― 日本の教育とどこが違うか ―
「サンタクロースとムーミンの国」フィンランドと、起業家精神教育とは、どこかミスマッチな気がしますが、前回の続きで『バーサモデル』についてお話します。
フィンランドでは日本同様1990年代前半にバブル経済が崩壊し、最大貿易相手国ソ連が消滅。1930年代以降最も深刻な景気低迷を経験しました。そこで、フィンランドは、かつての工業中心の産業から知識産業・「知業」への歴史的転換を試み、成功させたのです。知業とは、ソフトウェア・著作権・情報・デザイン・ブランド・特許・サービスなどの知的財産を中心に付加価値を生む産業構造です。知的財産を創り出すには、何より「創造力」が重要となります。また、知業時代では変化のスピードが速く、変化の質も非連続で予想不可能。変化に対応するためには、内容より方法、判断力、柔軟性、目的指向が必要とされます。そして、学校を卒業しても、一生学び続ける必要があるのです。
そのような状況下、西部バルト海岸のバーサ市で発足した起業家精神教育プロジェクトが「バーサモデル」なのです。バーサモデルは、いわゆる日本で一般に起業家精神と言われる、独自のビジネスをスタートさせて経営するといった「外的起業家精神」ではなく、「内的起業家精神」を目指すものです。
内的起業家精神とは、創造性・柔軟性・勇気・イニシアチブとリスク管理・協調性とネットワーク能力、ものごとを達成するモチベーション、常に学び続ける態度・空想性・豊かな発想・我慢強さを意味します。バーサモデルで重視されているのは、子供の自己効力感(self-efficacy:ある結果を生むために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという確信・自分が努力すれば何ごとも成し遂げることができるという自信)であり、これを就学前からもたせることによって、子供は自尊心(self-esteem)が高く、何事にも諦めない性格を持つようになると考えられています。
そして、以下のことを主眼に置いています。
(1)自分で考え判断させる態度の育成 まず、子供が何事も自分で考え、独自に判断を行い、自分の判断によって引き起こされた結果を受けとめることができるようにさせる。その過程で、何事にもチャレンジし、失敗から新たなことを学ぶ学習態度が奨励されます。また、結果より目的やプロセスが重視されるのです。
(2)学ぶ動機の維持 子供たちが行ったことに対する正確な評価をフィードバックし、他者からどのように評価されるかを正しく理解させることにより、次の学習や活動へのモチベーションを維持させる。また、子供たちが自ら学ぶ学習計画自体に参加することにより、主体的に学習意欲を高め、学習の目的意識を定着させます。チームによるグループの協力作業も奨励されています。
(3)実社会との壁を取り払うこと 学校は閉ざされた環境ではなく、企業・社会・家庭との連携を密にすることによって、子供にとっての学習と社会の関わり、学ぶことの意味を体験させます。そのことで、子供たちには、学校で学ぶことが将来どのように役に立つか、見えてくるのです。
日本は、大量生産時代にマッチさせるために、個性や長所を伸ばすよりも「欠点のない子供」を育てる教育を行い、他人が考えつかない創造性より他人が知識を覚えさせ、用意された正解にいかに速く正確にたどり着くかを競争させてきました。新たな知業の時代に突入した今、教育に何が必要なのか?大いに参考にすべきものがあると感じます。
【参考】
「福祉と経済を両立させる知業時代の教育システ ―幼児期から自己効力感を育てる内的起業家精神教育」(北海道東海大学教授・川崎一彦 |
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教育用レゴブロックや算数ブロック、ロボットなどの教材で学ぶ科学教室トゥルース・アカデミー代表の中島晃芳です。 このブログは、当アカデミーが月に1回発行しているお知らせ「Truth通信」に、2004年より掲載している「トゥルースの視線」をまとめたものです。 科学教育や算数教育、ICT教育、ロボット教育、ロボカップジュニアなどについて私の雑感を書き記しています。ぜひご一読いただければ幸いです。