2020年4月8日水曜日

【第148回】国際的学力到達度調査「PISA2018」-その2

 ~  日本の子供たちの読解力の現状  ~

前回、日本の子供たちの「デジタル読解力不足仮説」についてご紹介しましたが、果たして、本来の意味での「読解力」は低下していないのでしょうか?「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト(視線132回)を行った、『AI vs教科書が読めない子どもたち』の著者・新井紀子氏(国立情報学研究所教授)が、『AIに負けない子を育てる』を昨年9月に出版し、前作同様、日本の子供たちの読解力低下に警鐘を鳴らしています。「読解力低下仮説」も決して看過できる問題ではありません。

新井氏は、一般社団法人「教育のための科学研究所」を立ち上げ、「リーディングスキルテスト(RST)」(https://www.s4e.jp/)を全国展開しています。このテストは、基礎的・汎用的読解力として、知識を問う問題ではなく、「事実について書かれた短文を正確読むスキル」を6分野に分類して設計されています。

① 係り受け解析:文の基本構造(主語・述語・目的語など)を把握する力

② 照応解決:指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する力

③ 同義文判定:2文の意味が同一であるかどうかを正しく判定する力

④ 推論:小学6年生までに学校で習う基礎知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力

⑤ イメージ同定:文章や図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力

⑥ 具体例同定:言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する力

その結果が、「照応」の正答率が中学生6割・高校生7割、「係り受け」は中学生7割弱・高校生8割弱で意味を理解できないAI並み。「同義文判定」中学生6割弱・高校生7割、「イメージ同定」1~2割・高校生3割前後というものでした。鉛筆を転がして選択肢を選ぶ程度のランダムさしか示していない結果もあったのです(視線133回)。

十分なサンプル調査から科学的にわかったこととして、次の5つを上げています。

 1. 高校のRST能力値の平均と高校の偏差値には極めて高い相関がある。

 2. 中学生は学年が上がるに従ってRSTの能力値が全体として上がる傾向がある。

 3. 高校生では、全体としても個人としても、RSTの能力値が自然に上がるとは言えない。

 4. 中学生では個人のRSTの能力値と学力テストの成績には中程度の相関がある。

 5. 中学生の学校外の学習時間(自己申告)とRSTの能力値に相関はない。

 要するに、基礎的・汎用的読解力は、中学3年までは学力が上がるに従って能力値も上がる傾向にあるが、高校生になると上がらない、ということになります。では、新井氏は日本の子供たちの読解力がなぜここまで落ちてしまったと考えているのでしょうか? 氏は、その原因がアクティブラーニングと関係しているのではないかと考えているようです。次回、氏が指摘した問題点をご紹介いたします。

【参考資料】「AIに負けない子どもを育てる」(新井紀子著・東京経済新報社)


トゥルースアカデミー代表 中島晃芳

トゥルースアカデミー
http://truth-academy.co.jp/