― 幼児教育学者からの提言 ―
前回は『科学する心』について脳科学者である小泉英明氏の提言をご紹介しましたが、今回は幼児教育学者・秋田喜代美氏からの提言をご紹介します。
秋田氏は「科学する心」を、「一方的に与えられる環境ではなく相手が受け入れてくれ応えてくれる環境(応答的な環境)の中で、それも、座学ではなく行動しながら遊びやくらしを通して育まれる」と捉え、以下の3つのことが重要であると提言しています。
一つめは、教育社会学者のバジル・バーンスタインが唱えている「見えない教育方法」。高等教育になればなるほど教育が細分化され、学習効果の評価がよく「見えやすい教育方法」になるが、その分、身につきにくい知識の剥離現象も起こりやすい。断片的な知識だけで習得すると剥落しやすい。それに対して、幼児教育においては、身体を通して経験の連続性の中で学ぶこと(知の総合化)、知識を中心にして法則・原理を教えるだけではなく学びを身体化することが大切である。環境と一体となった体験を乳幼児期に「遊びこむ」経験を通しておくことが、小学校以上での学習の根になっていく。そうやって興味・関心を育てておかなければ、学校の理科教育でいくら面白い実験をやっても、その場限りのものになってしまって根付かない。
野依良治教授(2001年ノーベル化学賞受賞)も、人間の知恵には体系的に整理された「形式知」と、そうではない「暗黙知」とがあることを述べています。学校で教わるのは「形式知」だが、それだけでは不十分。センス・オブ・ワンダー(Sense of Wonder)をいかに持ち続けるかが大事。小さいときに、十分に自然に触れて土台をしっかりと育んでおかないと駄目だ。科学とは、詰まるところ、とことん根源まで遡って本当かどうかを議論すること。限られた「形式知」では根源に帰れない。自然とは何かということが小さい頃から体に染み付いているかどうか、「暗黙知」の問題である。最近は自分達で根源まで遡ることが難しくなってきており、科学的精神が昔に比べて衰退していると、嘆いています。
二つめは、「経験の連続性」。貴重な科学する経験を一度しただけで子どもの心は育つものではなく、日常生活のなかに科学する芽が習慣として繰り返し培われていくこと、そのための大人のまなざしとの関わりこそが大切。科学する心が育つ良質の「経験の連続性」を保証すること、子どもの経験の質の違いがわかる鑑識眼と実践の知恵をもつことが大人の側に、先生にも親にも必要である。
三つめは、「協働」。乳幼児期の科学が一対一の指導ではなく、親や先生も含めた科学探求のコミュニティによってなされるべきだが、さらに、その体験も友だちと「協働」し関わりながら行うことを通し、自然への親しみや愛着、友だちへの思いやりといった心情や倫理的な心も同時に育んでいって欲しい。感動は感じて動くと言われるように、まさに事物にふれて感じて動く体験こそが『科学する心』の基礎を築いていく。
そのうえで秋田氏は、「科学する心を育てる」とは、「豊かな感性と創造性の芽生えを育む」ことであるとし、『科学する心』を次のように定義しています。
①感動し想像する心
②自然に親しみ驚き感動する心
③動植物に親しみ、命を大切にする心
④ひと・もの・こととの関わりを大切にして、思いやる心
⑤遊び、学び、共に生きる喜びを味わう心
⑥好奇心や考える心
⑦表現し、やり遂げる心
来年4月より開講する「リトル・ダヴィンチ 科学アカデミー」(全校にて開催・年中~小2)では、単発イベントではない継続的な学習、知的好奇心と探求心の基となるセンス・オブ・ワンダーを十分体験できる実験、コンストラクショニズムに基づいた、発見と感動をお友達と共有しながら進める授業を柱としています。『科学する心』を楽しく育てる「科学アカデミー」。詳細は年明け発表致します。ご期待下さい。
【参考文献】『幼児期に育つ「科学する心」』(小泉英明・秋田喜代美・山田敏之編著/小学館)
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教育用レゴブロックや算数ブロック、ロボットなどの教材で学ぶ科学教室トゥルース・アカデミー代表の中島晃芳です。 このブログは、当アカデミーが月に1回発行しているお知らせ「Truth通信」に、2004年より掲載している「トゥルースの視線」をまとめたものです。 科学教育や算数教育、ICT教育、ロボット教育、ロボカップジュニアなどについて私の雑感を書き記しています。ぜひご一読いただければ幸いです。