2019年5月8日水曜日

【第140回】PISAの大人版「国際成人力調査(PIAAC)」②

 ~ ITを活用した問題解決能力は? ~

【第140回】トゥルースの視線

前回、OECDが16歳以上65歳以下の成人を対象行ったPISAの大人版「国際成人力調査(PIAAC)」の、「読解力」と「数的思考力」の結果についてご紹介しました。今回はもう一つの分野「 ITを活用した問題解決能力」の結果をご紹介したいと思います。「ITを活用した問題解決能力」は、情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをし、実際的なタスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツール及びネットワークを活用する能力と定義しています。調査は原則として、パソコンを用いたコンピュータ調査により行われるがますが、以下の場合には、紙での調査を行います。①背景調査において「コンピュータを使った経験がない」と回答した場合 ②コンピュータ調査を拒否し、自ら紙調査を希望した場合 ③コンピュータの導入試験(ICTコア)で「不合格」となった場合。なお、紙調査の場合ITを活用した問題解決能力の調査は行いません。

結果を見ると、日本は、コンピュータ調査ではなく紙での調査を受けた者の割合が36.8%とOECD平均の 24.4%を大きく上回っています。コンピュータ調査を受けなかった者も母数に含めたレベル2・3の者の割合で見ると、OECD平均並み。一方、コンピュータ調査を受けた者の平均点で分析すると、日本の平均点は294点であり、 OECD平均283点を大きく上回り参加国中第1位、60~65歳を除いた全年齢層でOECD平均より高い結果となっています。ただし、16歳~24歳は僅差でしかありません。

問題は、全体のテストをパソコンで受験が可能かを判定する事前テスト(ICTコア)の不合格率は24カ国中最高(10.7%)、パソコンによる回答を拒否した割合が3位(15.9%)だったということです。また、パソコンを使えても、25歳~39歳をピークに、それより若い人たちのスキルが低く、その年齢を超えると下がる一方となっています。レベル3の問題(日本は3位)は、パソコンを使う職場では最低限のスキルだと思われますが、日本人のわずか8.3%しかクリアできていません。そのことから、次のように指摘する人もます。

●パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない。

●65歳以下の日本の労働力人口のうち、3人に1人がそもそもパソコンを使えない。ITを活用できない層が多いという特徴がある一方で、 ITを活用できている層では習熟度が高いという二極化の傾向を示しているのではないでしょうか?PIAACでは、3分野のスキルの直接測定だけでなく、成人のスキル発達の状況、スキルの使用状況、労働市場への参加状況や健康状態、社会的活動等への参加等の背景情報も併せて調査されました。そこで指摘されるのが、以下の点です。

●日本では、読解力・数的思考力のいずれも、低い学歴でも高い習熟度を示す国として特筆されており、学歴の違いによる習熟度の差が小さい傾向が見られた。

●情報処理系スキルに関して、日本は職場での「読解スキル」と「筆記スキル」の使用頻度がOECD平均 より高く、「数的思考スキル」「ICTスキル」「問題解決スキル」の使用頻度がOECD平均より低いという特徴が明らかとなった。

●日本は、自分の学歴と比べて仕事で必要とされる学歴の方が低いと回答した割合が31.1%であり、OECD平均(21.4%)を上回り、最も高い国の一つであった。逆に、仕事で必要とされる学歴の方が高いと回答した割合は8.0%で、OECD平均(12.9%)を下回り、低い国の一つで あった。

特に3点目は、仕事で求められるスキルと自分のスキルが合わない状態で就業するという「スキルミスマッチ」や「スキルギャップ」という問題です。この点について、「仕事で求められる学歴よりも自分の学歴の方が高い人 はスキル習熟度の点数が低く、その学歴の人が本来持つべき習熟度を持っていない」との指摘もあります。もはや「勉強ができればいい、いい大学に入ればいい」というだけの時代は終わりました。今の教育の目的は、「学習者が何をどのように学ぶのか?何ができるようになるのか?」にあります。2000年にTruthが受験指導からSTEM教育に切り替えたのも、まさにこの理由によるものです。


【参考文献】

「PIAACから読み解く近年の職業能力 評価の動向」深町珠由 (労働政策研究・研修機構副主任研究員)

「OECD 国際成人力調査調査結果の概要」 (文部科学省)


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

トゥルースアカデミー
http://truth-academy.co.jp/