2009年11月1日日曜日

【第47回】科学する心(Scientific Mind)①


― 脳科学者からの提言 ―

学技術立国を掲げる日本において、OECDの学習到達度調査(PISA)の結果を見るまでもなく(2008/1「新年のごあいさつ」参照)、日本の子供たちの科学に対する興味や関心、学ぶ意欲の低下が問題になって久しいいものの、根本的な解決策が見出せていないように感じます。科学への興味が先進国では低く、途上国では高い傾向に対して、「先進国の子どもたちは、科学情報にさらされることが頻繁で、ある種の麻酔をかけられたような状態です。一方、途上国の子どもたちの科学への期待はとても大きい。『どうして?』『どうやって?』と、Sense of Wonder、すなわち好奇心は尽きない。しかし、先進国では、子どもたちの周囲に関する情報があまりに多く、子どもたちが本来持っているはずの『自然の素晴らしさに深く感動する心』を麻痺させてしまっている」と、子供の教育に力を注いでいる、世界を代表する天文学者ピエール・レナ教授は分析しています。

そのような中、幼い頃から『科学する心』を育む教育の必要性が指摘され、幼稚園・保育園の科学活動を支援する「ソニー教育財団」から出されている『幼児期に育つ「科学する心」』という対談を納めた本には、実に興味深い議論が載せられています。

脳科学者であり、ソニー幼児教育支援プログラムの審査員を務めた小泉英明氏は、『科学する心』とは『素直に感じる心』と捉え、理性や知性を司る大脳新皮質を働かせるためには本能を駆動する大脳の古い皮質から生まれる情動、やる気、パッション、志といったものが不可欠であり、特に小さな時にはこの情動に関する古い皮質の部分と生命を維持する機能を持つ脳幹の部分をしっかり鍛えなければならない、そのためには幼児期から多様な体験を通じて『素直に感じる心』を育んでいく必要がある、と述べています。

また、乳児が手を伸ばしたり、口にものを入れたり、ハイハイしたりする行為を例に、サイエンスは意欲を持って外界に働きかけをしようとする乳幼児期から始まっていることに触れ、「脳は、コンピュータと違って自分の学習によって情報処理の方法論まで獲得していきます。その方法は、自分の知りたい外界に何か変化を与えて、その結果から外界の実態を知っていきます。この方法は、科学者が科学する方法と基本的には同じです。このような視点で考えていきますと、従来考えてきた高等教育の段階にいたらなくても、十分に科学の本質を教育することが可能であると考えられます。多くの優れた科学者が、幼児期の自然のなかでの体験が、今の自分にいかに大切であったかを語っておられます。創造性教育は高等教育の課題と捉えられていますが、本当は幼児期に形成される部分も大きいのではないかと思います」と、幼児期からの科学教育=科学する心を育む教育の必要性を説いています。

小泉氏が挙げる『科学する心』は、次のようなものです。

①自然の素晴らしさに深く感動する心
②真実を率直に認め決してごまかさない心
③偏りや思い込みなしに素直に判断し行動する心
④自然の中に生かされる命を大切にする心
⑤多様性を尊び相手を思いやる心

次回は、幼児教育学者・秋田喜代美氏からの提言を紹介したいと思います。

【参考文献】『幼児期に育つ「科学する心」』(小泉英明・秋田喜代美・山田敏之編著/小学館)


To be continue・・・