2024年3月24日日曜日

【第189回】AIとお友達になれるか?

 ~ 問われるAI時代の人間の尊厳 ~

人間が話すような自然な文章を生成できるChatGPTなどの進歩で、「AIと友達になる」という試みが始まっています。1月、来場者が人気コミック・アニメ「邪神ちゃんドロップキック」のキャラクターと、画面越しの会話を楽しむというNTTドコモの技術展がありました。「邪神ちゃんロイド」と名付けられた3Dモデルに話しかけると、音声認識AIで質問を読み込んだ対話型AIが、「まるで邪神ちゃんが言いそうなせりふ」を生成。アニメの音源で学習した音声合成AIを使って、せりふをしゃべる。邪神ちゃんロイドNは、早ければ3月までにドコモが手がけるメタバース「MetaMe(メタミー)」に登場するとのこと。国際電気通信基礎技術研究所の高橋英之・専任研究員は、映像を見た脳の働きを機能的磁気共鳴画像法で調べる実験を通して、「私たちが人間に対して感じる心と、AIやロボットに対して感じる心は、脳のレベルでは大きな差がないのかも知れません」と述べ、人間がAIと友達になれる可能性を示唆しています。一方、先端科学技術のガバナンスに詳しい川村仁子・立命館大教授は、今後は人間社会の仕組みを決めるプロセスにAIの影響が強まる可能性があるため、人間の尊厳に関わることも想定した議論を始めるべきだと警鐘を鳴らしています。人間がAIとどのような関係を結べばいいか?-いよいよ現実的な課題となってきたように感じます。
邪神ちゃんロイドN
「白熱教室」で日本でも有名になった、ハーバード大学政治学教授マイケル・サンデル氏は、「真の問題はAIによって、私たちが現実と仮想の区別を失うかどうかだ。手のひらの中の画面が人間関係やコミュニケーションの中心になっていると、人々のつながりは単にバーチャルなものだと思い込みがちだ。だが実際は、人間であることの意味は生身の現実の人間の存在にある。仮想の存在ではなく、今ここにいる人間と一緒にいて、相手を思いやり、コミュニケーションをとるということだ。実際の友人や祖父母とそのアバターの違いがわからなくなるとすれば、私には人間の真正性(本物であること)が失われるように思える。これは人間性の根幹にかかわる問題だ。だが私たちはこの区別を失うかもしれない。AIが突きつけるこの問いは、平等や民主主義といった価値観をめぐる議論よりも重要なテーマだ」と指摘します。

 最近では、まるで本物の人物と見まがうほどリアルな、生成AIを使ったフェイク動画が大きな問題となっています。政治的な目的で、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマなどの有名人を使ったフェイク動画が作られ、話題となりました。日本でも昨年11月、岸田総理のフェイク動画が拡散されました。一方で、日本の生成AI技術を手がけるスタートアップ企業「オルツ」では、本人の容姿や声だけでなく、答えの内容も似ている、米倉社長始め社員全員のデジタル・クローンを作り、クローンの労働にも賃金を支払っているとのこと。「僕らのクローンは、本人といかに一致しているかというところに焦点をあてています。より人間らしいクローンを作るためには、それが必要なのです」と述べます。デジタルの世界で、人間は永久に生き続け、死後も生きている時の本人と変わらぬ表情で、変わらぬ口調で、その人らしい言葉を発し続けていくことも、かなり現実味を帯びてきたように感じます。

その一方、米倉社長は「物事を決める権限を持っているのは人間で、クローンは一切の権限を持っていない。常に自分のために働くAIというものが何なのかを選別していくことが今後の人間に必要なことだと思います」とも語っています。サンデル教授も、「私たちが発明したはずの道具である技術が、私たち自身や人間であることの意味を変え始めたように感じられることがある。だが私たちの生活や未来は自分たち次第だということを忘れないでほしい。技術を制御できなくなるのは、我々が手放したときだけだ。人間の価値ある目的を達成するために技術をどのように使うべきか』という命題は、どんなに賢い機械も私たちに代わって決めてくれることはないだろう」と。

あくまで人間の主体性と責任が私たち人類の進んでいく方向を決めるのだということを、今生きている私たちが強く意識して、身の周りに急速に増えていくAIと付き合っていく必要があることを実感します。
トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