2010年4月1日木曜日

【第51回】数学的リテラシー①

― 日本における数学教育の環境 ―


日本の子供たちは数学の知識や技能の面では世界トップクラスでありながら、数学への興味も応用への関心も乏しいことが指摘されています。現実の問題解決のために「数学が役に立つ」と考えるアメリカの子供が7割いることに対して、「数学は役に立たない」と考えている日本の子供が7割を占めているそうです。これは、次の国立教育政策研究所の発表(2004)でも、同様の結果を示しています。
・数学で学ぶ内容に興味がある(日本32.5%/OECD平均53.1%)
・学んだ数学を日常生活にどう応用できるかを考えている(日本12.5%/OECD平均53.0%)
・将来の仕事の可能性を広げてくれるから数学は学び甲斐がある(日本42.9%/OECD平均77.9%)


今日の社会で、数値やグラフ、形など様々な形式で身の回りにあふれる情報を数学の眼で正しくとらえて比較・評価し、その解釈に基づいて的確な判断を下す能力の重要性を疑う人はいないはずです。また、学習者が、今まさに行っている学習が将来の生活と直接つながっていることを実感し、数学を学ぶ意義を見出しながら学習できることが望ましいことも、疑う余地はありません。

なのになぜ、不幸なことに、日本の子供たちは、これほど数学を学ぶ意義や魅力を感じられないのでしょうか?数学教育協議会の小寺隆幸氏は、「学校では『学力』向上が至上課題とされ、結果がわかりやすい計算力などに焦点を当てて、鍛錬・競争・習熟度別授業などで勉強を強いる動きが強まっている」と指摘。東京学芸大学名誉教授の杉山吉茂氏は、さらに手厳しい批判を行っています。「極言するならば、今の数学教育は、入学試験や就職試験のために行われているといっても過言ではない。いろいろなテクニックを素早く用いることができることを求め、わけがわからなくても記憶に頼って、ただ与えられた問題を解決できればよいと考える子供の姿勢。計算力が低下する殻とテクノロジーの導入を極力排除しようとする学校教育界。入学試験しか役に立たない数学ならば、できるだけ数学の内容を少なくしたいと考えている一般の人々。そういう中でも、数学教育のもたらしえくれる教育的価値を少しは実現されているだろうが、それほど多くのことは期待できないでいる」

これまでこの「Truthの視線」の述べてきました、今世界が求める学力と日本が求めている学力との乖離(かいり)が数学教育でも問題となっているようです。次回は、世界が求める「数学的リテラシー」とは、どのようなものか?ご紹介したいと思います。

【参考文献】
『市民としての数学』小寺隆幸(数学教育協議会)
『中学数学の新しいカリキュラム』杉山吉茂(東京学芸大学名誉教授)
『数学的リテラシー論が提起する数学教育の新しい展望』清水美憲(筑波大学)


To be continue・・・