~ 科学的リテラシーと社会的構成主義 ~
ICT夢コンテストCEC賞を受賞した『サイエンス・キャンプ2011』の活動概要は、トゥルースの視線第62回をご覧ください。RISE科学教育研究会の活動は、当アカデミーの教育の延長線上にあります。当アカデミーには、ブロック・サイエンス、ロボット・サイエンス、リトル・ダヴィンチ理数教室の3つのコースがありますが、どれも同じ思想の下に運営しております。それは、「科学的リテラシーの育成」と「社会的構成主義に基づく学び」の提唱と実践です。今回の受賞理由は、そこにあると考えております。
視線第50回でもご紹介いたしましたが、「科学的リテラシーの育成」には、データロギングは極めて有効な方法だと思います。日本の子供たちは理科実験が大好きで、理科実験教室も盛況なようです。しかし、一方で実験結果を考察する力が不足していることも指摘されています。決められた材料や器具で決められた手順で実験を行い、予定調和的な結果を求める実験を繰り返しても、考察する力を育てることができないのは当然ではないでしょうか?
データロギングは、各種センサーを用いて電子機器でデータを取ることです。この場合、どのようなセンサーを用い、どこに取り付け、どのような間隔でデータを取るか(サンプリング周期)、いつまでデータを取ればいいか(待ち条件) ― プログラムを組む上で実験の手順を考えなければなりません。また、実験データからこの実験は正しく行われたのか、どのような性質や規則性・法則性が導き出せるかを考えなければなりません。しかも、データグラフは数学のグラフのようにきれいなグラフにはなりません。特異点については、考慮すべきなのか、排除すべきなのかの判断も必要となります。①実験の手順を考える→②実験を行ってデータを取る→③データを考察する、というプロセスが重要となります。
当アカデミーの3つのコースではこれとは異なった方法で科学的リテラシー育成の方法を行っておりますが、データロギングはこれを実現できる、ICTを活用した有効な方法の一つだと考えております。 (科学的リテラシーについては、視線第58~61回をご覧ください)
学力世界一と言われるフィンランドが1990年に教育立国を目指し大教育改革に成功した11の理由の一つに「社会的構成主義」が挙げられています(視線第24回参照)。
「構成主義」とは、当アカデミーの指導方針である「コンストラクショニズム」の訳です。これは、レゴ教育の父であるシーモア・パパート(マサチューセッツ工科大学メディアラボ名誉教授)が提唱してきた教育理論。要約すると、教育とは知識を与えることではなく、子供たちが自らの活動を通して自分の力で知識を獲得し構築できるように、学習の環境を整えたり、学びのデザインをしたり、自分の力で目標達成できるようにファシリテート(促進)したりすることである、という主張です(視線第2~4回参照)。
では、「社会的」とはどういうことでしょう? 勉強は本来一人でコツコツと行うもの ― これは「個人的な学び」です。「社会的な学び」は、友達や先輩、教師という他者との関わりで学ぶことを意味します。意見を交換したり刺激し合ったりして、子供たちの気付きと発見を積み上げて知恵や知識を高めていく学び方あり、「発達の最近接領域」(視線第44・60回参照)を埋める「協働による学び」なのです。
『サイエンス・キャンプ』では、学年の異なる男女を織り交ぜた3~4名のグループを編成し、2泊3日の期間中、活動や生活のほとんどをこのグループで行います。このことにより濃密な人間関係を築き、協力して何かを行うことの良さやチームワークの大切さを学び取ってもらいます。この点がコンテストでは評価されたのではないかと思います。
レゴやロボットを教材とした教育が日本の教育現場で理解されるようになるのに苦節10年かかかり、データロギングというICT科学教育が評価されたことには、ひとしおの感慨があります。しかし、今回の受賞31件の中に科学技術教育にICTを利用した事例は、私たちの他に大阪の学校が行っているロボット教育しかありませんでした。もっともっと様々な事例があってもいいはずですし、評価され推奨されてもおかしくないものも沢山あるのではないかと思っております。
日本の科学技術教育の発展に貢献できるよう邁進しなければならない、と改めて身を引き締める思いでおります。
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教育用レゴブロックや算数ブロック、ロボットなどの教材で学ぶ科学教室トゥルース・アカデミー代表の中島晃芳です。 このブログは、当アカデミーが月に1回発行しているお知らせ「Truth通信」に、2004年より掲載している「トゥルースの視線」をまとめたものです。 科学教育や算数教育、ICT教育、ロボット教育、ロボカップジュニアなどについて私の雑感を書き記しています。ぜひご一読いただければ幸いです。