2018年9月1日土曜日

トゥルースの視線【第132回】

AIは人間を超えられるのか?(1)
~ AIが東大合格に挑戦(1) ~

 自動車の自動運転、「考える家電」や「宇宙天気予報」など毎日のようにAI(人工知能)という言葉が話題に上ります。AIを利用したビジネスも盛んに興っており、AIが私たちの生活を豊かにしてくれるという新しい希望を与えてくれています。一方、AI研究の権威レイ・カーツワイル博士が提唱した、少なくとも2045年までには人間と人工知能の能力が逆転するという「シンギュラリティ(技術特異点)」が問題となっています。宇宙物理学者(故)スティーブン・ホーキングやビル・ゲイツのみならず世界を代表する人工知能の研究機関も、AIに潜む危険性について指摘をしています。また、「10~20年以内に日本の労働者の約49%の仕事が、ロボットや人工知能の発達により代替できるようになる、単純労働だけでなく専門性などを必要とする職業も機械が行うだろう」(野村総合研究所)のように、AIやロボットに人間の職業が奪われていく可能性もかなり現実のものとなってきています(視線106回)。

 国立情報学研究所教授・新井紀子教授をプロジェクトリーダーとして、「東ロボくん」と名付けられた「AIが東京大学を受験して合格できるか?」という、とても興味深く壮大な実験が行われました。この実験の目的は、AIにはどこまでのことができるようになって、どうしてもできないことは何かを解明し、AIに仕事を奪われないためには人間がどのような能力を持たなければならないかを明らかにするというものです。

 初めて受験した2013年は偏差値45(代々木ゼミナール第1回全国センター模試)だった東ロボくんは、2016年には偏差値57.1(進研模試総合学力マーク試験)まで上昇。国公立23大学30学部53学科と4年制私立大学512大学1343学部2993学科で合格可能性80%の判定。これは、MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)や関関同立(関西・関西学院・同志社・立命館)という難関私立の一部学科も含まれるレベルだそうです。さらに東大2次試験に備えて数学と世界史の2科目だけですが、記述式問題に挑戦。駿台予備校の2015/2016第1回東大入試実践模試の世界史600字の論文では偏差値61.8、代々木ゼミナールの2016年度第1回東大入試プレの数学(理系)では偏差値76.2で全受験生のトップ1%に入る成績をマーク。2016年には東ロボくんは身体を持ち、ロボットアームで記述式問題ではペンを持って解答を書くことができるようになったそうです(その様子はTED‐http://digitalcast.jp/v/25858/ で見られます)。しかし、2016年11月に東京大学合格は実現不可能であり、断念したことを発表しました。

 数学者である新井教授は、AIはまだどこにも存在しない、シンギュラリティは来ない、という立場をとっています。人工知能というからには、人間の一般的な知能と少なくとも同等レベルの能力のある知能でなければならない、しかし基本的にコンピューターがしているのは計算であり、四則演算に過ぎない、と。AIが人間と同等の知能を得るには、人間の脳が意識無意識にかかわらず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換えることが不可欠ですが、私たちの認識をすべて数式に置き換えることはできません。それが今言われているAIの限界なのです。

 しかし、安心はしていられません。教授は2010年に『コンピューターが仕事を奪う』で警鐘を鳴らしています。前述野村総合研究所のレポートのように、今後10年から20年の間に働く人の半数が職を奪われるかもしれない、50%のホワイトカラーがこの短期間で減ってしまうというとてつもない事態が起こると。これからの時代を生き抜くためにはどんな能力が必要か?そのヒントを東ロボくんのプロジェクトが教えてくれています。次回はその内容をご紹介したいと思います。


参考文献:『AI vs.教科書が読めない子どもたち』新井紀子著(東洋経済新聞社)


トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

トゥルース・アカデミー
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