2019年9月8日日曜日

【第142回】メルケル独首相からのメッセージ(その1)

 ~ OECDキー・コンピテンシーとは? ~


OECDが行っている国際的学力調査PISAでは「キー・コンピテンシー(主要能力)」を定義しています。
①社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力 (個人と社会との相互関係)
②多様な社会グループにおける人間関係形成能力 (自己と他者との相互関係)
③自律的に行動する能力 (個人の自律性と主体性)
「変化」、「複雑性」、「相互依存」に特徴付けられる世界への対応の必要性を背景とし、個人が深く考え、行動することの必要性を求めています。深く考えることには、目前の状況に対して特定の定式や方法を反復継続的に当てはまることができる力だけではなく、変化に対応する力、経験から学ぶ力、批判的な立場で考え、行動する力が含まれます。

具体的にはどのような能力を指しているのでしょうか?前回紹介した4/12東京大学入学式で上野千鶴子氏(東大名誉教授・NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長)が行った祝辞では、次のように述べています。ここにヒントがありそうです。
「あなたたちの頑張りを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください」「あなた方を待ち受けているのは、これまでのセオリーが当てはまらない、予測不可能な未知の世界です。これまであなた方は正解のある知を求めてきました。これからあなた方を待っているのは、正解のない問いに満ちた世界です。多様性がなぜ必要かと言えば、新しい価値とはシステムとシステムのあいだ、異文化が摩擦するところに生まれるからです」「未知を求めて、よその世界にも飛び出してください。異文化を怖れる必要はありません。人間が生きているところでなら、どこでも生きていけます。あなた方には、東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています。知を生み出す知を、メタ知識といいます。そのメタ知識を学生に身につけてもらうことこそが、大学の使命です」

また、5/30米ハーバード大の卒業式で行ったドイツのメルケル首相のスピーチは、当時トランプ米大統領と米政権を痛烈に批判する内容としてマスコミに取り上げられました。しかし、その内容は、「希望の6か条」を次世代に託す、とても示唆に富んだ内容です。OECDのキー・コンピテンシーとは何か知る一つの糸口になりそうです。

メルケル氏は1954年に生まれ、生後間もなくドイツ民主共和国(東ドイツ)に移住しました。カールマルクス・ライプツィヒ大学で物理学を専攻し、物理学者になります。そして、1989年ベルリンの壁が崩壊。東西ドイツは統一され、冷戦時代に幕を閉じました。そして、2005年からドイツ歴史上初の女性首相を務めています。彼女のスピーチは、ドイツの作家ヘルマン・ヘッセの「すべての物事のはじまりには不思議な力が宿っている。その力は私たちを守り、生きていく助けとなる」という言葉の引用から始まります。

次回、スピーチの内容をご紹介したいと思います。


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

トゥルースアカデミー
http://truth-academy.co.jp/