2005年12月1日木曜日

【第13回】人間は「できる」を超えて学ぶ


-レオナルド・ダ・ヴィンチ展を見て-

去る9月15日~11月13日に六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで、「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」が行われていました。人類史上最も偉大な天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)。その真理を追い求めた知の巨人が、研究の集大成として遺した直筆ノート「レスター手稿」が日本で初めて公開され、多くの反響を呼びました。

レスター手稿はダ・ヴィンチ晩年の手稿で、彼が生涯をかけて取り組んだ様々な科学的考察の集大成としてまとめられた極めて貴重な研究ノートです。マイクロソフト社会長ビル・ゲイツ氏が現在の所有者。500年前の最先端メディアである「紙」に、月の満ち欠けや天体の運動などの天文学、水の流動体学や治水などの水力学、そして地殻変動や地球の構造についての地球科学などの考察が精密なスケッチと共に、実に細かい文字、しかも「鏡面文字」でぎっしり書き込まれています。鏡面文字とは、鏡に映さないと読めないという裏返しの文字。なぜダ・ヴィンチが鏡面文字を書いたは未だ謎で、解読防止のためとか左利きだったからなどの説があります。
このレスター手稿、特に数多くの水流のスケッチなど=右写真=を見ていると、『規則性・法則性に対する人間の飽くなき追求心』を強烈に感じました。ダ・ヴィンチがいかに傑出した天才であれ、これは人間誰もが持っている欲求、人間の本能として脳に仕組まれたものではないか、と思わざるを得ません。
今夏行った「ROBOLABサマーキャンプ2005」では、夜の冒険でセミの羽化を観察し、その美しさ、自然の神秘さに驚いていました。その際、大きな蜘蛛を気持ち悪がっていた子供達が、夜、暗い中にライトで照らし出された大きな蜘蛛の巣が規則的な幾何学模様を描いているのを発見し、誰もが「あっ、きれいだ!!」と感嘆の声を漏らし、しばらくその美しさに見入っていました。どうやら人間は、黄金比(1:1.618)に代表されるように、ある一定の規則性や法則性を美しいと感じ、それを現実の混沌の中から見出そうとする、ある種の脳の傾向があるようです。 認知学習論においても、人間は自分及び自分を取り巻く世界について整合性を理解したいという基本的な欲求を持つ存在と捉え、・環境内に規則性を見出そうとする・新しく入ってくる情報を既有の知識に照らして解釈する・新しい情報が既有の知識と整合性を持つかを常にチェックする・抽出した知識を類似の別の場面に積極的に適用する、という脳の働きを学習に生かし、知的好奇心や内発的な興味を刺激することの必要性を説いています。

当アカデミーの根幹であるコンストラクショニズムという教育理論、ハンズオン・ラーニング、オープンエンド・アプローチという教育手法は、このような子供たちの自発的・主体的な学びを実現する強力な武器なのです。 子供は単に事実を発見したり問題を解決することに留ま らず、『理論を作る』ことによって世界がどのように機能しているかを発見しようとする存在である。(カーミロフ・スミス 1988)


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2005年11月1日火曜日

【第12回】オープンエンドアプローチ②


-真の学力とは?CCC(クロス・カリキュラム・コンピタンス)-

OECDの学習到達度調査(PISA)の2003年調査では15歳児の学力を次の4つの観点から調査しています。

(1)数学的リテラシー 
数学が世界で果たす役割を見つけ,理解し,現在及び将来の個人の生活,職業生活,友人・家族・親族との社会生活,建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活において確実な数学的根拠に基づき判断を行い,数学に携わる能力

