ロボカップ世界大会2013オランダ遠征報告

ロボカップ世界大会2013オランダ遠征報告
-高き目標に向かって勇気をもって挑んでいこう!-


去る6月26日(水)〜30日(日)、世界的な電気メーカー・フィリップ社の創業者の出身地であり、オランダ南部の工業都市アイントホーフェンで、RoboCup2013世界大会が開催されました。私たちを迎えたのは、広がる田園牧畜風景と25年ぶりの寒波。時折雨が降る寒い曇天の毎日でした。

当アカデミーからは、レスキューAプライマリ「neos(ネオス)」、レスキューBセカンダリ「Amalgamζ(アマルガムゼータ)」、レスキューB「Inertia(イナーシャ)」、ダンス・プライマリ「i-Wedding」の4チームが参加。オランダ遠征ツアーには、NPO法人科学技術教育研究会を一緒に運営しているエレファントアリーのダンス・プライマリ「The Samurai Spirit(居合)」と、都立産技高専サッカーオープンリーグ「Gcraud(ジークラウド)」、Co-spaceレスキュー「Ryuu(リュー)」が加わり、ご家族とスタッフを含め36名の大遠征隊になりました。

初日は受付を済ませると、インタビューと調整。インタビューは英語で行われます。ダンスチームには日本人のジュニアOBが審査員に入っていたのですが、レスキューは通訳がつかないことになりました。ここで、ロボットやプログラムの開発が自分たちの手によるものであることを証明できなければ最悪の場合「失格となります。

2日目からいよいよ本番。ダンスは2日目と3日目にそれぞれ1回予選の舞台演技があります。i-Wedding1回目失敗、2回目では最後まで演技をすることができ、TOP10入りし決勝進出を果たしました。4日目の決勝ではうまく演技をすることができませんでしたが、有効なセンサーの使用で受賞することができました。

レスキューは24日目の3日間、毎日3回、全9ラウンドの予選競技が行われます。そのすべてが異なったフィールドレイアウトで行われます。しかも、調整に使用できるのは練習用フィールドのみで本番のフィールドは使えません。日を追うごとに難易度は上がっていきます。銀色の缶を被災者に見立てて救済するレスキューAでは、2012年ルールで行う5GWジャパンオープンまでの国内大会と、2013年ルールで行われる世界大会とではルールが大きく異なる上、昨年より難しいコースだったので、どのチームも苦戦したようです。 Amalgamζはあともう一歩で満点になるラウンドもありましたが、neosと共に8位という結果になりました。ただ、大きなルール改訂で、皆新たなチャレンジ精神を刺激されたようです。一方、迷路を進みながら熱源を被災者と見立てて発見していくレスキューBで、世界大会経験が豊富なInertiaは安定した成績を獲得していき、準優勝に輝きました。


世界大会では国内大会と違って、5日目最終日には他国のチームと組む「スーパーチーム」方式の競技が用意されています。ダンスは審査員の判断によって23チームで編成され、i-Weddingは席が隣で仲良くなったオーストリアのチームと、そして来年世界大会が行われるブラジルのチームと共に「i-Loboticajam」というチームを結成しました。英語での意思疎通は難しかったのですが、それでも身振り手振りを交え必死にコミュニケーションを取ろうとしていました。それでも、このチームはテクニカル・ワールド・チャンピオンという賞を獲得しBest3に入ることができました。


レスキューのスーパーチームは2チーム編成。前々日の夕方にスーパーチームのために特別に用意されたルールと、抽選によるチームの組み合わせが発表されました。今回のテーマは、2台のロボットが何らかの通信手段を使って、一方のロボットが調査結果を伝え、もう一方のロボットがその情報に基づいて行動すること。neosはスウェーデンのチームと、Amalgamζはメキシコチーム、Inertiaはブラジルチームと組みました。neosは、なかなかロボットの動きが相手チームとかみ合わず10位。Amalgamζはパーフェクトを出したものの、僅かなタイム差で惜しくも準優勝Inertiaは、安定した実力と巧みな戦略により準優勝。入賞した2チームは高校生・大学生ということもあって、英語でのコミュニケーションもかなり取れていたようです。


