2022年12月27日火曜日

【第176回】なぜレゴは世界一、超天才的なおもちゃなのか?

 ~ レゴと空間認識能力  ~

2000年にトゥルース・アカデミーがレゴとロボットの教室というSTEM教育を始めて間もない頃、ベッドで哲学ファンタジー小説『ソフィーの世界』を読んでいた時、「なぜレゴは世界一、超天才的なおもちゃなのか?」という一文を目にした瞬間にベッドから飛び起きた思い出があります。

古代ギリシャの自然哲学者デモクリトスの原子論を紹介した一節です。「デモクリトスは、『すべては目に見えないほど小さなブロックが組み合わさってできていて、そのブロックの一つひとつは永遠に変わらない』と考え、その小さなブロックを『原子(アトム)』と名づけました。『自然界には無限に多様な原子がある』、『原子はすべて永遠で、変化せず、分けられない』と彼は考えます。レゴについての問いがあったのは、デモクリトスが考えた原子について理解するのにレゴがぴったりだったからです」と。

2018年と少し古いデータになりますが、レゴジャパンが東京六大学出身者を対象とした「レゴと知育の関連性に関する調査」を実施しました。レゴで遊んだことがある人の割合は、東大67.8%・早稲田60.9%・慶応66.7%・立教69.1%・明治67%・法政67.9%。遊んだことがあると回答した東大生に対し、「レゴが良い影響があったと思う能力」を調査したところ、「集中力」57.6%・「空間構成力・イメージ力」51.5%・「アイデアを膨らませる創造力」51.5%・「目的達成力」48.3%、「柔軟な思考」「論理的思考力」「豊かな表現力」「ひらめきを得る想像力」がおよそ2~3割。ちなみに、「東大に入るための必要な要素は?」という問いには、1位が「集中力」74.7%・2位「論理的思考力」50.6%だったとのこと。

 東大レゴ部の創設者で現役大学院生の時に、日本人初で世界13人目のレゴ認定プロビルダーとなった三井淳平氏は、その著書『空間的思考法―世界が認めた、現役東京大学大学院生の頭の中!』の中で、「算数の平面図形と立体図形は一番得意だったが、図形問題を見るとレゴブロックで試行錯誤したことが多く、図形問題を見ても慌てることはなかった。算数は一つ一つ論理的につめていくパズルのように解いていく点でブロックと似ており、一つ一つのステップを踏んでコツコツ問題を解くということを楽しめた」「立体的な形、いわゆる3Dで考える癖がつき、見たものを頭の中でひっくり返してみたり、自由に動かしてみたりしながら全体像を予測する習慣がついた」と述べています。
 

算数・数学思考力検定で図形問題、特に立体図形が弱い子が見受けられます。小学校では立体図形を学ぶのは高学年になってからです。かつて受験指導をしていた頃、小学高学年になってから空間認識力をペーパーの問題で鍛えようとすることには限界があることを痛感していました。その後、「リトル・ダヴィンチ理数教室」で数量・平面図形・立体図形を各ステップで学ぶこと、数量と図形を融合することを一つのテーマにしてカリキュラムを構築してきましたが、毎回立体図形を扱うことはできません。ブロック・サイエンスでは、レゴブロックの組み立てなので、毎回空間認識力を磨くことができます。
 
 先のレゴジャパンの調査では、レゴ経験者のうちでも、特に「説明書等がなく、ゼロから作るシリーズ」で遊んでいた人の割合は、東大93.9%・慶応92.3%・法政92.1%に達しています。ブロック・サイエンスは年長クラスから組立図を使用します。組立図を見てそっくり作る(平面で描かれた図から立体を構成する)ことで新しい知識を学ぶ、遊んで実験する(正しい実験と観察の習慣をつける)ことでその良さや特長を知る、問題解決学習というテーマに沿ったオリジナル作品を作る(立体を構成する)ことで学んだことをアウトプットする(想像力や創造力を発揮する)というカリキュラム構成になっています。

 LEGOはデンマーク語のレゴLeg Godt(よく遊べ)。手の巧緻性や空間認識力、集中力、論理的思考力、想像力、創造力、問題解決力、比例・反比例や関数などの数学的な知識、力学や物理法則、そしてプログラミングによる制御やデータロギング…楽しく遊びながら身につけていきましょう!
 
トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳

2022年12月15日木曜日

【第175回】コロナ禍が子供たちにもたらした影響

 ~ 不登校・いじめの増加・学力低下 ~


緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置も発出されず、規制のない生活を取り戻しつつあります。しかし、子供の命と健康に配慮し、ロボットコンテストではまだフルスペックでオンサイト開催を行うまでには至っていません。新型コロナ感染症が広がった当初、学校休業やオンライン授業、その後の学級・学校閉鎖の結果が今出始めているようです。

 10/28朝日新聞は「2021年度に30日以上登校せず『不登校』とされた小中学生は、前年度から24.9%(4万8813人)増え、過去最多の24万4940人だったことが文部科学省の全国調査で分かった。初めて20万人を超え、増え幅も過去最大となった。小中高校などのいじめの認知件数も過去最多を更新。文科省は、長引くコロナ禍に起因する心身の不調やストレスが影響していると分析している。不登校の小学生は前年度比1万8148人増の8万1498人、中学生は同3万665人増の16万3442人。不登校の小中学生の増加は9年連続で、1991年度の調査開始以降で最多になった。要因別では「無気力、不安」が最も多く、49.7%(前年度比2.8ポイント増)を占めた」と報じています。低年齢ほどコロナ禍の影響が大きいことが分かります。

 学力の面でもその影響は出始めています。7/28に文部科学省は小6生と中3生を対象にした今年度の全国学力調査の結果を公表しました。4年ぶりに行われた理科で、中3の平均正答率が約17ポイント悪化。学習指導要領の改訂で重視された「探究学習」に関する問題の一部で正答率が低く、指導要領の求める内容に十分対応できていない状況であることが明らかになりました。コロナ禍で、観察や実験の授業が減っていることも明らかになり、同時に実施された学校へのアンケートでは前年度、観察・実験を「週1回以上行った」とする中学校は45.8%で、前回から18.8ポイント減ったとのこと。文科省の担当者は、今回の調査は探究学習を踏まえた出題とし、「教科書にない設定で生徒が対応しきれなかった面がある。先生の指導も生徒に主体的に探究させるところまで踏み込めているかといえば道半ばだ」と分析しています。理科教育に詳しい横浜国立大の森本信也・名誉教授は「実験や観察に伴って仮説を立て、結果を分析することが科学的な探究学習そのもの。機会が減れば、探究の力を問う問題の正答率が低くなるのもおかしくない」と話し、「政府は理系人材の育成を進めるが、実験が減ることでその土台が揺らぎかねない」と危惧しています。

 約40年にわたり小中高の授業の研究を行ってきた秋田大学大学院の阿部昇・名誉教授は、国語、算数・数学、理科に共通する大きな課題として、「記述式設問の正答率から見えてくる『説明力』の弱さ」と「自らの考えを持てない『批判的思考力』の弱さ」を指摘しています。

 算数では、求め方を説明させる問題で、「『どのように求めたのかがわかるように』『求め方を式や言葉』を使って説明することができていない。説明をさせても、その説明にはどういう要素が必要なのか、逆にその説明のどこに不十分さがあるかを子どもたちに意識させる授業はまだ少ない。とくに理科の実験を説明する際に、数値がない述べ方では説明になりえていないという指導が、普段の授業で十分にされていない」と説明力不足の原因を指摘。「普段の授業でさまざまな対象・事象について問題点や不十分な点を発見したり指摘したりしながら、その改善の方法を多面的に見つけ出すという学習が弱いことと関連し、これからは批判的な考察・読解の授業を各教科で積極的に取り入れていく必要がある」と述べています。

では、このような課題を克服するには同氏らいいのでしょう?文科省と国立教育政策研究所が今回の調査についてまとめた「全国学力・学習状況調査報告書」には、質問紙の結果と正答率のクロス分析が載っていますが、それを見ると「課題解決型授業」「対話型の授業」を受けている子どものほうが全体として正答率が高いが分かります。阿部教授は、「対話型・探究型授業では質の高い思考力が育っていく。『説明力』『批判的思考力』さらには『多面的な考察力』『メタ認知力』を育てることが可能となるのはそのためである。これからの授業では、こうした課題解決を軸とする対話型・探究型が主流となることは間違いない」とその重要性を説いています。

 Truthの授業はすべて対話型であり、問題解決学習やロボットコンテストは正に課題解決型です。通う生徒たちが皆生き生きとし、長年通った生徒たちの多くはロボコンでも実績を挙げ、進学でも就職でも自らの人生を切り拓いていく力を身につけていると確信しています。今後さらに、教育理論「コンストラクショニズム」に基づいた教育の普及を図り、コロナ禍の呪縛から子供たちが解放される一助にならなければ、という使命感を改めて強く感じます。
トゥルース・アカデミー代表 中島晃芳