(2)読解力

自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解,利用し,熟考する能力

(3)科学的リテラシー

自然界及び人間の活動によって起こる自然界の変化について理解し,意思決定するために,科学的知識を使用し,課題を明確にし,証拠に基づく結論を導き出す能力

(4)問題解決能力

問題解決の道筋が瞬時には明白でなく,応用可能と思われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学,科学,または読解のうちの単一の領域だけには存在していない,現実の領域横断的な状況に直面した場合に,認知プロセスを用いて,問題に対処し,解決することができる能力
PISAの「リテラシー」とは、従来の読み書き計算能力ではなく、「成人生活のための知識・技術」を意味します。学校の学習に留まらず、生涯を通じ広くコミュニティとの相互関係を通して獲得されるもの、すなわち、生涯学習者としての基礎が身に付いているかを測定しているのです。
これは、94年に欧州評議会などで、「独立的で責任ある個人の形成」すなわち「責任ある市民の養成」を新しい教育の最大目標にすべきと訴えたことにに端を発しています。また、95年OECDのINESプロジェクト総会(国際教育指標開発の大規模プロジェクト) では、教育の認知的側面だけではなく非認知的側面(忍耐・寛容・批判力・総合力・分析力など)の指標開発の必要性が満場一致で承認されました。そして上記(4)のように、PISAではCCC(Cross Curriculum Competance)として捉えられている問題解決力、批判的思考、コミュニケーション能力、忍耐、自信といった教科の枠を横断した能力こそ大事であり、それを測ることの重要性が提起され、各種の実験が行われてきたのです。
日本では、ゆとり教育が槍玉に上がり、従来の知識注入・作業訓練型に回帰しているようです。また、総合学習の時間を減らし授業時間増加の必要性が議論されています。しかし、OECD加盟国で授業時間が最も少なく、総合学習・グループ学習・プロジェクト学習中心のフィンランドが学力世界一であることを考えると、本当に正しい方向に向かっているのか?疑問を感ぜざるを得ません。従来の基礎基本や学力の概念を捉え直し、21世紀に求められる知識を子供たちが身近に感じ、興味を持って楽しく学ぶことができるような教育システムを構築すべきではないでしょうか?
考えるプロセスに働きかけ、多様な考えを引き出す「オープンエンド・アプローチ」は、教師の高い指導力を必要とする教育手法ではありますが、21世紀の新しい学力観を実現する極めて有効な指導法であると確信しています。
【参考】OECD東京センター新春講演会「OECA/PISA、教育大国フィンランドと日本の課題」(早稲田大学名誉教授・フィンランド科学アカデミー外国会員 中嶋博)
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2005年10月1日土曜日

【第11回】― オープンエンド・アプローチ① ―


真に高度な思考力とは?

これまで当アカデミーの基本教育理念である「コンストラクショニズム」「ハンズオン・ラーニング」についてお話してきましたが、今回は第3の柱「オープンエンド・アプローチ」について。

学習、特に勉強と言うと、与えられた問題に対して必ずたった一つの正しい答えを求めること(クローズド・エンド)が従来も現在も中心です。一方、「オープンエンド」とは目的(エンド)が開かれている(オープン)こと、すなわち、「正解がない」あるいは「多様な正解が存在しうる」という意味であり、「オープンエンド・アプローチ」とは、オープンエンドの課題を設定し、子どもの柔軟な考え方を引き出す指導法を言います。

この指導法の意義は、以下のように考えられています。
①学ぶ力:自ら考えることのできる力を育成できる
②本当の思考:豊かな創造力と柔軟な思考力を育て、思考の質を高める
③学ぶ意欲:主体的な活動を導き、学ぶ楽しさや充実感を感じ学ぶ意欲を刺激する

端的にいえば、「考えるプロセスに働きかけ」「多様な考えを引き出す」指導法なのです。

18歳学力世界1位であり、OECD(経済協力開発機構)のPISA(学力到達度調査)でも読解力と科学的リテラシー1位、数学的応用力3位、問題解決力3位の教育大国フィンランドの授業風景を以前NHKが紹介していましたが、生徒が答えを言うと先生は「答えを聞いているのではない。なぜか?を聞いているんだ」「それは本に書いてあることだろ?先生が聞きたいのは君の考えなのだ」と、あくまで自分の考えや考えた過程を大切にしていることが分かりました。

実社会では答えは一つではありません。中東のような国際紛争などを考えると、答えがない場合の方が多いのかもしれません。多様で複雑な社会で生きていく上において、自ら問い、自らの頭で考え、「自分の考え」を持つことにより、「自立した個人」としての生きる力を育成する必要があるのではないでしょうか?

