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2021年10月8日金曜日

【第163回】リケジョ(理系女子)は増えたのだろうか?

 

~ 理系のジェンダー・ダイバーシティの実現を! ~

 
日本科学未来館

今年,日本科学未来館に女性の館長が誕生しました。2代目館長となったのは浅川智恵子氏です。初代館長は開館以来館長を務めてきた宇宙飛行士の毛利衛氏。2006年ロボカップ世界大会に出場したトゥルースの生徒たちが毛利館長を表敬訪問したことも遠い記憶となりました。日本人女性として初めてIBMの最高技術職である「フェロー」に務めていた浅川智恵子氏は,事故がもとで中2の時に失明。IBMではインターネット上の情報を音声で読みあげるソフトを開発するなど、視覚障害者の生活を支える機器やサービスの開発を続けてきたそうです。就任にあたり,2030年に向けて「あなたとともに『未来』をつくるプラットフォーム」というビジョンをまとめ,多様な人たちとともにアイデアやイノベーションを生み出す基盤になることを目標に掲げました。「ダイバーシティー(多様性)」と「インクルージョン(包括性)」の重要性を強調しています。 第一歩として、人工知能(AI)を搭載して視覚障害者を誘導する案内ロボット「AIスーツケース」を館内に導入することをめざしているそうです。(9/7朝日新聞)

また,日本の女子高生が留学先のイギリスで,プログラミングコンテストで優勝するという朗報が入りました。菅野楓さん(18才)。2013年,10才からプログラミングを学びはじめ,同年にアプリ「元素図鑑」が当時小学生初となる史上最年少で「U-22プログラミングコンテスト」入賞。2017年、同コンテストで経済産業大臣賞受賞し,さらに未踏ジュ二アスーパークリエーターに認定。2018年、孫正義育英財団1期生に採択され,コンピューティング・スカラシップでイギリスに留学。2019年、アジアのアプリ開発コンテスト「AppJamming Summit」に日本代表選手として出場し、中学生部門2位とMostCreative賞のW受賞。2020年、パックツアーコンサルティングシステムの開発が、未踏IT人材発掘・育成事業に採択され,グローバルサイエンスキャンパス(GSC)全国受講生研究発表会で優秀賞受賞。2021年、イギリス最大の若者向け科学技術コンテスト「The Big Bang Competition 」で優勝(UK Young Engineer of the Year 2021)し,まさに大活躍しています。現在は,自然言語処理などの技術を活用し、言語や文学、旅行など興味分野への研究を続けているそうです。

このように女性の科学技術分野の活躍についてのニュースは最近増えましたが,一方で国内の大学におけるジェンダー・ギャップがなかなか縮まらないという指摘があります。朝日新聞と河合塾による今年度の「ひらく 日本の大学」調査では,女性教員の割合は16%,助教32%,准教授26%。教授18%と,職位が上がるほど女性の比率は低くなり,副学長は15%,学長は13%にとどまるそうです。OECDが9/16に発表した2021年版「図表でみる教育」によると,高等教育で工学・製造・建築を専攻する新入生の女性比率は16%(19年)で、OECD加盟国で最低(平均は26%)。高等教育における女性教員比率は28.4%で、これも加盟国で最低(平均は44.2%)でした。内閣府男女共同参画局が行っている「理工チャレンジ」や,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が次世代人材育成事業として行っている「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」などはあまり成果を出しておらず,女子学生の比率は01年年度調の工学部10.3%・理学部25.3%からこの20年間ほぼ変わっていないようです。

国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の報告では,学習者・家族及び周囲の人・学校・社会が有機的にジェンダー・ギャップの課題に取り組むことが必要であり,特に子どもの段階でSTEM に関する自己効力感(self-efficacy)をつけることが重要であり、そのためには親や周囲の人が偏見や固定観念に基づき否定的な声掛けや行動をせず、STEM への興味を持続するように十分留意する必要がある,と指摘しています。

かなり以前ですが,トゥルースの視線(第76~78回)でも「『リケジョ(理系女子)』の時代到来?」というタイトルの文章を掲載しています。ぜひこちらもご覧ください。

視線【76回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/03/blog-post.html

視線【77回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/04/blog-post.html

視線【78回】http://truth-shisen.blogspot.com/2013/05/blog-post.html

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2013年5月29日水曜日

トゥルースの視線【78回】

「リケジョ(理系女子)」の時代到来?③
-なぜリケジョは少数派なのか?(その2)-


日本の理科教育現場において男女でどのような違いがあるのでしょうか?