毎日朝早くから夜遅くまで、疾風怒濤のごとく過ぎ去った5日間が終わり、翌日の帰国日には半日の僅かな時間で、慌ただしい観光を楽しみました。アムステルダムの街を巡る運河クルージングを楽しみ、レストランで昼食を取り、国立近代美術館でゴッホやフェルメール、レンブラントの実物の絵画を鑑賞しました。皆の顔には疲れと安堵の色が入り混じっていたように思います。


ほとんどサッカーの試合を見る時間はなかったのですが、大きく競技運営方式が変わりました。これまではスーパーチーム方式が中心だったのですが、個別チームの試合が112試合、スーパーチームの試合が11試合、3日間予選リーグを行って決勝トーナメントを行う形式になりました。試合数は昨年と比べかなり減ったので、多少不満の声も上がったようです。しかし、特筆すべきはスーパーチームの運営です。今までの中で一番大きいサッカーBフィールドの4倍もの大きさのある、とてつもなく大きなフィールドで、なんと5台対5(これまでは2台対2)で戦うのです!ロボカップジュニア史上における従来の常識を覆すようなエポックメイキングな出来事です。これまでには考えられなかった環境でとても苦労していたようですが、参加者たちは大盛り上がり。皆心から楽しんだようです。


ロボカップジュアは世界の教育学者がデザインする唯一の世界的なジュニア向けロボットコンテスト。今回の世界大会で最も強く感じたことは、特にサッカーとレスキューでは企画者の世代交代が始まったのか、実に斬新なアイデアに満ち、ロボカップジュニアが本来向かうべき方向に近づこうとする努力を正しく示したのではないか、ということです。一言で言えば、理念の高さを感じました。しかし一方、ロボカップジュニアが「ペンシル型の発展形態(裾野が広がらずレベルだけが高くなっていく発展の仕方)」になっているのではないかという危惧を感じることも否定はできませんが。

参加した生徒たちは皆無事に帰国することができました。日本で彼らを待ち受けていたのは定期試験(試験期間とぶつかった生徒は追試)。現実は厳しいものです。しかし、その厳しさを十分承知しつつも、自らの挑戦に果敢に全身全霊で挑んでいく生徒たちを私は誇りに思っています。ロボットに向かう情熱と同じだけの情熱を勉学にも注ぎ込んでくれていると信じています。そして、選ばれた数少ない日本代表の一人として味わうことができたこの貴重な体験を人生の糧として、大きく飛躍してくれることを期待しています。

 
トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳
 
【ロボカップ世界大会2013オランダ 結果報告】

■レスキューチャレンジ
<Aセカンダリ>
Amalgam ζ (川端Y・小林A) 個別競技:第8位 スーパーチーム:準優勝
<Aプライマリ> 
neos (浜辺Y・新美S・鈴木Y) 個別競技:第8位 スーパーチーム第10位
<レスキューB>
Inertia (鈴木S・持田S) 個別競技:準優勝 スーパーチーム準優勝
■ダンスチャレンジ
<プライマリ> i-wedding (宮下M・飯山T・戸井田K・末村E・石崎R・高橋R)
ファイナル進出・カテゴリー「センサー賞」 スーパーチームTOP3

 

2013年7月10日水曜日

トゥルースの視線【79回】

自然と文化と歴史の町・箱根でサイエンスキャンプ!
-芦ノ湖のミステリー-

私は箱根が大好きです!古来東海道の要衝であり「天下の険」と謳われ、「東京の奥座敷」とも呼ばれた箱根。ちょっと時間が空けばついつい足を運んでしまいます。箱根と言えば、毎年正月に行われる「箱根駅伝」。1920年に始まり来年は第90回になります。観光地も枚挙にいとまがありません。箱根関所跡、旧街道、元箱根石仏群、大涌谷、芦ノ湖、仙石原湿原植物群落、彫刻の森美術館、箱根ガラスの森、ポーラ美術館、星の王子様ミュージアム・・・。乗り物もケーブルカーにロープーウェイ、山の傾面を登るためジグザグに登るスイッチバック方式の箱根登山鉄道(あじさい電車)と、いろいろ楽しめます。そして、なんと言っても温泉。ハイキングの後に温泉に入れるのは最高です。また、道中富士山が見えるとなぜか嬉しくなります。