「若い成人が未来の調整に対処すべく、果たして充分に準備されているだろうか。彼らは分析し、推論し、自分の考えを意思疎通できるだろうか。彼らは生涯を通して学習を継続できる能力を身に付けているだろうか」(2000年OECD報告書「生徒の知識と技術の測定」序文)
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2005年7月1日金曜日

【第10回】RISE科学教育研究会


-新しい科学教育の提言-

今夏、4年目を迎える「こどもロボット研究室」の他、昨年の当アカデミーの活動を拡大したロボコン「サマーチャ レンジ2005」、初めての試みとなる「ROBOLABサマーキャンプ2005」という夏休みの企画を、『RISE(ライズ)科学教育研究会』で主催します。今回はこれまでの流れから少し離れ、『RISE科学教育研究会』について説明いたします。

『RISE科学教育研究会』は2003年1月、第1回ワークショップで、その活動を開始しました。RISEは元々ROBOLAB Institute of Science Education の略。ROBOLABという教材を使用して科学教育の実践を実験的に進めていく日本初の団体としてスタートしました。2002年11月、レゴ教室の中から教育的実績や理念、志の高い関東圏内の3つの教室の代表に私から声をかけ、日本の中でROBOLABという新しい教材を武器にロボット教育の可能性を深く追求し、教育への新しい提言を行う団体を作ろうと提案したところから始まりました。

ROBOLABは単にロボット教育の教材であることに留まらず、各種センサーが取得した様々なデータの分析や解析、そしてグラフ作成を始めとした様々な処理、研究レポート作成、デジタルビデオカメラで取り込んだ画像処理が可能となり、また、インターネットに対応しているため遠隔操作もできる極めて優れたプログラムソフトです。このことにより、教育現場で使用できる幅が格段に広がり、欧米ではこれらのデータロギングを始めとする新機能を利用した授業事例が公に発表されつつありますが、残念ながら日本では現在も全く手のつけられていないのが現状なのです。そのような状況に一石を投じようとしたのが、RISEなのです。しかし2004年第2回ワークショップを開催して以来、RISEオリジナルの活動はしばらく休止していました。というのも、ロボカップジュニア関東ブロック大会運営委員長に私が任命され、RISEの活動はそのほとんどが同大会の運営にエネルギーを注ぐことになったからです。2005年ロボカップジュニア関東ブロック大会・日本大会では全体統括が中島、サッカー・ダンス・レスキューの統括が全てRISE代表メンバーが担当。国内運営基準の作成と実現に貢献し、神奈川・千葉の予選会を立ち上げ、「公平・公正の原則」「教育的観点の確保」をテーマに活動に打ち込みました。その過程で出会った、最大のパートナーである都立高専、そして神奈川県や東京電力、当アカデミーが5年越しで支援してきた杉並区など、理念と活動を共に出来るかけがえのない同士が得られたことは非常に大きな財産を得たと確信しています。

ただ、この間RISEはWEB上での活動は行っていたものの、リアルな場面での活動がなかなか実現できなかったことに対するフラストレーションが募ってもいました。そこで本来の理念に立ち返り、この夏、従来のRISE活動に当アカデミーの活動の拡大、そして新しい企画を加え、オリジナルの活動の礎をしっかり作っていこうと決意を新たにした次第です。

今後は、ROBOLABやロボット、そしてレゴを中心として、しかも、それらの素材に固執せず、幅広く新しい科学教育の実践を行い、日本の教育界に新たな提言を行う団体として活動していきたいと思っております。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
(RISE科学教育研究会:http://www.rise-j.net/)


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2005年6月1日水曜日

【第9回】ハンズオンラーニング②


―レッジョ・エミリア ―

前回紹介した「Multiple Intelligence(多元的知能)理論」を展開するハワード・ガードナー教授は、知能向上の方法としてRich Class Environmentが必須であり、それが強い知能を引き出すとしています。そして、その例として、「レッジョ・エミリア」を挙げています。
レッジョ・エミリア(Reggio Emilia)とは、イタリア北部に位置するエミリア・ロマーニャ州の一都市です。この市によって運営される乳幼児センターと幼児学校で実践されている幼児教育プログラムは、『創造性の教育』として「レッジョ・エミリア・アプローチ(レッジョ実践)」と呼ばれ、1991年に米国Newsweek誌で紹介されて以来、欧米や日本でその制度や教育内容について注目されています。また、子供たちの驚きと発見を絵や言葉で記録した『子どもたちの100の言葉』と題した作品展が世界各地で催され、日本でも2001年(東京)以来各地で開催されています。