小学校から中学1年までの理科実験で「実験で中心的役割をした」と答えた男子は39.9%、女子は20.5%というアンケート結果があります(2004)
また、中学23年生の理科の授業中の行動観察によると、男女混合グループの実験では男子が中心的役割を担い女子は補助的な役割を担っているが、女子だけのグループの場合には女子は積極的である(1997)。生徒自らが課題を設定し実験を計画し遂行する理科における問題解決学習は、生徒の学習意欲を高める効果があるが、男子の場合は挑戦意欲の高まりが顕著なのに対し、女子はグループで協力し学び合うときに学習意欲が高まる (2006)

どうも男女では学ぶモチベーションの源が異なるようです。

では、日常生活での科学的関心や体験に違いがあるのでしょうか?

ノコギリやドライバーを使うなどの工学につながる経験がある女子は男子に比べて少なく、理系志向に影響があるとされている「外遊び」が好きだった女子も少ない(2004)。日常生活の中でのさまざまな科学的な体験の有無をスコア化した結果、「動植物に関する体験」は女子が高かったが、「自然体験」「生活体験」「日常体験」は男子の得点の方が高かった(2004)

河野銀子氏は、こういった体験の乏しさは、女子には危険な行為をさせたくないという周囲の大人の「配慮」によるものと推察されるが、実験器具の扱いに抵抗を感じ、実験で補助的な役割に甘んじ、こうした経験の連鎖が理科に対する消極的態度として習慣化・身体化していくのでないか、と指摘しています。

また、「母親は、将来自分が科学や技術に関わる仕事についたら喜ぶと思う」という男子は28.9%、女子15.8%。父親からの同様の期待に対して、男子31.4%、女子20.7%(2003)。将来子どもが科学技術職に就くことに対する親の期待度にも差があるようです。

しかし、興味深い調査結果もあります。「冷蔵庫やクーラーはなぜ冷えるのか」「CDの音がきこえるしくみ」などの身のまわりの自然や科学に関する事象を16項目挙げ、「詳しく知りたいこと」を選択させた結果、男女差がなかった(2004) 。女子は学校の理科への興味・関心が男子より低いのだが、日常的な科学的事象に対する関心は十分持っているということになります。

これらのことから、女子が理科を好きになり、リケジョに育つにはどうしたらいいかのヒントが得られるような気がします。

・幼いころから道具や工具を使わせ、自然活動などに積極的に参加させる
・女子が安心して学びやすい環境をつくる
・女子が持っている日常に密着した科学的関心を生かす
・協力型の学び合う場をつくる

当アカデミーでも、その方法論を模索し確立していきたいと思っております。ご期待下さい。

【参考文献】
『女子高校生の「文」「理」選択の実態と課題』河野銀子(山形大学地域教育文化学部准教授)


トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2013年4月24日水曜日

トゥルースの視線【77回】

「リケジョ(理系女子)」の時代到来?②
-なぜリケジョは少数派なのか?(その1)-

十数年前でしょうか、当アカデミーが学習塾だった頃、算数が抜群に得意な女の子がいました。
夏休みに行った特別授業では、小6と中3の受験生全員に同じ図形問題を出題するという恒例行事があり、その年は彼女が一番先に正解し、全員の前で解説授業を行いました。

数年後彼女が大学生になった頃、街でその母親と偶然会い、こんな話を聞きました。「ウチでは小さい頃からテレビゲームを禁止していたせいでしょうか?大学生になってもコンピューターに興味がないみたいで・・・。子供に何を与えるか、与えないか、という判断は親としてはとっても難しいことですね」と。

理数教室としての当アカデミーでは圧倒的に男子が多く、国内のロボットコンテストでもその傾向は変わりません。このような現状を考えるとき、前述の母親の言葉が思い出されます。ひょっとして育て方、教育の仕方にリケジョが生まれることを阻む要因があるのではないか?

河野銀子氏(山形大学地域教育文化学部准教授)は、『女子高校生の「文」「理」選択の実態と課題』という論文で、実に興味深い研究結果を発表しています。

「理系女子の約6割が高校時代に専攻を決定しており、その決定は担任や理数系教科などの教師の影響が強い。理系女子は自分だけで専攻を決めるのを逡巡する傾向があるためだ。『女子は文系向き』という社会通念に逆らって理系の世界に飛び込むには、他者からの助言や励まし、ロールモデルを知ることが重要である」と言うのです。

河野氏は、高校での進路選択は生徒の関心と学力で行われるものの、これらは高校になって急に生じるのではなく累積的に蓄積されるものなので、小中学生の理科の学力や関心について言及しています。

PISA(OECD生徒の学習到達度調査)TIMSS(国際数学・理科教育調査)の国際学力調査を見る限り、日本の中学生の科学的リテラシーにおいて、男女間に学力差はない。

■高得点にもかかわらず、日本の子供たちの理科に対する関心や態度が非常にネガティブであり、ネガティブさは女子により顕著である。

■国内の比較的大規模な調査では、中学入学後に女子のネガティブさが好転せず、中1から中2にかけてますます理科が嫌いになっていくことが明らかになっている。

日本の小中学生の女子の理科の学力は男子と変わらないが、理科への関心は男子より低く、その差は学年進行とともに拡大する実態が明らかになったという。一体なぜなのだろうか?

