2010年6月1日火曜日

【第53回】数学的リテラシー③

― 数学的リテラシーを育てるには? ―

筑波大学の清水美憲氏は、以下のように提言しています。
「PISAの枠組みは、数学的リテラシーを身につけるということの意味を、基礎的な知識や概念のリストや技能の単なる獲得としてではなく、身のまわりの状況や文脈の中で事象を数学の眼でとらえ問題を解決することができるようになること、そしてその過程で用いられている数学的方法とその意義を知ることまで含めて考えることの必要性を示唆している。数学的リテラシーを身につけることによって、身のまわりの問題場面で必要な情報を的確にとらえ、根拠をもって判断し、そのような過程を数学的な方法を用いて表現することができるようになる。そして、この一連の過程で用いられる能力は、これからの時代において、ますます重要になる」

「これからの数学教育では、身のまわりの事象に見られるパターンや形の特徴を数学的に探り、量について、また変化のようすについて数学的に読み解き、それらを数学的に表現して把握する力に焦点を当てることが重要である」という、アメリカの数学者リン・アーサー・スティーンの言葉を引用し、数値、表やグラフ、形などさまざまな形式で身のまわりにあふれる情報を数学の眼で正しくとらえて比較・評価し、その解釈に基づいて的確に判断を下す能力の重要性を指摘しています。

そして、「数学の眼で事象を読み解く力の育成」には、以下の3つが必要だと述べています。
①問題の場面における数量の関係を概括的にとらえ、グラフを用いてそれを数学的に表現したり、 数学的に表現された式かやグラフから情報を読みとったりする力の育成。
②表やグラフなどの形で与えられたデータから適切に情報を読み取り、それに基づいて的確に判断を下す力の育成。
③日常生活には、見込みや偶然性、不確実性に関する情報が数多くある。この不確かな事象について判断を行なうこと、そしてその判断の根拠を説明できるようにすること。

トゥルースの視線(第50回)で、データロガーなどを用いた欧米のICT教育に触れましたが、まさにPISA型の学力形成を目指し、科学的・数学的リテラシーを育てる教育を実践しているように感じます。長年数学教育に貢献してきた杉山吉茂氏も、数学教育にテクノロジーを利用して問題解決力を高めることを強く提唱していますが、日本ではなかなかその重要性が理解されず、「これから先の日本を考えると、居ても立ってもおれないほどの焦燥感を感じざるを得ない」と日本の現状を嘆いています。

当アカデミーの算数アカデミーでは、数や形の規則性を発見して数式で表現する活動を中心に行っており、科学アカデミー(エレメンタリ)では、表やグラフ、データロガーの導入により、科学的かつ数学的な眼で事象を読み解く実験を行っています。また、ブロック・サイエンスやロボット・サイエンスでも、算数・数学をものづくりという実践の中で触れざるを得ない場面が多々あります。生徒たちが今まさに行なっている学習が将来の生活と直接的なつながっていることを実感し、道具として数学を使いこなして活動する姿を思い描きながら、微力ではありますが、世界が今目指しているPISA型の学力の育成に少しでも貢献できればと強く願っております。

【参考文献】
『数学的リテラシー論が提起する数学教育の新しい展望』清水美憲(筑波大学)
中学数学の新しいカリキュラム』杉山吉茂(東京学芸大学名誉教授)


To be continue・・・