その特徴は、「プロジェクト活動」と呼ばれるテーマ発展型の保育にあります。あるテーマに興味を持った幼児が小グループを構成し(通常2~5 人程度)、その集団活動を通して数日から数カ月に渡って時間の経過と共に遊び(探求)を展開する。互いに聞き合い、質問し合い、応答し合う対話を通してテーマに対する興味を発展させるとともに、線画・粘土・立体などの多様な表象メディアを用いて様々な表現活動を行う(これらはGraphic Language:図形的言葉と称されます)。つまり、テーマをめぐる対話と表現の双方が幼児の活動の核となっているものです。
ガードナーは、この教育の持つRich Class Environmentとして、以下の点を挙げています。
・ 学校内が美しく装飾されていること ・ 芸術的な環境が整っていること
・ 授業が教師主体ではなく生徒主体であること
・ 学ぶ姿勢が教室外でも見受けられる教授方法があること
・ 教師が教授法を政府の政策で打ち出されたものに従うのではなく、自ら考えていること
・ ハンズオン・アクティビティが中心となっていること

やはり、ここでもハンズオンの重要性を指摘しています。子供の成長に伴い、まず身体・運動的知能が、次に空間的知能、そして音楽的知能という順で発達すると言われています。ですから、特に幼い頃はハンズオン・ラーニングが欠かせないのです。

レッジョ実践を理論的に支えた故ロリス・マラグッチの詩の一節
子どもは100の言葉を持っている。
(その100倍もその100倍もそのまた100倍も)
けれども、その99は奪われている。(中略)
学校の文化は子どもに教える。
仕事と遊び・現実とファンタジー
科学と想像・空と大地・理性と夢とは
ともにあることができないんだよ。
こうして学校の文化は
100のものはないと子どもに教える。
子どもは言う。冗談じゃない、100のものはここにある。

(佐藤学訳)

【参考】「Progettazione とは何か」中坪史典氏


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2005年5月1日日曜日

【第8回】ハンズオンラーニング①


― 知能の発達とハンズオン ―

これまで6回にわたって「コンストラクショニズム」を扱いましたが、今回は当アカデミーの教育を支える2つ目の柱である「ハンズオンラーニング」についてお話いたします。

「ハンズオン(Hands-on)」とは、文字通り「手で触って」というのが元々の意味ですが、現在では「体験的な」「直接参加の」という意味合いで使われており、「ハンズオンラーニング」とは「具体物を通した、手や体を使った体験的な学び」と言ってよいではないでしょうか。

ハワード・ガードナー教授(ハーバード大学)は、その著書「Intelligence REFRAMED-Multiple Intelligences for the 21th Century」で「Multiple Intelligence(多元的知能)理論=MI理論」を提唱し、ハーバード大学教育大学院では、特長ある教育ツールとして新しい教育の提言を行っています。

MI理論の最大の特徴は、知能は単一の因子では説明できず、現実の社会で見られる様々な行為を司るものとして無数に考えられる知能の候補から7つのものを選び出したことにあります。その7つの知能とは、①言語的知能②論理・数学的知能③空間的知能④音楽的知能⑤身体・運動的知能⑥対人関係知能⑦内省的知能(これに博物学的知能が加えられることもあります)を指します。また、知能は教育され得るものであり変化し成長するもので、ある知能を使うことにより多くの時間をかけるほど、そして、指導と教材が良ければよいほど賢くなると唱えています。

ハーバード大学のあるボストンには「子ども博物館」があり、子ども達が実際に体験したり実験したりできるインターラクティブな展示がひしめき、まさにHands-onの世界で、「なぜ?どうして?」という疑問を抱かせ、その謎解きをするような魅力的なものが多いそうです。ガードナーは、学習のために極めて良い学習環境だと推奨しています。最近では、日本でもHands-onの手法を用いた科学館や博物館が増えているようです。


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2005年4月1日金曜日

【第7回】― コンストラクショニズム⑥ ―


クラス授業におけるコンストラクショニズム(2)

