2009年5月1日金曜日

【第44回】発達の最近接領域


― 生徒同士のコラボレーションによる学び ―

 以前、当アカデミーの授業運営について、コンストラクショニズムとの関連から「クラスの皆がお互いに刺激し合い、意見を出し合って、生徒たち自らの力で知識や知恵を高めていくという運営方法」(視線第7回参照)とお話させていただいたことがありました。これは、37歳の若さで世を去り「心理学のモーツァルト」とも称された旧ソビエト連邦の心理学者レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキーの提唱する教育に関する理論『発達の最近接領域』と関連しています。

  ヴィゴツキーは、「子どもは集団活動における模倣(注:教師や仲間とならできること)によって、大人の指導のもとであるなら、理解をもって、自主的にすることのできることよりもはるかに多くのことをすることができる。大人の指導や援助のもとで可能な問題解決の水準と、自主的活動において可能な問題解決の水準とのあいだのくいちがいが、子どもの発達の最近接領域を規定する」と述べています。すなわち、『発達の最近接領域』とは、「他者(=仲間)との関係において、あることができる(=わかる)という行為の水準ないしは領域」のことなのです。

  そして、「共同の中では、子どもは自分ひとりにおけるよりも強力になり、有能になれる。かれは自分が解く知的難問の水準を高くひき上げる。しかし、つねに独力の作業と共同の作業とにおけるかれの知能の相違を決定する一定の厳密に法則的な距離が存在する」「われわれの研究によれば、ある年齢のある段階で発達の最近接領域によこたわっているものは、次の段階で現下の発達水準に移行し、実現するということを明瞭に示している。言い換えるならば、子どもが今日、共同でできることは、明日には独立でできるようになる」というように、協働で成し得たことが個人の力へと転化する(=個人の力を引き上げる)ことになると主張。

  「だが、われわれは次のことをつけたさなければならない。無限に多くのことではなく、かれの発達状態、かれの知的能力により厳密に決定される一定の範囲でのみということを」「発達の最近接領域は、まだ成熟してはいないが成熟中の過程にある機能、今はまだ萌芽状態にあるけれども明日には成熟するような機能を規定する。つまり発達の果実ではなくて、発達のつぼみ、発達の花とよびうるような機能、やっと成熟しつつある機能である」「教育は成熟した機能よりも、むしろ成熟しつつある機能を根拠とする。」と、適切な課題設定の重要性を説いています。

  当アカデミーでは90%は個人の力だけでできるが、残り10%は生徒同士の意見交換や刺激し合うことによるコラボレーションによって解決しうる課題設定を心がけています。そのため、もっと難しい内容をもっと低年齢から扱ってほしいと思われるご父母もいらっしゃるかもしれませんが、年齢の持つ能力からかけ離れたり、異なる能力を要する課題は避けていることをご理解下さい。また、講師はファシリテーター(促進者)として、コラボレーションの質を高め、気づきを誘発し、活動を活性化しなければなりません。ですから、ものづくりの場合講師の目は子供たちの手元に集中しがちですが、あくまで子供の目を見て、その頭の中で何が行われているのかを把握し、ちょっとした目の輝き、つぶやきを逃さないように心がけています。キメ細かく質の高い授業をさらに追求していきたいと思っております。


To be continue・・・