2022年2月9日水曜日

【第167回】練馬区地域おこしプロジェクト③

 

~ STEM教育の在り方に対する危惧 ~

NPO法人科学技術教育ネットワークとして、令和4年度『練馬区地域おこしプロジェクト』事業企画募集に『練馬発・国際ロボット教育 ― つながろう!教育の輪で』という事業を応募し、「国際的ロボットコンテストを練馬で開催しよう!」という提案をいたしました。1次書類審査が通ったという連絡が年明けにあり、先日10名ほどの専門家の審査員を前に2次審査のプレゼンおよび質疑応答を行ってまいりました。

 

1次審査書類審査に先立ち、練馬区在住の保護者の方々にアンケートをお願いし、通信165回(https://truth-academy.jp/truth-shisen/501)でSTEM教育を望む声をご紹介いたしましたが、一方でその在り方に危惧を抱く方もいらっしゃいました。その危惧にお答えしたいと存じます。

■一般論として、区のプロジェクトに採用された場合に、レベルに高低差のある子供たち相手に、短期で目に見える成果を上げることを求められる(~が出来るようになる、など)と、とにかく詰め込み教育になりがちかなと思います。
■いま国で検討されている内容が、他の教科と同じような詰め込み型の学習になってしまうと、むしろ数学、理科嫌いを助長させてしまうのではないかと、不安。課題解決のツールとして身につけ、活かせるような教育になってほしい。自分たちで手を動かして、課題解決に導く、そんなカリキュラムだと、いいと思う。失敗から学べることも多いことも、身を持って感じられるような…。

 

トゥルースは中学校や高校では毎週1回1年間の授業を行ってきましたが、一方この20年間日本科学館は杉並区科学館等、いろいろな科学館や区との協働事業で、1クラス20~30名の1日~3日の短期講座を行ってきました。私共の使命は、『社会的構成主義』という教育理論(視線128回参照:http://truth-shisen.blogspot.com/2018/04/128.html)の実践と普及にあります。学校の先生始め教育関係者からは「理論と実践が完璧に一致しいている」との評価をいただいており、「問題解決学習とは、こういうことなのか!」というお声もいただいております。指導者向けの著書や雑誌の連載、NESTが運営する指導者向けe-learningサイト「STEMing」でも、その手法を紹介しています。そのため、詰め込み教育に陥ることなく、「Activity Based Learning(子供たちの活動をベースにした学習)」「Project Based Learning(プロジェクト型学習・問題解決型授業) 」「Future oriented Education(未来志向の教育)」を実践するノウハウ、経験は十分にあると自負しております。

■STEM教育に興味を持つ保護者は、教育熱心だと思います。そこで考えられるのが、中学受験との兼ね合いかと。可処分時間を考えて、中学受験の塾よりもSTEM教育を選択してもらうには、STEM教育の結果を見せるのが大切かと思います。中学受験は、学歴という短期の利益を得ることができるのに対し、STEM教育は短期的利益はあまり見込めません。長期的目線でどのような利益があるのかを訴えないと、保護者はお金と時間をかけないと思います。

 

もっともなご意見だと思います。しかし、受験とSTEM教育は両立できないものなのでしょうか?長く通っている生徒しか合格校は分かりませんが、トゥルースに通いながら受験勉強もして、御三家・早慶・国公立を始め優秀な学校に入学している生徒が多いようです。高校や大学の推薦状を依頼されることもあります。ご本人のロボットコンテストでの実績や活躍をしたためた私の推薦状がどれだけの効果があったのかは分かりませんが、全員から志望校に合格したという報告をいただいております。そして、ほぼ100%が理系に進学しています。また、生徒から講師になり、10年~20年トゥルースに関わってきた学生たちは、ロボット・ゲーム・機械・電気・制御関連の専門性を活かした職に就いています。21世紀の三種の神器が「機械・電気・AI」と言われる中、STEM教育を通じて『21世紀型スキル』(視線95回参照:http://truth-shisen.blogspot.com/2015/02/)を身につけた成果であると感じております。また、ロボットコンテストから得られる成果の一つとして、子供たちが将来大人になって社会に出たとき、○○年のジャパンオープンに出たよ、○○年の世界大会に出たよ、というだけで、日本中に世界中に人的ネットワークを手にすることができるということが挙げられます。かけがえのない人生の財産を手にすることができる場でもあるのです。

 

 

ロボカップ2012世界大会 優勝チーム「Amalgam」

 

令和4年度『練馬区地域おこしプロジェクト』の採択事業は2つのみ。難関ですが、練馬を起点としてSTEM教育の輪が全国に広がり、海外との交流も実現できればと願っています。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