レゴダクタ・コースやハンズオン算数くらぶの授業では、個人作業が多いのですが、決して個別指導ではなく、コンストラクショニズムに基づいたクラス授業としての運営を行っています。学校ではクラス一斉授業を行っていますが、結局生徒は一人一人分断されています。指名されて答えを求められ、正しい答えができなくて悲しい思いをするのは自分一人だけです。コンストラクショニズムは、このようなクラス授業とは全く異なった授業手法を提唱しています。

端的に言えば、「クラスの皆がお互いに刺激し合い、意見を出し合って、生徒たちの力で知識や知恵を高めていく」という運営方法です。もちろん、これは、教師の立案・企画した学びのデザインに沿って、ナビゲーターとしての教師とのやり取りによって知的好奇心や探究心をもって操作活動・創作活動・実験に取り組み、設定した学習目標を目指し行われなければなりません。

一人の生徒の「キラリと輝いたつぶやき」を教師が察知し、クラス全体に紹介したり問題提起をしたりすることが必要です。また、生徒には、(あまり良くない言葉ですが)「盗人根性」が必要です。友達の優れたところを「盗む(パクる)」こと(=模範とすること)が求められます。「学ぶ」とは「まねぶ(=真似する)」が語源となっているのはよく知られています。もちろん、優れた考えやアイデアを最初に提案した人への敬意は忘れてはなりません。

ロボカップジュニアでは、コンピューターソフトの開発におけるオープンソースという考えを援用し、競技そのものだけではなく、プレゼンテーションポスターなどで子供達による情報公開を行い、お互いに優れたものを参考にし合うことを奨励しています。


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2005年3月1日火曜日

【第6回】― コンストラクショニズム⑤ ―


クラス授業におけるコンストラクショニズム(1)

これまで、子供個人個人の学びにおける「コンストラクショニズム」の側面に焦点を当ててをお話してきましたが、実はクラス授業運営の方法論という側面も持っているのです。

構成主義(コンストラクショニズム)的認識論に基づく算数数学教育論・授業構成論を研究する広島大学院・中原忠男教授は、次のように提唱しています。『構成主義の基本的なコンセプトは「子どもたちは算数的知識を自らの構成によって獲得する」というものである。算数の学習を「学習者が主体的活動を通して、算数的知識を構成し、批判し、修正し、そして合意に達したものを協定し、選択していく過程」と捉えている。そして、こうした算数の学習観に基づいて、導入問題を工夫し、表現方法、相互作用、反省的思考を重要な方法論に位置付け、基本的な算数の学習過程として「意識化」「操作化」「媒介化」「反省化」「協定化」の流れを設定している、このような考えに基づく算数教育へのアプローチを「構成的アプローチ」と呼ぶ。』

「構成的アプローチ」とは、①「生きた」知識の学習②文脈に埋め込まれた学習③コラボレーションによる学習、という3つの概念がキーワードとなります。③の「コラボレーション」(「批判し、修正し、協定し、選択していく過程」)は、授業内に生徒同士が互いに刺激し合い、意見を出し合い積極的に行われるものです。実は、この点が、これまでとは全く異なったクラス授業の在り方を示しているのです。

毎年、杉並区主催の「ロボット教室」を担当し、小学3年生から中学3年生までの30人のクラス授業を行っていますが、見学している学校の先生方が、「子供たちがあんなに熱中する姿を見たことがない」と驚かれるのも、コンストラクショニズムに基づくクラス授業を実践しているからに他なりません。

次回は、もう少し具体的に、このクラス授業の在り方をご紹介します。


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2005年1月10日月曜日

【第5回】― コンストラクショニズム④ ―


「なぜレゴは世界一、超天才的なおもちゃなのか?」

世界の人々を魅了したノルウェー発の哲学ファンタジー『ソフィーの世界』(池田香代子訳・NHK出版)。記録的なロングセラー小説となり映画化もされたこの著書の中で著者ヨースタイン・ゴルデルは、レゴを引き合いに出し、紀元前4世紀頃の自然科学者デモクリトスの原子論を説いています。

デモクリトスは、すべては目に見えないほど小さなブロックからできていると考え、この一番小さなブロックを「原子(アトム)」と名づけた。 自然界には無限に多様な原子があり、原子はすべて永遠で、変化せず、分けられない。自然は、原子が組み合わさったり、またばらばらになったりして成り立っている、というのです。

