2014年 新年のご挨拶
-グローバル化時代の学力とは?-
東京の元旦は、雪を頂いた富士山の凛とした姿がくっきりと見られ、穏やかに暖かく新年を迎えました。
「新しき年の初めの初春の今日降る雪のいや重け吉事(あらたしき、としのはじめの、はつはるの、きょうふるゆきの、いやしけよごと)」―
大伴家持 ―
明けましておめでとうございます。
昨年12月3日、経済協力開発機構(OECD)は2012年に65カ国・地域の15歳約51万人を対象に実施した学習到達度調査(PISA〈ピザ〉)の結果を公表しました。日本の平均点は、数学的リテラシーが10位(06年)→9位(09年)→7位(12年)、科学的リテラシーが6位→5位→4位、読解力が15位→8位→4位と、どん底だった2006年からV次回復。明るい光が見えてきたようですが、安心ばかりしていられません。今回は数学的リテラシーを重点的に調査した結果、「数学についての本を読むのが好き」という質問に「まったくその通り・その通り」と答えた生徒は17%(シンガポール68%、上海50%、OECD平均の30%)。数学に対する「不安」では、約7割が「授業についていけないのでは」「ひどい成績を取るのでは」と感じていたとのこと。「数学を学ぶことが、人生にどう関連するのか。学ぶ目的を教える教師の能力に原因があるのでは」とOECDのアンドレア・シュライヒャー教育局次長は指摘しています(12/4朝日新聞)。
成長戦略に力点を置くアベノミクス「3本目の矢」で、安倍首相は「成長産業を支える人材を育成することは成長戦略の要」と、教育の重要性を強調しています。文藝春秋12月号で、ノンフィクションライターの藤吉雅晴氏は、『ドキュメント現代官僚論⑤文科省 成長戦略を後押しする「教育改革」』において、迷走し続けた日本の教育行政は今、新たな可能性を見せ始めている、と述べています。文科省の官僚は「成長の最大の資本は、人です」と言い切り、人材育成によって社会を変える、と言っているとのこと。藤原氏はPISAについて次のように紹介しています。「対象を客観視し、熟考して独自の考えで批評せよ。OECDがPISAを実施した目的はここにある。OECDの狙いは、『ポスト産業化時代』のための教育だった。二十一世紀、先進国は成熟社会に突入した。従来型の産業競争を続けても、過去と同じ成長は有りえない。国家の衰退を防ぎ、時代を創造するために必要なのは、新たな価値を生み出す思考力だ。批判的かつ論理的な思考力を養い、独自に表現する―。OECDは『キー・コンピテンス』という概念を打ち立てた。平たく言えば『地頭力』である。一部のトップエリートが時代を担うのではなく、生きる力を教育で養ってほしい」と。
PISAの言う「コンピテンシー(能力)」とは、単なる知識や技能だけではなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用して特定の文脈の中で複雑な要求(課題)に対応することができる力を指します。そして、「キー・コンピテンシー(主要能力)」とは、特に①人生の成功や社会の発展にとって有益
②さまざまな文脈の中でも重要な要求(課題)に対応するために必要 ③特定の専門家ではなくすべての個人にとって重要、といった性質を持つものとして選択された次の3つのカテゴリーが挙げられています。
1.社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力(個人と社会との相互関係)
2.多様な社会グループにおける人間関係形成能力(自己と他者との相互関係)
3.自律的に行動する能力(個人の自律性と主体性)
この枠組みの中心にあるのは、個人が深く考え、行動することの必要性です。深く考えることには、目前の状況に対して特定の定式や方法を反復継続的に当てはめることができる力だけではなく、変化に対応する力、経験から学ぶ力、批判的な立場で考え、行動する力が含まれるのです。その背景には、「テクノロジーの急速かつ継続的な変化」、「自らとは異なる文化等を持った他者との接触が増大することによる複雑性」、「グローバリズムによって創出された新しい形の相互依存」に特徴付けられる世界への対応の必要性があります。PISAは次々回の2018年、「グローバル・コンピテンシー」と呼ばれる、多様な価値観を受け入れ、異質な背景を持つ人と協調する「世界市民」としての能力を測る要素を導入するとのこと。
その意味では、「キー・コンピテンス」を養うのに絶好の活動と言えるのではないでしょうか?「ブロック・サイエンス」や「リトル・ダヴィンチ」でも、コンストラクショニズム・ハンズオン学習・オープンエンドをキーワードに主体的に考え、試行錯誤して自分なりの方法で問題を解決し、自らの言葉で表現できる能力を高める努力を行っております。スタッフ一同、PISA型学力をさらに高める教育の在り方を模索し、実践してまいりたいと存じます。ご期待ください。
本年もご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
私達の手法は特殊です。生徒が学校で学んだことを覚えたかどうかは、あまり重視しません。私達が測ろうとしたのは、知識に基づいて推論する力や、初めて経験する場面で知識を活用する力です。この方法は批判されることもありました。「生徒が初めて見る問題で成績を測るのは不公平だ」と言うのです。でも、その考え方でいけば、人生だって不公平です。人生で試されるのは、学校で学んだ知識ではなく、変化に対応できるか
― 今までにない仕事に適応し、新しい技術を使いこなせるか ― 予想もつかない問題を解決できるか、ということです。
― OECD教育局次長アンドレア・シュライヒャー(TED「データに基づく学校改革」より)―
【参考文献】OECDにおける「キー・コンピテンシー」について(文部科学省HP)
トゥルース・アカデミー代表 中島 晃芳
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