2020年10月8日木曜日

【第152回】 日本の教育のICT化「GIGAスクール構想」

 ~ 個別最適化された学び ~

 

今回の新型コロナウィルス感染症により、行政を含め日本のICT化が遅れていることが露呈してしまいました。特に、休業を要請された学校については、文科省の調査によると、一斉休校中オンライン授業を行っていた公立学校は、同時双方向型でわずか5%、授業動画を作ったのが10%だったとのこと。教育における格差も問題となっています。

政府は、「1人1台端末は令和の学びのスタンダード」と銘打ち『GIGAスクール構想』を打ち出しています。この「GIGA」とは、“Global and Innovation Gateway for All”の略、つまり1人1台端末によるオンライン授業は、すべての子どもにとって世界とイノベーションへの入り口となるという発想です。その目的を文部科学省は、「1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たち一人一人に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する。これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図り、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す」としています。教育の情報化に取り組んできた東北学院大学の稲垣忠教授は、「GIGAスクール構想を語るときに、最近は『誰一人取り残さない、個別最適化された学び』という表現が増えてきました。『誰一人取り残さない』には、不登校の子どもたちや、障害のある子どもたち、外国籍の子どもたちなども含まれるはずです。そう考えると、個別最適化は単に教室で子どもが1人1台の端末を使って何をするかということだけが、重要なのではなく、多様性を意識したうえで子どもたち一人一人のニーズに応えていこうとするものであり、もっと広い意味で捉えることが求められます」(総合教育技術2020年6月号)と述べています。

トゥルースも学習塾の時代には、コンピューターの問題データベースからテストや演習問題を作成し、間違えた問題のバーコードを読み取って類題を自動的にピックアップし出題するといった、個別に対応する学習システムを導入していました。しかし、ここで言う「個別最適化の学び」とは、どのようなイメージなのでしょうか?

奈良教育大学大学院教育学研究科の小柳和喜雄教授は、『学習ログ(註:学習履歴)を活用した個別最適化学習の取組の評価に関する試行研究』の中で、「ここで取り上げている個別最適化学習とは、『個人の認知と性向の特性を踏まえた支援を行うために、総合的なエビデンスとして、教育ビッグデータを収集し、分析し、子供の学びの状況を観察し、個々人に応じた学びの実現を支援する方法を用いた学習』を意味している」と述べています。

上智大学総合人間科学部の奈須正裕教授は、警鐘を鳴らします。「ICTで『個別最適化』を進めることには、危うさもはらみます。個別最適化に注目した時に、特にこれから活用されるのは「AIドリル」のようなAIを使った学びでしょう。一人ひとりの解答をAIが分析し、次に取り組むべき問題を自動で出題してくれます。情報を選択するプログラムがどうなっているかは、使う子どもや親、教師には見えない。これって不安じゃないですか。課題は「情報の推奨」です。個別最適化の『最適化』を誰が認定するのか。できるだけ情報をフラットに提供し、何がどう『最適』かは教師や子どもが選択する仕組みにするべきではないでしょうか。ICTだけでなく、いろんな道具を子ども自身が使いこなして、自分に必要な学びを効果的にできるようにする。ICTも『個別最適化』も、主役はあくまでも子どもであることを我々は忘れてはいけません」と。(10/6朝日新聞)

教育のICT化は今や必須であり、ビッグデータやAIの活用も積極的に行わなければなりません。しかし、これらはあくまで子供の学習や成長のための一つのツールです。教育本来の目的を見失わず、このツールを最大限に活かす知恵をこれから築かなければならないことを、改めて認識する今日この頃です。