レゴにはこの原子のほとんどすべての性格が備わっており、分けられないし大きさも形もまちまちで頑丈。ありとあらゆる形を作れる。作ったものはばらばらにでき、新しいものをさっきと同じレゴで作れる、とレゴの素晴らしさを紹介しています。

実は教材としてのレゴの素晴らしさの秘密は、作ったものをすぐにばらばらにできる、という点にあるのです。

創造的な行為としての「ものづくり」をテーマにしているのに、「容易に壊せる」ことが長所というのは逆説的に聞こえるかもしれません。しかし、これは前回お話した「推論→実験→検証」という正しい学びのサイクルを実現するためには、教材の特性として不可欠な要素なのです。うまくいかないとき容易にやり直しできなければ、試行錯誤しながら何度も何度もやり直し自分の目指す目標を達成しようという意欲などなくなってしまいます。

木を釘で打ちつけたり、金属を溶接して作ったものを、「うまくいかないからやり直そう」と言っても、大人ならいざ知らず、子供の場合、地獄に突き落とされたように落胆するでしょう。ですから、操作の煩雑さや失敗したときのやり直し(リトライ)のストレスが少なければ少ないほど、子供にとっては優れた教材であると言えます。パパートもデジタルの教材としての良さとして、間違えの箇所をデリートして簡単に直せることを挙げています。ですから、教材は子供の学びを支援する極めて重要な要素なのです。

また紹介する機会もあると思いますが、「ハンズオン算数くらぶ」でも、パターンブロックやキズネール棒、ジオボード、ポリドロンなど、欧米で開発された優れた教材を用い、数学的概念の具体物を通しての学びを実現しています。


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2005年1月1日土曜日

●2005年 新年のごあいさつ


新年明けましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました。

クリスマス会では、生徒やご家族、スタッフを含め総勢350名が参加いたしました。大きなイベント運営に不慣れなこともあり至らぬところも多々あったかと存じますが、楽しんでいただけたならば幸いです。

昨年末、経済協力開発機構の国際的な学習到達度調査、国際教育到達度評価学会の「国際数学・理科教育動向調査」の結果が相次いで発表されました。前者で は、日本は読解力14位、数学的リテラシー6位。後者では、数学的能力6位、読解力11位、科学的能力2位、問題解決力4位と、文科省も「日本の学力は世 界の最上位とはいえない」と深刻な学力低下を指摘。一方で、全国学力テストの実施や土曜授業の容認といった動きも出てきており、公教育の現場では詰め込み 教育への揺り返しも見られます。

文科省がモデルとするイギリスでは「リーグテーブル」と呼ばれる徹底したテスト主義が行われていますが、「カリキュラム内容を狭めている。生徒にストレス を与えている」と考える教師が8割以上、「学力を向上させる。学習の問題点を見つけるのに役立つ」は1割未満。上記調査でも上位に食い込めない状況です。
一方、テストでのランク付けや競争原理を導入していないフィンランドは、18歳学力世界一、上記の調査でも上位を独占。徹底して自分の頭で考えさせる教 育、結果よりむしろ結果に至る過程を大切にする教育を実践している同国の授業風景が以前TVで紹介されていました。

調査の結果を受け、「物事に興味や問題意識を持ち、原理原則を学び、視点を変えたり、論理的に考える作業が楽しい、面白いと多くの児童生徒が実感できてい ないのだろう。子供の興味、関心、考える力をどう養うかという取り組みを省略すると、学ぶ量が増えても知識を注入する『詰め込み教育』になるだけで、何の 本質的な解決にもならない気がする」とは芳沢光雄東京理科大教授(数学・数学教育)のお話。
当 アカデミーでは、レゴやロボットを用いた科学技術教育、ハンズオン算数といった限られた分野ではありますが、魅力的な教材を使って子供たちの知的好奇心や 探究心を刺激し、公式を覚えて運用する学習ではなく、公式や原理を創造的な活動を通して自らの力で発見する学びの場を提供したいと考えています。昨年もロ ボット・サイエンスコースの「サマーチャレンジ」やハンズオン算数くらぶの「アルゴ大会」など新しい学びの機会を企画しましたが、今年もさらに新たなチャ レンジを行い、もっともっと魅力あふれる教室にしていきたいと存じます。 

本年もよろしくお願いいたします。

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