今年はNPO法人科学技術教育ネットワーク(NEST)主催のサイエンス・キャンプが、なんと芦ノ湖で行われるのです!しかも湖畔の素敵なコテージに泊まって、ガラス張りの多目的ホールで屋内学習活動ができるなんて!(神奈川県立芦ノ湖キャンプ村)

芦ノ湖は箱根火山の中にあるカルデラ湖(火の活動によってできた大きな凹地に雨水がたまってできた湖)で標高724mに位置し、周囲19km、面積6.9㎢、最深部は43.5mもあります。芦ノ湖が誕生したのは、今から約3100年前に起きた神山の水蒸気爆発による土石流が、当時仙石原に流れていた川をせきとめて、その上流に水がたまり、湖になりました。現在は神山や駒ヶ岳、屏風山、三国山などに囲まれています。

実はこの芦ノ湖、とっても興味深いのです。

まず、湖底の地形芦ノ湖は北西-東南方向に細長い形をしていて、水深30m以上ある湖底が深い帯のようにこれに沿って6km近くも続いています。湖岸から湖底まではV型の急斜面です。有名な「逆さ杉」は、地震による地滑りで湖岸の樹木がこの急斜面をそのまま滑り降りて湖底に沈んだもの。1600年もの間湖底に眠り続けた杉が無数にあり、そのうち直立に近いものが「逆さ杉」で、現在は2本だけ。江戸時代までは水面上に頭を出していたそうですが、明治時代になって湖の観光開発が始まり、遊覧船の航行(大正9~)に危険が出たため先端が切り取られ、今では水上からその姿を見ることはできません。また、キャンプ村近くの早川水門の入り江には、根元が二分された、樹皮さえ残っている巨大な二股杉が直立したまま沈んでいるとのこと。専門家にとっても謎だそうです。

次に湧水。芦ノ湖から流れ出す川で有名なのは早川。流れ込む川は多数ありますが、どれも沢程度で水量に影響していません。芦ノ湖の水量を支えているのが湧水なのです。現在は透明度4~5mですが、明治時代までは16mもあって青く澄んでいたそうです。水がきれい過ぎて、バクテリアやプランクトンが極端に少なく、ほとんど魚が生息する環境になかったとのこと。この湧水が芦ノ湖の自然に今でも大きな影響を与えているのです。

特徴の一つは水温が低く、一年を通して夏冬かかわらず4℃であること。芦ノ湖の湖面が冬でも凍結しないのはこのためです。逆に湖面の水温が27℃になる夏でも湖底では4℃なので、かなりの温度差があり泳ぐには危険です。もう一つの特徴は、湧き出す水量が一定していないこと。湖面と湖底の中間(水深15m付近)には「温度躍層(やくそう)」という温度の境界ができるという珍しい現象が起き、水量が不安定なため境界は絶えず上下あるいは左右に揺れているそうです。このことにより、温水性のブラックバスやコイなどと、冷水性のヒメマスやニジマスが同じ湖に共存するという不思議なことが起きているのです。

遊覧船が渡る華やかな観光の湖・芦ノ湖に、こんなミステリーがあるなんて、とっても素敵ではありませんか?

残念ながらキャンプ期間中に観ることはできませんが、731日~85日は「芦ノ湖夏まつりウィーク」。箱根神社が万巻上人により開かれてから今年で1255年。芦ノ湖の守り神である九頭龍を奉る7/31「湖水祭」を皮切りに、8/1「例大祭」・8/2「御神幸祭」・8/4「龍神祭」・8/5「鳥居焼祭」まで様々な祭事が執り行われます。1000個を超える灯籠が湖上に浮かび、花火も打ち上げられます。お時間があったら、足を運んでみてはいかがでしょうか?

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