アメリカ大学女性協会(AAUW) のレポートでは、特に数学と理科の授業で、教師から生徒への働きかけにおいて男子生徒に対する期待度が高く男女差がみられる、と指摘している。

イギリスの理科授業に関する研究と実践のプロジェクト(GIST)では、男子が実際以上に男性的に見えるような行動をとることがあり、教師がそれを強化している、と。

科学そのものがもつジェンダー・ディバイス(西洋近代科学が白人男性の価値や行動と親密であること)が学校での科学でも浸透しているため、女子の興味や話し方、学び方が授業で期待されている科学的態度や価値と異なり、そのため女子は周辺に置かれている、というオーストラリアの研究もあるとのこと。

このように、欧米の研究では、理科授業での教師や男子生徒の態度、そして理科という教科の特性自体も、女子が理科に対してネガティブになっていく要因であることを指摘しています。

では、日本の教育現場では、どうなのでしょうか?
次回、その理由をご紹介したいと思います。


トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2013年3月12日火曜日

トゥルースの視線【第76回】


リケジョ(理系女子)の時代到来?①
-期待される理系女性の社会進出-


「リケジョ、カモン!大手メーカー、理系女子採用に力(2/7朝日新聞)
社員が男性ばかりだと考え方が偏りがちになり、新しい発想や製品が生まれにくいので、大手重電や自動車メーカーが大学・大学院で学ぶ理系女子の採用に力を入れている。
三菱重工では、技術系の新卒200名を採用しているものの女子は数%。そこで、今年1月下旬に初めて理系女子向けの会社説明会を開いたとのこと。

「もてもて理系女子、広がる活躍の場」(昨年6/17日経新聞)
かつては生真面目でとっつきにくいようなイメージがあった理系女子も、活躍の場が社会に広がるにつれ、後輩や男性から「かっこいい」とみられ始めている。厳しい就職環境の長期化や人生設計に対する漠然とした不安が「理系」の再評価につながっているのではないか、とその理由を分析。実際、女子の4年制大学進学率が上昇し男女差が年々縮んでおり、高学歴・専門志向が高く、理工系分野を選ぶ女子も増え、2011年度は7.6%が大学院に進学しています。

2011年10月発行の米国の物理化学専門誌「The Journal of Physical Chemistry」に、茨城県立水戸第二高校を卒業した女子学生らの論文が掲載され、理系女子への注目が集まり、各メディアで「リケジョ」の快挙として報じられたのが「リケジョ」の言葉の始まり。今、理系分野での女性の活躍は大いに期待されています。

独立行政法人科学技術振興機構(JST)が運営する女性研究者の活躍促進を図る『男女共同参画』(http://www.jst.go.jp/gender/index.html)には理系女性研究者等のロールモデル集「理系女性のきらめく未来」が掲載されています。その巻頭言「Shaping the Futureで、小舘香椎子・日本女子大学名誉教授は次のように述べています。
「国際競争も一層厳しくなることが予想される中、少子高齢化が急速に進む日本では、女性の能力を十分活用するとともに、活躍の場を作ることが急務です。とりわけ、資源の乏しい日本で、これまでの科学技術創造立国を維持・強化し、多様な視点や発想を取り入れながら発展を続けるために、将来の基盤でもある科学技術の担い手・伝達役として、理系女性への期待がより一層膨らんでいます。大学で学ぶ優秀な理系女性が少しずつ増えてきている中、女性が元気にいきいきと活躍することで、社会全体に活気が生まれていることは、行政、産業界、そして大学・研究機関においても認められてきています。(中略)今こそ従来の考え方や生き方に縛られず、新たな未来の選択とグローバルな活躍にむけて『チャレンジ』しようと思い立つきっかけになることを祈ってやみません。みなさんの未来の夢が、理系分野で学ぶことによって、膨らみ、輝きを増しながら少しずつ形となって実現されていくことを、期待し応援しています。」

以前、ある生徒のお母様が女の子の赤ちゃんを抱えて私にこう言ったことがありました。
「先生、私、この子を絶対に理系に進ませます。日本の文系社会ではまだ、男だから、女だから、というのがあるけど、理系社会だったら速く正確にできさえすれば、そんなことありませんから」と。

トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