~ 月面探査車による月面レース ~
第3次選抜では、相模原キャンパスの宇宙探査実験棟にある「宇宙探査フィールド」が使用されました。宇宙探査フィールドは、約400トンの砂や人工太陽光照明灯が設置されていて、月面をはじめとする天体の表面地形や照明環境を模擬できる施設です。ここで、受験者10名が3チームに分かれて月面探査車(ローバー)を開発・遠隔操作した月面レースが行われ、まさにロボコンそのものなので、とても面白かったです。
各チームには、台車に加え、カメラとセンサーが4つずつ渡され、何をいくつ使うかは自由。製作した探査車を別室から遠隔操作し、模擬月面に設けられた7つのゲートのうち制限時間30分以内にいくつ通過できるか?を競うものです。操縦する別室のPCには、ロボットに搭載したカメラからの映像と、センサーの状態しか見ることができないので、ロボット本体がどこにいるのかを見ることもできません。また、制限時間になった時に探査車はスタート地点に戻っていなければなりません。探査車の設計と組立に与えられた時間は、わずか100分。
Aチームは慎重に、シンプルな構造で確実にミッションをこなす方法を模索。米田さんがリーダーを務めるBチームは、カメラとセンサーを6個使用するつもりで製作していた途中、使用できるケーブルが4本しかないことに気づき、米田さんが別室の試験官に確認し、制限時間を10分延長してほしいと申し出ました。それに対して「タイムキープができていない」と指摘され、それを認めたうえ、5分の延長を要求。結果的には8分オーバーとなりました。諏訪さんがリーダーのCチームは、技術者が2名いるので、2人が話しやすいよう座る位置を変え、フォローに回りました。このチームは7つのゲートをすべて狙うことにしました。
いよいよ1回目のレース。Aチームは着実に4つのゲートをクリアし、スタート地点に戻りました。Bチームは、4つクリアし、残り5分で5つクリアすることを目指しますが、探査車がどこにいるのかが分からなくなり、Cチームの地点に戻ってしまい、失格。Cチームは、電源が切れてスタートできず、諏訪さんが計画変更を提案して、3つクリアして帰還。米田さんは一人失敗の原因を分析していました。
2回目ではルールが変わりました。緊急事態が発生し燃料供給ラインがトラブルで破壊され、3チームで22個の燃料のうち20個以上を獲得して、40分以内に全チームが帰還する―というものです。これは、個別に競っていたチームが力を合わせてミッションを行う、ロボカップジュニアの世界大会で行われている「スーパーチーム方式」と同じで、とても興味深く見ました。
より遠くのゲートを通過する程より多くの燃料を獲得できます。Cチームは多くの燃料を獲得することを目指します。Aチームは辺りが暗く、どこがゲートか見えない状態となりましたが、最悪の状態を想定して取り付けていたセンサーが活き、難局を打破。Bチームは他チームのサポートに回りました。その結果、時間内の全チームが帰還!
この試験の目的は「実施中の行動観察」で、コミュニケーションやリーダーシップ、状況認識、意思決定、問題解決、集団行動における業務遂行能力などを、宇宙飛行士の訓練に従事している専門家が評価したということです。この試験の様子を見て、いくつかの教訓が得られました。
・失敗した時のリカバリーをどうするか?
・リーダーシップの対するフォロワーシップの大切さ
・万が一の事態に備えての安全策の用意(フェールセーフ)
どれも、生徒たちが参加するロボコンにも必要なことだと思います。
米田さんが研修医の頃、先輩からもらったという言葉が印象的でした。「決断とか選択が正しかったのかと悩む時があるけれども、自分の歩んだ道を正しい道にするのは自分だ」と。その言葉を胸に刻み、生きていかなければとつくづく感じました。
トゥルース・アカデミー代表 中島