2011年5月1日日曜日

【第60回】科学的リテラシー③

~ 発達の最近接領域 ~

前々回『メタ認知』を基本とした科学教育の必要性をご紹介しました。これは、まさに当アカデミーが実践する『コンストラクショニズム』(視線第2~5回参照)に当たります。では、『メタ認知』を発揮して学習者が自発的・自律的に問題解決に取り組めるようになるには、何が必要なのでしょうか?

アメリカの教育心理学者であり、認知心理学の生みの親でもあるブルーナー(Bruner.J.S)は、学習初期における直観的な曖昧模糊とした考えた学習者を動機付け、その考えを教授者が生かすとき、それは彼らにとって学習への見通しや目的意識を形づくることを指摘し、これを「ヒューリスティック(heuristic)」と名付けました。

前回紹介しました森本氏はこれを援用し、「問題解決の始まりは学者自身が疑問、目的意識、見通しや目的意識等の解決すべき課題をまず意識することであり、それこそが学習者の問題解決の動機になる。この活動が維持されていくと、それは結果として、子どもが常に自らの考えの進捗状況をモニタリングするという活動(メタ認知)へと結びついていく」と述べています。理科教育に置き換えると、「子どもに自然現象にかかわる思いつき、疑問、問題意識をもたせることが、科学的な発見や考察へと導く。そして、子どもの中でこうした活動が少しずつ意識づけられるとき、予想や仮説の形をとる見通しや問題意識として彼らの中に根付いていく。予想→観察・実験→結果→データ処理→考察という巷間指摘される理科における一連の問題解決過程へと子どもを動機付ける重要な要因、それは問題意識、見通し、目的意識であり、観察・実験についての考察の質に影響を与えていく。この過程において、『発達の最近接領域』に基づく『足場作り』によって、子どもの考えが徐々に科学的な内容に変換される」と指摘しています

『発達の最近接領域』とは、「子どもが自力で問題解決できる現時点での発達水準と、他者からの援助や協同により解決可能となる、より高度な潜在的発達水準のずれの範囲」を意味します。これは、「心理学のモーツァルト」とも称されたロシアの発達心理学者レフ・ヴィゴツキーが提唱し、課題設定の方法として当アカデミーでも最も重視している考え方です。また、ロボカップジュニアの大会で私が繰り返し申し上げている「子どもの自律的・自発的な学習をいかに確保するか? そのために、大人はどう関わるべきか?」も、この『発達の最近接領域』を考えれば分かり易いかと思います。

課題設定が子どもの発達水準よりも低すぎれば意味がありません。また、逆に高すぎれば学習意欲もなくなります。大人が無理に水準を引き上げようとすると子どもにとっては苦痛になってしまったり、大人の関与が度を超えて過剰になったりします。要するに、自分一人では解決できないけれど、お友達と意見を交換したり刺激を与え合う中で、あるいは先輩や先生と一緒に考えたり、ちょっとしたヒントやアドバイスをもらったりしながら、自分の力で到達し得るレベルの課題設定をしなければならない、ということです。

先生と生徒のやり取りだけではなく、生徒同士が意見や刺激を交換し合うコラボレーションの中で知恵や知識を高めていく、気付きと発見を積み上げてファシリテーターとしての先生の触媒を介して、自分たちの力で目標に到達するという授業運営を当アカデミーが採用しているのは、この『発達の最近接領域』の考えに基づいているからに他なりません。(視線第7回参照)

次回は、『足場つくり』について、お話しさせていただきます。

【参考資料】『子どもの科学的リテラシー形成を目指した生活科・理科授業の開発』(森本信也・横浜国立大学理科教育学研究会 編著)

To be continue・・・