2010年10月1日金曜日

【第54回】ハーバード白熱授業 (第1回)

~ サンデル教授の政治哲学講義「Justice(正義)」 ~

ご父母の皆様の中にもご覧になった方も多いかと存じます。NHK教育テレビで今年4月4日から6月20日まで放送された『ハーバード白熱教室』(Justice  with Michael  Sandel)は、これまで門外不出だったハーバードの授業が初めてメディアに公開され、多くの反響を呼び起こしています。1000人の学生を相手に繰り広げられるマイケル・サンデル教授の政治哲学の講義は、「正義とは何か?」を問うものです。

学生に難題を投げかけ議論を引き出し、自身の理論を展開するディベート(討論)形式の講義。学生たちに意見を求め、その理由を問うたり、反証を提起してさらにそれをどう思うかを質問したり、反対意見を求めたり。難解だと思われがちな哲学について、具体的な事例や日常的な問題を提起し、鋭く、深く、しかもウィットに富んだ議論が展開される講義は観る者を魅了し、思わずその講義に中に引きづり込まれてしまいます。そして、テレビ視聴者である私たち自身も真剣に考えさせられていまう迫力を持っているのが、その人気の秘密なのでしょう。著書『これからの「正義」の話をしよう:いまを生き延びるための哲学』(鬼澤忍  訳、早川書房)  も40万部を超えるベストセラーになっています。

例えば、次のような問題が提出されます。
・もしもブレーキのきかない車を運転していて、5人か1人か一方を犠牲にするしかないとしたら、あなたはどちらを選ぶか。
・遭難船で全員が死を待つより、多数が生き延びるために1人を殺して食べることは道徳的に許容できるか。
・アメリカは1割の富裕層が富の7割を所有し、富の分配が非常に不平等な社会、これは公正か、不公正か?

この人気を得て8月25日、東大安田講堂で「ハーバード白熱教室@東京大学」が行われ、その講義が9/26ETV特集で放映されました。東大生と一般公募から抽選で選ばれた1000人が参加。政治家や学校の先生、団体役員、看護士、主婦と多彩な人々が集まりました。

第1部は「イチローの年俸は高すぎる?」。イチロー・オバマ大統領・日本人の教師、三者の年俸を比較しながら、富の分配の公正について。果たして、イチローはオバマ大統領の42倍もの年俸に値するのだろうか。さらには東大への入学資格をお金で買うことの是非についの議論。
第2部は「戦争責任を議論する」。現在の世代は、過去の世代が犯した過ちを償う義務があるのだろうか。日本・アメリカそれぞれの戦争責任を今の世代が負うべきかどうかの議論。

これらを通して、「正義とは何か?」という問いに対する伝統的な3つの考え方 ―  ①最大多数の最大幸福(ベンサム) ②人間の尊厳に価値を置くこと(カント) ③美徳と共通善を育むこと(アリストテレス) ―  を学生との議論の中で検証しようという試みを行いました。

サンデル教授の一つ一つの質問は嫌が応にも私たち自身の生き方や人生観をあぶり出します。そして、最後にこう結びます。「哲学は不可能に見える。私の答えは、哲学はある意味不可能だが、決して避けられないものだ、ということだ。我々は毎日その問いに対する答えを生きている。哲学者の問いだ」

<参考>
http://www.nhk.or.jp/harvard/ (NHKのサイト)
http://www.justiceharvard.org/ (ハーバード大学のサイト)

To be continue・・・
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