2007年12月1日土曜日

【第31回】生のための学校 「フォルケホイスコーレ」③



― 風車発電と「旅するフォルケホイスコーレ」―

「政府が60万キロワットの原発を一基つくりたいと言うのなら、われわれは風車発電を、かつてのデンマークに存在した数だけ、つまり三万台作ろう。一台20キロワットとすれば、原発と同じ発電量になるではないか。政治家は、そんなことできっこないと言うかもしれないが、それをやって民衆の力を思い知らせてやろう」(フォルケセンター所長ブレーメン・メゴール)

70年代前半のオイルショックによるエネルギー危機により、デンマーク政府は原発の建設を始めようとしました。しかし、あるフォルケホイスコーレが中心となり、国内で激しい反対の声があがります。その学校では、ポール・ラ・クール(第29回参照)にならい、学校全体をまかなえる巨大な風車発電の建設に乗り出したのです。当然、専門家やマスコミは愚かなとこととあざ笑っていました。

自ら土台作り、鉄骨組み、コンクリートの流し込み、スクラップ等の材料集め、クレーン車や発電機は中古品、グラスファイバー加工は工場で見習い労働して学び、その技術を生かしたそうです。学生と教師が一体となり、議論を積み重ね、納得いく形で仕事を進めていきました。その間に、国民のネットワークは広がり、デンマーク中から学生や若者が多数手伝いに来て、当時の市価の何十分の一のコストで1978年に完成。政府や大企業が及ばない、段違いの稼動時間と発電実績を誇っています。これを見習い、各地のフォルケホイスコーレや民間の小企業、個人レベルの地域協同組合が次々と建設を始め、電力会社に自家発電の電気を売る仕組みができたのです。ブレーメン・メゴールは「巨大な資本をどんなに投下しても、机上の計算を当てはめてる大企業や行政のようなやり方では成功するはずがない」と語っています。
一方、「旅するフォルケホイスコーレ」というカリキュラムが、北欧のフォルケホイスコーレに取り入れられています。旅の目的地はアフリカやアジアなど途上国が中心。現実に援助の必要性があり、実際に当事国に役立つことを目的とします。
学期は8ヶ月あり、2ヶ月は旅の準備。行先の気候や食事・慣習等の情報収集、言葉の習得、事前調査、体力づくりから購入した廃バスの整備点検も。旅は4ヶ月。まず、現地のNGOを訪ね実情を把握。そして、識字教育や保健衛生、農耕、灌漑、学校建設等、必要とされる様々な援助を開始。活動を通し、その実情、自身の関わり方や生き方、そして生活の技術を学びます。帰国してからは、その国の現状や必要とされる協力・援助を国内の人々に訴える企画や報告書作りを行います。また後輩へ経験を伝え、アドバイスすることも大事。実践を通し学んだことが、狭い自分の周りだけではない遠い世界の人々の境遇をも自己の問題としてとらえるだけの想像力と共感する力を身につけさせるのです。

11/28朝日新聞の記事に、日本の小中学生は「実験や観察は好きだが、実験結果から考察したり活用したりする力は定着していない」という国立教育研究所の分析がありました。どんなに実験授業を受けても、予定調和的な実験には、知識を与える力しかありません。自らの体験に裏打ちされた知識と正しい科学的なものの見方、実験のプロセスを考える力、批判的思考、問題解決力を育てない限り、単なるサイエンスショーか、本の知識を確認するだけに終わってしまいます。今回紹介した、社会や世界との関連の中で人生経験を積み、自らの肉体と精神を通して生きるために必要な力を学んでいく、フォルケホイスコーレの活動は、大きな示唆を含んでいるように思います。

【参考】『生のための学校』(清水満著:新評論)

To be continue・・・